まいにち易経_0828【炎に焼かれた過信の代償】突如それ来如たり。焚如たり、死如たり、棄如たり。[30䷝離為火:九四]
九四。突如其來如。焚如。死如。棄如。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
古代中国では、火は神聖なものであり、祭りや儀式の中心にありました。火を扱うことは非常に重要な技術とされ、火を上手にコントロールできる者は尊敬されました。火の管理は慎重でなければならず、それができなければ大きな災害を引き起こす可能性がありました。
さて、九四の文章を見てみましょう。
「突如其來如。焚如。死如。棄如。」
これは、「突然やってきて、焼かれて、死んで、捨てられる」という意味です。聞いただけでは少し不気味に感じるかもしれませんね。でも、これは実は私たちの人生や仕事において、非常に重要な教訓を含んでいるのです。
この言葉は、よく「飛んで火に入る夏の虫」という諺で例えられます。夏の夜、明るい光に誘われて飛んでくる虫たちを見たことがあるでしょう。彼らは光に魅了されて近づきますが、その結果、熱で焼かれてしまうことがあります。
これを私たちの人生や仕事に置き換えて考えてみましょう。才能や能力があることは素晴らしいことです。しかし、その才能を正しく使わなければ、かえって自分を傷つけることになるかもしれません。
例えば、新しいプロジェクトを任されたとします。自分の能力に自信があるあまり、周りの意見を聞かずに突っ走ってしまう。そして、予想外の問題に直面して、プロジェクトが失敗に終わる。これは、まさに「突然やってきて、焼かれて、死んで、捨てられる」という状況に似ています。
ここで大切なのは、「陰の徳」という考え方です。これは、目立たない場所で支える力、謙虚さ、協調性といったものを指します。火は何かに付くことで燃えます。つまり、周りのサポートや環境があってこそ、私たちの才能も輝くのです。
若い頃の私も、自分の才能を過信して失敗したことがあります。大企業の経営者として、新規事業の立ち上げを任されたときのことです。私は自信満々で、社内の反対意見を無視して突き進みました。結果、市場のニーズを見誤り、大きな損失を出してしまいました。まさに、火に飛び込んだ夏の虫のようでした。
この経験から、私は謙虚さと協調性の重要性を学びました。どんなに才能があっても、一人では成し遂げられないことがたくさんあります。周りの人々の知恵や経験を尊重し、チームワークを大切にすることで、初めて大きな成功を手にすることができるのです。
ここで、もう一つ興味深い例を挙げてみましょう。皆さんは「ハチドリのひとしずく」という物語をご存知でしょうか?南米に伝わる民話です。
森が火事になったとき、小さなハチドリが嘴に水を含んで、一滴ずつ火の中に落としていきます。他の動物たちは「そんな少しの水では何の役にも立たない」と言いますが、ハチドリは「私にできることをしているだけです」と答えます。
この物語は、一人ひとりの小さな行動が、大きな変化を生み出す可能性があることを教えてくれます。同時に、謙虚に、でも確実に自分の役割を果たすことの大切さも示しています。
『離為火』の教えも、このハチドリの物語と通じるものがあります。自分の才能を過信して突っ走るのではなく、周りと協調しながら、着実に前進することの重要性を説いているのです。
さて、ここで皆さんに考えていただきたいことがあります。自分の強みは何でしょうか?そして、その強みを活かすために、どのような「陰の徳」が必要だと思いますか?例えば、論理的思考力が強みだとしたら、それを活かすために必要な「陰の徳」は、他者の意見を丁寧に聞く力かもしれません。
また、自分の才能を燃やしすぎて、周りとの調和を乱してしまった経験はないでしょうか?そのときどうすれば良かったと思いますか?
リーダーとしての道を歩んでいく皆さんにとって、この『離為火』の教えは非常に重要です。才能があることは素晴らしいことです。しかし、その才能を正しく、効果的に使うためには、謙虚さと周囲への配慮が必要不可欠なのです。
最後に、私の経験からひとつアドバイスをさせていただきます。毎日、自分の行動を振り返る時間を持ってください。その日、自分の才能をどのように使ったか、周りの人々とどのように協力したか、そして何を学んだかを考えてみてください。この習慣が、皆さんを優れたリーダーへと導いてくれるでしょう。
リーダーシップとは、単に前に立って指示を出すことではありません。周りの人々の力を引き出し、チーム全体で大きな成果を上げることです。そのためには、自分の才能を理解し、それを適切に使いこなす智慧が必要です。
『離為火』の教えは、まさにこの智慧を私たちに示してくれています。才能という「火」を、周りとの調和という「陰の徳」でコントロールする。これが、真のリーダーシップの姿なのです。
参考出典
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