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まいにち易経_0223【柔順の剣、時を超える覚悟】内文明にして外柔順、もって大難を蒙る。文王これをもってせり。[36䷣地火明夷:彖伝]

彖曰。明入地中明夷。内文明而外柔順。以蒙大難。文王以之。利艱貞。晦其明也。内難而能正其志。箕子以之。

彖に曰く、めい地中に入るは明夷なり。うち文明にしてそと柔順、以て大難をこうむる。文王これを以てす。艱貞に利ありとは、その明をくらくするなり。内難ないなんあってくその志しを正す、箕子きしこれを以てす。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日は、皆さんに「地火明夷」という卦についてお話ししたいと思います。この卦は、暗闇の中に明かりが差し込むという状況を象徴していますが、その明かりを隠して生きなければならない時期を示しています。皆さんがこれからリーダーとして歩んでいく中で、必ずと言っていいほど経験する「試練の時」について考えるのに、とても役に立つ教えです。

明夷の物語:文王の柔順
まず、この「地火明夷」の卦の中でも、特に注目したいのは、周の文王の話です。彼は、大いなる徳を持つリーダーでしたが、その善行が逆に大きな困難を引き寄せました。殷の紂王という暴君がいた時代、文王は彼に逆らわず、柔順に従いながらも、自分の内に徳を隠して耐え忍びました。紂王は酒池肉林という贅沢三昧の生活をしていたことで知られている悪名高い人物でしたが、文王はこの時代に反発するのではなく、自分の力を内に秘め、時が来るのを待ったのです。

「柔順を貫く」というのは、弱々しいという意味ではありません。それは、逆境の中で自分の芯を曲げず、騒ぎ立てずに耐える力です。皆さんも、リーダーとして、必ず何かしらの障害や批判、反発に遭う時が来るでしょう。その時、どう対応するかが重要です。時には文王のように、表面上は静かに見えても、心の中では自分の信念をしっかりと持ち続け、時が来るのを待つことが求められます。

文王の教え:内に光を隠す
「地火明夷」は、光を内に隠し、暗闇の中で明るく生きるための知恵を示しています。リーダーというものは、常に自分の正しさや力を外に向けて示すべきかというと、そうではありません。時には、自分の力を見せないことも戦略になります。例えば、皆さんがチームを率いる時、問題が起こった場合、リーダーとしてすぐに自分の意見を出すのではなく、少し様子を見て他の人たちがどう動くかを観察することも重要です。文王のように、「自分の内に光を隠し、静かに時を待つ」ことが、リーダーシップには不可欠です。
これは「柔順を貫く」という考え方ともつながっています。表面的には妥協や退却のように見えるかもしれませんが、実際には長期的な戦略を考えた結果、表に出さないだけなのです。人を率いるためには、短期的な勝利ではなく、長期的な成功を見据えた柔軟さが必要です。

苦しい時期をどう乗り越えるか
文王の話にはもう一つ重要な教訓があります。それは、苦しい時期にどうやって自分を保つかということです。皆さんがリーダーとして進んでいく道のりには、必ず暗闇のような時期が訪れます。それは、思い通りにいかないプロジェクトや、信頼していた人が離れていくこと、あるいは外部からの厳しい批判などです。そのような時、感情的になったり、焦って判断を下すことは避けたいところです。文王のように、内に光を隠し、静かに待つことができれば、いずれ状況は好転するでしょう。

また、明夷の卦が教えてくれるのは、単に待つだけではなく、その間に自分の力を磨くことも忘れてはいけないということです。周囲がどんなに暗く見えようと、自分の内側では鍛錬を怠らず、次に訪れる光の時を迎えるための準備をするのです。これは、スポーツ選手がオフシーズンに体力を鍛え続けるようなものですね。試合がないからといって怠けてしまうと、いざ試合が始まった時に力が出せません。リーダーも同じで、今は成果が見えなくても、次のチャンスに備えるための努力を続けるべきです。

リーダーとしての「柔順」とは
リーダーシップの中で「柔順」をどう解釈するか、これは非常に難しい問いかけですが、私の経験では、「柔順」とは自分の感情やエゴに振り回されず、冷静に判断を下す力だと感じます。リーダーになると、どうしても自分が表に立って物事を推進しなければならないように感じます。しかし、状況によっては一歩引いて、他の人たちの意見や行動を見守ることも重要です。文王が示した「柔順」の例は、現代のビジネスやリーダーシップにも応用できる知恵だと思います。

例えば、皆さんがリーダーとしてプロジェクトを進める中で、どうしても納得のいかない決定や状況に直面することがあるでしょう。その時、感情的に反発してしまうと、かえって状況を悪化させてしまうことがあります。ここで「柔順」という考え方が役に立ちます。リーダーとしての強さは、何も常に前に進むことだけではなく、必要な時には後ろに引くことも大切です。

まとめ
「地火明夷」という卦は、暗い時期にどう自分を保つか、そしてどう未来に備えるかを教えてくれます。文王のように、逆境の中でも自分の内なる光を消さず、柔順を貫くことができれば、必ず次のチャンスが訪れます。皆さんも、リーダーとしての道を歩む中で、表に出すべき時と内に秘めるべき時を見極め、長期的な成功を目指していってほしいと願っています。


参考出典

柔順を貫く
地火明夷の卦は、明をくらます時を説く。正しい行いを貫こうとすれば迫害に遭うような時である。
周の文王は大いなる徳を持つがために大きな禍を蒙った。酒池肉林で知られる殷の紂王によって幽閉されたのである。
しかし、文王は明徳を内に隠し、争おうとせず、艱難の時に逆らわずに柔順を貫いた。そして後に逃れ得て、殷を倒したのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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