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まいにち易経_1024【火雷噬嗑の教え: 公正な裁きと誠実な取り組み】乾胏を噬み、金矢を得。艱しみて貞なるに利ろし。[21䷔火雷噬嗑:九四]

九四。噬乾胏。得金矢。利艱貞。吉。 象曰。利艱貞吉。未光也。

九四は、乾胏かんしを噬んで、金矢きんしを得たり。艱貞かんていに利あり。吉。 象に曰く、艱貞に利あり吉、いまだおおいならざるなり。

乾胏(干胏)は、固い骨付きの干し肉を意味し、金矢は金属製の矢じり。この爻の象徴は、食べにくく固い骨付きの干し肉を噛み砕いて金属製の矢じりを得るという状況を表している。困難な状況においても忍耐強く努力を続け、正しい道を貫けば、最終的に利益と吉祥を得ることができるという教訓が込められている。

古代では、狩猟で得た肉を食べることは日常の一部であり、肉の中に矢じりが残ることもよくあった、この爻ではそれが予期せぬ収穫として描かれていいる。つまり、厳しい状況の中でも正しい道を守り続ければ、最終的に吉祥が訪れるということ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「火雷噬嗑からいぜいごう」という言葉の意味から解説しましょう。これは「邪魔なものを噛み砕いて、問題を解決する」という意味です。ビジネスの世界でも、様々な障害や困難に直面することがありますよね。それらを乗り越えていく力が、リーダーには求められるのです。

さて、ここで重要なのは「いかに人を裁くか」ということです。組織を率いていく中で、時には厳しい決断を下さなければならない場面に遭遇するでしょう。例えば、不正を働いた社員への対処や、業績不振の部署の再編など、避けては通れない問題があります。

この時、易経は「乾胏かんし」という例えを使っています。これは骨付きの乾し肉のことで、かなりの力を入れないと噛み切れないものです。
同じように、組織の中の「剛強な罪人」、つまり簡単には対処できない厄介な問題に直面した時、それを軽く見てはいけません。安易な解決策や、表面的な対応では、かえって事態を悪化させてしまう可能性があるのです。

ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。16世紀の日本、織田信長は、本能寺の変で明智光秀に裏切られました。しかし、その後を継いだ豊臣秀吉は、光秀討伐を即座に決断し、わずか11日で成し遂げました。この「中国大返し」と呼ばれる迅速な対応が、秀吉の天下統一への道を開いたのです。これは、難しい問題に対して、慎重かつ大胆に対処することの重要性を示す好例といえるでしょう。

さて、話を戻しましょう。易経は「いかに裁くかで悩むほど考え、誠実に問題に取り組まなくてはならない」と教えています。これは非常に重要な点です。リーダーとして、難しい決断を下す際には、十分な検討と深い洞察が必要なのです。

ここで、現代のビジネスリーダーの例を見てみましょう。アップル社の共同創業者、スティーブ・ジョブズは、困難な決断を迫られることが多々ありました。例えば、1997年に同社に復帰した際、製品ラインを大幅に縮小するという大胆な決断を下しました。これは短期的には痛みを伴う決定でしたが、長期的にはアップルの再生と成功につながりました。ジョブズは、問題の本質を深く理解し、慎重に検討した上で、勇気ある決断を下したのです。

このように、リーダーとしての決断は、単なる「Yes」か「No」の選択ではありません。問題の背景、影響、長期的な結果などを、多角的に検討する必要があるのです。時には、眠れない夜を過ごすこともあるかもしれません。しかし、そうした真剣な取り組みこそが、正しい判断につながるのです。

易経は、このように真摯に問題に取り組めば、「解決した時の功績は大きなものになる」と教えています。つまり、難しい問題に真剣に向き合い、適切に解決することで、リーダーとしての評価も高まり、組織全体にも良い影響を与えることができるのです。

現代の経営学でも、「倫理的リーダーシップ」の重要性が指摘されています。これは、リーダーが高い倫理観を持ち、公正な判断を下すことで、組織全体の信頼性と生産性が向上するという考え方です。易経の教えは、こうした現代の経営理論とも通じるものがあるのです。

ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。自分が直面する可能性のある「乾胏」、つまり難しい問題や決断にはどのようなものがあるでしょうか?そして、それらにどのように向き合っていくべきでしょうか?

例えば、部下の不正行為を発見した場合、どのように対処しますか?単に罰するだけでなく、なぜその行為が起こったのかを深く考察し、再発防止策を講じることも重要です。また、業績不振の部署への対応も難しい問題の一つです。単純な人員削減ではなく、その部署の潜在的な価値や、他部署との相乗効果の可能性なども考慮に入れる必要があるでしょう。
このように、リーダーとしての決断は、常に多面的な視点と深い洞察が求められます。それは時に重荷に感じられるかもしれません。しかし、そのプロセスを通じて、皆さん自身も成長していくのです。

易経の教えは、数千年の時を超えて、現代のリーダーシップにも通じる 智慧を提供してくれています。「火雷噬嗑」の九四は、リーダーとしての決断の難しさと重要性を教えてくれると同時に、その決断に真摯に向き合うことの価値を示してくれているのです。


参考出典

いかに人を裁くか
火雷噬嗑は、邪魔者を噛み砕いて、問題を解決するという意味の卦。悪者を裁いて刑罰を与える、牢獄に入れる時を説く。
乾胏かんし」は骨付きの乾し肉。これは顎に相当力を入れないと噛み切れない。
同様に、剛強な罪人を裁く時は侮ってはならない。また、いかに裁くかで悩むほど考え、誠実に問題に取り組まなくてはならない。そうすれば、解決した時の功績は大きなものになる。

易経一日一言/竹村亞希子

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