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まいにち易経_0123【豊かさの中で見失うもの】萃は亨る。王有廟に仮る。[45䷬澤地萃:卦辞]
萃。亨。王假有廟。利見大人。亨。利貞。用大牲吉。利有攸往。
萃は、王有廟に仮る。大人を見るに利あり。亨る。貞しきに利あり。大牲を用うるに吉。往くところあるに利あり。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、「萃」について説明しましょう。この字は「集まる」という意味を持っています。人が集まるところには、自然と物も集まってくるものです。そして、それは豊かさや繁栄をもたらすことになります。皆さんも、友達と集まって楽しい時間を過ごすことがあると思います。そんな時、いつの間にか美味しい食べ物や飲み物も集まってきて、にぎやかな雰囲気になりますよね。社会も同じなんです。
古代中国では、人々が集まる場所として「市」が重要な役割を果たしていました。そこでは物々交換が行われ、情報も交換されていました。つまり、「集まる」ということは、単に人が密集するだけでなく、物資や知恵が交わる場でもあったのです。現代でいえば、大都市やインターネット上のコミュニティがこれに当たるかもしれません。
さて、この卦では「王有廟に仮る」という表現が出てきます。これは、王が先祖の霊を祀る祭祀を行うことを指しています。なぜ、豊かな時代にこのような儀式が必要なのでしょうか?
それは、人々の心を一つにまとめ、共通の目標に向かって気持ちを集中させるためです。現代の言葉で言えば、「ビジョンの共有」とか「チームビルディング」といったものに近いかもしれません。会社でも、スポーツチームでも、目標を共有し、みんなで同じ方向を向くことが大切ですよね。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。人や物が集まるところには、必然的に欲望も集まってくるのです。そして、その欲望がコントロールできなくなると、争いが生まれてしまいます。
例えば、皆さんが美味しいケーキを前にして、友達と取り合いになったことはありませんか?それと同じように、社会でも利益や権力をめぐって争いが起こることがあるのです。
さらに、豊かな時代には別の問題も起こりやすくなります。それは、感謝の心を忘れ、人生の目的や志を見失ってしまうことです。「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、逆に言えば、衣食が足りすぎると、かえって大切なものが見えなくなってしまう危険性があるのです。
ここで、興味深い例え話をしましょう。かつて、ある国で「幸福度調査」が行われました。驚くべきことに、最も幸福度が高かったのは、必ずしも最も豊かな地域ではありませんでした。むしろ、適度な豊かさがあり、かつ人々のつながりが強い地域の方が幸福度は高かったのです。これは、物質的な豊かさだけでなく、心の豊かさも大切だということを教えてくれています。
では、豊かな時代にこそ、私たちは何をすべきなのでしょうか?
それは、自分の心を正し、引き締めて、高い志を持つことです。言い換えれば、「初心を忘れない」ということかもしれません。皆さんも、何か目標を達成したとき、「よし、これで終わり」と思わずに、「次は何を目指そうか」と考えたことがあるのではないでしょうか。それと同じように、社会全体が豊かになったからこそ、次の高みを目指す必要があるのです。
ここで、もう一つ例え話をしましょう。ある会社が大成功を収め、業界トップになりました。しかし、その成功に慢心した結果、新しい技術の開発を怠り、顧客のニーズの変化に気づくのが遅れてしまいました。結果として、新興企業に追い抜かれ、瞬く間に市場シェアを失ってしまったのです。この話は、豊かさや成功に慢心することの危険性を教えてくれています。
では、具体的に私たちに何ができるでしょうか?
まず、日々の生活の中で、感謝の気持ちを忘れないことです。当たり前と思っていることでも、実はとても恵まれているかもしれません。そのことに気づき、感謝の気持ちを持つことで、私たちの心は豊かになります。
次に、常に新しい目標を持ち続けることです。今の状況に満足せず、さらに高みを目指す。それが個人としても、社会としても成長につながります。
そして、周りの人々とのつながりを大切にすることです。物質的な豊かさだけでなく、心の豊かさも追求することが、真の幸せにつながるのです。
最後に、自分の行動が社会にどのような影響を与えるかを常に考えることです。リーダーとして期待されている皆さんには、特にこの点が重要です。自分の決定や行動が、多くの人々の人生に影響を与える可能性があることを忘れないでください。
豊かな時代だからこそ、私たちには大きな責任があります。その豊かさを維持し、さらに発展させていくためには、常に気を引き締め、高い志を持ち続けることが必要なのです。
皆さんには、これからの社会を担っていく大きな可能性があります。この「澤地萃」の教えを胸に刻み、豊かさの中にあっても常に向上心を持ち、周りの人々のことを考えられる素晴らしいリーダーになってほしいと思います。
参考出典
豊かな時代にこそ
「萃」は「集まる」。人が集まるところには物が集まるから、富んで盛んな時を表す。
「王有廟に仮る」とは、王が先祖の霊を祀る祭祀を行う。人心を集め、一心に願い、気を中心に集めるために行うものである。
人や物が集まると、欲心も集まり、奪い合いなどの争いが起こる。また、豊かで富んだ時代は感謝の心を忘れ、人々は志を見失う。豊かな時代こそ、気を集めて正し、引き締めて、志を立てることが大切である。
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