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まいにち易経_0129【困難を悦びに変える、心のリーダーシップ】説びてもって民に先立つときは、民その労を忘れ、説びをもって難を犯すときは、民その死を忘る。[58䷹兌為澤:彖伝]

彖曰。兌。説也。剛中而柔外。説以利貞。是以順乎天而應乎人。説以先民。民忘其勞。説以犯難。民忘其死。説之大。民勸矣哉。

彖に曰く、兌は、えつなり。剛中にして柔外なり。説んで以て貞しきに利あり。ここを以て天に順って人に応ず。説んで以て民に先立つときは、民その労を忘る。説んで以て難を犯すときは、民その死を忘る。説の大いなる、民すすむかな。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「兌為澤」という言葉の意味からご説明しましょう。「兌」は喜びや楽しみを表し、「澤」は水がたまった場所、つまり沼や池を意味します。ですから、この言葉は「喜びが池のように広がる」というイメージを持っているんです。

さて、皆さんは「本当の喜び」って何だと思いますか? テーマパークで遊ぶことでしょうか? それとも、高級レストランで美味しい料理を食べることでしょうか? もちろん、それらも喜びの一つですが、易経が教えてくれる「本当の喜び」はもっと深いものなんです。

易経によると、真の喜びとは、困難に立ち向かい、それを乗り越えていく過程にあるそうです。驚きましたか? 実は、人間には「困難を克服する喜び」が本能的に備わっているんですよ。

例えば、皆さんは山登りをしたことがありますか? 登っている最中は大変でしょう。足はパンパンになり、息は切れ、「もう無理だ」と何度も思うかもしれません。でも、頂上に着いたときの達成感はどうでしょう? あの喜びは何物にも代えがたいものではないでしょうか。

ビジネスの世界でも同じです。新しいプロジェクトを始めるとき、様々な困難に直面するでしょう。予算の問題、人員の問題、予期せぬトラブル...。でも、それらを一つ一つ乗り越えて、プロジェクトが成功したときの喜びは格別なものです。

易経は、リーダーがこの「困難を乗り越える喜び」を理解し、実践することが重要だと教えています。なぜなら、リーダー自身が困難に立ち向かう姿勢を見せることで、周りの人々も同じように困難に立ち向かう勇気を持てるからです。

織田信長は、当時の常識を覆す数々の改革を行いましたが、その過程で多くの困難に直面しました。しかし、彼は決して諦めませんでした。むしろ、困難を楽しんでいたと言われています。「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり」という有名な歌は、彼の人生観をよく表していますね。困難や死さえも恐れず、全力で生きる。そんな信長の姿勢に、多くの家臣が心を打たれ、ついていったのです。

では、現代のビジネスリーダーとして、どのようにこの教えを活かせばいいのでしょうか?

まず、困難を恐れないことです。むしろ、困難を成長の機会として捉えましょう。「ああ、また問題が起きた」ではなく、「よし、新しい挑戦だ!」と前向きに捉えるのです。

次に、その姿勢を周りの人々に示すことです。リーダーである皆さんが困難に立ち向かう姿を見せることで、チームメンバーも勇気づけられるでしょう。「困難があっても大丈夫、一緒に乗り越えよう」というメッセージを、言葉だけでなく行動で示すのです。

そして、チームの成功を共に喜ぶことです。困難を乗り越えた後の達成感を、チーム全員で分かち合いましょう。それが次の挑戦への原動力となるのです。

ここで、もう一つ面白い例を挙げてみましょう。皆さんは「セロトニン」というホルモンをご存じでしょうか? これは「幸福ホルモン」とも呼ばれ、私たちが幸せを感じるときに分泌されるものです。興味深いことに、このセロトニンは困難を乗り越えたときにも大量に分泌されるんです。つまり、私たちの体は生物学的にも「困難を乗り越える喜び」を感じるようにできているんですね。

ですから、困難に直面したとき、「ああ、またか」と落ち込むのではなく、「よし、これを乗り越えたら、きっと素晴らしい喜びが待っているはずだ」と考えてみてください。そうすれば、困難への向き合い方が変わってくるはずです。

易経の教えは、数千年前のものですが、現代にも通じる深い知恵が詰まっています。「兌為澤」の教えは、まさに現代のリーダーシップに必要な心構えを示しているのではないでしょうか。

最後に、皆さんに問いかけてみたいと思います。皆さんの人生で、最も困難だったけれど、乗り越えたときに最も喜びを感じた経験は何でしょうか? その時、どんな気持ちでしたか? そして、その経験は皆さんにどんな影響を与えましたか?

これらの質問に対する答えの中に、皆さん一人一人の「兌為澤」があるのではないでしょうか。その経験を大切にし、これからのリーダーシップに活かしていってください。

困難は避けられないものです。しかし、それを恐れる必要はありません。むしろ、成長の機会として捉え、乗り越える喜びを感じてください。そして、その姿勢をチームメンバーにも示してください。そうすることで、皆さんは真のリーダーとして成長していくことができるでしょう。


参考出典

説んで艱難を進む
兌為沢の卦は悦ぶ、悦ばせる時を説く。 ここで教える悦びは、表面的な悦びでなく、本来的な悦びである。上に立つ者が自ら悦んで骨折り仕事をして民を率いれば、民は労苦を忘れる。同様にして艱難にあたれば、民は困難のために命を投げ出すことも顧みない。甲斐のある労苦や死は、雄々しく臨むという悦びに転化するものである。


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