まいにち易経_1108【繁栄の中での警戒心:警戒警備】君子もって戎器を除め、不虞を戒む。[45䷬澤地萃:象伝]
象曰。澤上於地萃。君子以除戎器。戒不虞。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、「澤地萃」という言葉の意味からお話ししましょう。「澤」は沼や池を、「地」は大地を表しています。そして「萃」は集まるという意味です。つまり、水が大地に集まって池や沼になるように、人や物事が一か所に集まってくる様子を表しているんですね。皆さんは、学校の文化祭や地域のお祭りに参加したことがあるでしょう。そういった場所では、たくさんの人が集まり、様々な出し物や屋台が並び、とても賑やかで活気に満ちていますよね。これこそが「澤地萃」の状態なんです。
しかし、ここで易経は私たちに重要な教訓を与えてくれます。それは「戎器を除め、不虞を戒む」という言葉です。少し難しい表現かもしれませんが、簡単に言えば「備えあれば憂いなし」ということです。
「戎器を除め」とは、武器を整えるという意味です。でも、現代の私たちの生活に当てはめて考えると、必要な道具や設備を整えておくということになるでしょう。例えば、会社で大切なプレゼンテーションがある場合、パソコンやプロジェクター、資料などをしっかり準備しておくことです。
「不虞を戒む」は、予期せぬ事態に備えて警戒することを意味します。先ほどの例で言えば、プレゼンテーション資料のバックアップを取っておいたり、機器の故障に備えて代替案を用意しておいたりすることでしょう。
この教えは、私たちに危機管理の重要性を説いているんです。人や物が集まる場所では、様々なことが起こる可能性があります。それは良いことかもしれませんし、時には予期せぬトラブルかもしれません。
皆さんは「マーフィーの法則」という言葉を聞いたことがありますか?「起こり得る事は、必ず起こる」という法則です。例えば、朝寝坊して急いでいる時に限って、電車が遅れたり、傘を忘れた日に限って雨が降ったりする...そんな経験はありませんか?
このマーフィーの法則は、もともとアメリカの航空宇宙技術者エドワード・マーフィーが言った「何かをする方法が複数あって、そのうちの一つが悪い結果をもたらすとすれば、誰かが必ずその方法を選んでしまう」という言葉が元になっています。
この法則は、一見ネガティブに聞こえるかもしれません。でも実は、私たちに「常に最悪の事態を想定し、それに備えよ」という教訓を与えてくれているんです。これは「澤地萃」の教えと非常に似ていますよね。
なぜ易経は、人や物が集まり繁栄している時にこそ、このような警戒や備えが必要だと説いているのでしょうか?
それは、繁栄している時こそ油断が生まれやすいからです。物事が順調に進んでいる時、私たちは安心してしまい、警戒心が薄れがちです。でも、実はそういう時こそ最も注意が必要なんです。
例えば、ビジネスの世界を見てみましょう。ある会社が大成功を収め、業界のトップに立ったとします。しかし、その成功に慢心して新しい技術や顧客ニーズの変化に対応しなければ、あっという間に他社に追い抜かれてしまうかもしれません。皆さんも、勉強や部活動で良い結果を出した時、それに満足して努力を怠ってしまった経験はないでしょうか?そして、その後に思わぬ失敗をしてしまったということはありませんか?
このように、「澤地萃」の教えは、私たちに常に謙虚で用心深い姿勢を保つことの大切さを教えてくれているんです。
ここで、もう一つ興味深い例え話をしましょう。皆さんは「ボイルド・フロッグ」という言葉を聞いたことがありますか?これは、カエルをゆっくりと温めていく鍋に入れると、カエルは危険に気付かずそのまま茹でられてしまうという話です。もちろん、実際にカエルがそうなるわけではありませんが、この例え話は私たちに重要な教訓を与えてくれます。環境の変化がゆっくりと進むと、私たちはその変化に気付きにくく、気が付いた時には手遅れになっていることがあるということです。
これは「澤地萃」の教えとも深く関連しています。繁栄している時こそ、周囲の変化に敏感になり、常に新しい情報を取り入れ、自分たちの状況を客観的に分析する必要があるのです。
では、具体的に私たちはどのように「戎器を除め、不虞を戒む」べきなのでしょうか?
常に学び続ける姿勢を持つ
技術や社会は日々進歩しています。新しい知識やスキルを常に吸収し続けることが大切です。多様な意見を聞く
自分と異なる意見や視点を持つ人の話を積極的に聞くことで、自分では気付かなかった問題点や改善点を見つけることができます。定期的な自己評価と改善
自分自身や自分たちの組織の現状を客観的に評価し、改善点を見つけ出す習慣をつけましょう。リスク分析と対策
起こり得る問題を事前に洗い出し、それぞれに対する対策を準備しておくことが重要です。柔軟性を保つ
計画は大切ですが、状況の変化に応じて柔軟に対応できる準備も必要です。謙虚さを忘れない
どんなに成功しても、常に学ぶ姿勢と謙虚さを忘れないことが大切です。
これらの点に気を付けることで、私たちは「澤地萃」の状態、つまり繁栄している時にも油断することなく、さらなる発展へとつなげていくことができるのです。
最後に、もう一つ興味深い話をお伝えしましょう。皆さんは「イノベーションのジレンマ」という概念をご存知でしょうか?これは、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論で、成功している企業ほど新しい技術や市場の変化に対応できずに衰退してしまうというものです。
例えば、かつて写真フィルムで世界的に有名だったコダック社は、デジタルカメラの台頭に対応できず経営危機に陥りました。彼らは自社の成功に慢心し、新しい技術の重要性を軽視してしまったのです。
この「イノベーションのジレンマ」も、「澤地萃」の教えと深く関連しています。つまり、成功している時こそ、次の変化や課題に備える必要があるということです。
皆さんは、将来のリーダーとして期待されている方々です。これから様々な成功を収めていくことでしょう。しかし、その成功に酔いしれることなく、常に次の課題や変化に目を向け、備えを怠らない姿勢を持ち続けてください。
「澤地萃」の教えは、何千年も前の中国で生まれたものです。しかし、その本質は現代社会においても非常に重要な意味を持っています。皆さんがこの教えを心に留め、素晴らしいリーダーとして活躍されることを心から願っています。
参考出典
#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #澤地萃 #沢地萃 #イノベーションのジレンマ