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まいにち易経_1017【小人を見抜く力:リーダーシップにおける重要な洞察力】剥に孚あれば、厲きことあり。[58䷹兌為澤:九五]

九五。孚于剥。有厲。 象曰。孚于剥。位正當也。

九五は、はくに孚あれば、あやうきことあり。 象に曰く、剥に孚あるは、位正くらいまさに当ればなり。

九五は上六(陰)と陰陽が相合しているが、上六は小人であり、九五の陽剛を剥ぎ取ろうとする。しかし、九五はそれにもかかわらず、上六を信頼し続けるため、危険が生じる。その危険とは、放縦の危険である。君主にとって、情欲に溺れることは最も危険である。君主が情欲に溺れると、国政を愛人に任せてしまう危険がある。これが「孚于剥」の警告である。

三女さんにょ:中国伝説上の三人の女性。夏の妹喜ばっき、殷の妲己だっき、周の褒姒ほうじをいう。この三人はいずれも国を滅ぼすもととなったので「災は三女より起こる」といわれる。

夏桀かけつ妹喜ばっき
夏桀は夏王朝最後の君主で、暴虐な振る舞いで知られる。伝説では、彼は情欲に溺れ、妹喜という美人に夢中になり、彼女を天下よりも重視したと言われる。
殷の紂王と妲己だっき
紂王は殷王朝の最後の王であり、彼が妲己という美女に惑わされ、堕落し朝政を顧みなくなったという話は有名だ。妲己は古代中国の伝説的な悪女とされ、彼女の影響で紂王は暴政を行ったとされる。これは古代の歴史書『史記』や『封神演義』などで語られているが、具体的な事実かどうかは不明で、後世に脚色された部分が多いと考えられている。
周幽王しゅうゆうおう褒姒ほうじ
周幽王は西周の最後の君主であり、彼が褒姒に溺れた結果、国家の滅亡を招いたとされる。褒姒は幽王の寵愛を受け、彼女を笑わせるために狼煙のろし烽火ほうか)を無駄に使ったという。


ある中小企業の社長は、愛人に心を奪われ、彼女が商業高校卒業後証券会社に勤めていたという理由だけで、経営の重要なポジションである経理担当に彼女を任命してしまった。本来、会社の財務や資金繰りを管理すべきプロフェッショナルを外し、愛人に任せたことで、会社の運営は徐々に不安定になっていく。は会社の経理業務を理解せず、浪費や不正が目立つようになったが、社長は愛人に対して盲目的な信頼を寄せていた。
忠実な幹部や社員たちは危険を察知し、経営改善の提案をするが、社長は愛人の言葉だけを信じ、彼らの忠告を無視し続けた。愛人は会社の資金を私的に流用し、結果として会社の財務状況は悪化し、ついには倒産してしまう。
これは、情欲に溺れて経営判断を誤ることが、企業そのものを破滅に追いやる危険を示した例である。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

私たちの人生において、リーダーとして避けて通れない課題の一つに「人との付き合い方」があります。特に、「小人」との付き合い方は、将来のリーダーとして必ず考えるべきテーマです。では、まず『兌為澤』九五に関する記述を一緒に見てみましょう。
「小人を恐れる」とあります。情が深く度量のある人は、たとえ相手が小人であっても、知って接することができると述べています。ここでの「小人」とは、表面的には人を悦ばせる術に長けているが、実際には誠実ではない人々を指します。小人は巧みに言葉を操り、いつの間にか相手の懐に忍び込み、取り込んでしまいます。

小人と君子の違い

さて、皆さん、小人と君子の違いを考えたことはありますか?君子は誠実で公正な人を指し、常に正しい行動を取ろうとします。一方、小人はその場しのぎで自分の利益を優先し、表面的には友好的で親しみやすい態度を取りますが、裏では自己中心的な考え方を持っています。例えば、職場での人間関係を考えてみましょう。新しいプロジェクトを始めるとき、君子はプロジェクトの成功を第一に考え、全力でサポートしてくれるでしょう。一方、小人は自分の評価や利益を最優先にし、表面的には協力的な態度を取りつつも、裏で足を引っ張ることがあります。

では、どうやって小人と付き合えばいいのでしょう?易経の教えでは、小人とは「はっきり区切る」ことが重要だとされています。つまり、誠実な人々とのつきあいと同等にせず、距離を置くべきです。これには理由があります。小人を恐れなければ、いずれ自らの誠心が剥奪されてしまうからです。これは、リーダーとして非常に重要なポイントです。リーダーは常に多くの人々と関わることになりますが、その中には小人も含まれるでしょう。小人の巧みな言葉や行動に惑わされず、自分の信念を貫くことが求められます。

古代中国では、小人を見分けるために、彼らの行動や言葉の裏にある本音を見抜くための技術が発達していました。例えば、言葉遣いや態度、そして日常の些細な行動から、その人の本性を見抜く方法が研究されていたのです。これは現代でも同様で、ビジネスの世界では、相手の言動を注意深く観察し、真意を見抜く力が求められます。また、歴史上の有名なリーダーたちも、小人との付き合い方に慎重でした。例えば、徳川家康は家臣たちの忠誠心を試すために、あえて厳しい状況を作り出し、その中で誰が真の忠臣かを見極めました。彼は、表面的な忠誠よりも、真に信頼できる人々との関係を重視しました。

小人を恐れることの重要性

「剥に孚あり」とは、小人を恐れなければ、いずれ自らの誠心が剥奪されるという意味です。どんな聖人も、言葉巧みに近づいてくる小人には警戒心を持ったと言われています。これは、現代のリーダーにとっても非常に重要な教訓です。リーダーとしての役割は、単に組織を導くことだけではなく、組織の中で信頼関係を築くことです。しかし、信頼は一度失われると取り戻すのが難しいものです。小人に対して警戒心を持ち、その影響を受けないようにすることが、組織全体の健全性を保つ鍵となります。

皆さん、リーダーとしての道は決して容易ではありません。様々な人々との出会いや関わりがあり、その中で自分の信念を貫くことが求められます。易経の教えは、古代から現代に至るまで、多くのリーダーたちにとって重要な指針となっています。『兌為澤』九五の教えは、小人との付き合い方についての重要な洞察を与えてくれます。小人を恐れ、警戒しながらも、誠実な人々との関係を大切にすることで、真のリーダーシップを発揮することができるでしょう。


参考出典

小人を恐れる
情が深く度量のある人は、舌先三寸小人とも、そうと知って接することができる。しかし、誠実な人々とのつきあいと同等にせず、はっきり区切るべきである。
「剥に孚あり」とは、小人を恐れなければ、いずれ自らの誠心が剥奪されるということ。 どんな聖人も、言葉巧みに近づいてくる小人には警戒心を持った。小人は人を悦ばせる術に長け、いつしか懐に忍び込み、相手を取り込んでしまうからである。

易経一日一言/竹村亞希子

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