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まいにち易経_0816【盛者必衰の理】亢龍悔ありとは、盈つれば久しかるべからざるなり。[01䷀乾為天:象伝]
亢龍有悔、盈不可久也。
亢龍悔ありとは、盈つれば久しかるべからざるなり。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
中国の伝統では、龍は力強さと成功の象徴です。皆さんも、昇り龍という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。勢いよく上昇する様子を表していますね。
ところが、易経はこう警告しています。「高みに昇り過ぎた龍は、やがて降りる龍となり、後悔することになる」と。
これは何を意味しているのでしょうか? 簡単に言えば、「調子に乗りすぎるな」ということです。でも、これはただの戒めではありません。人生の大切な真理を教えてくれているのです。
例えば、ビジネスの世界を考えてみましょう。新しい製品やサービスが大ヒットして、会社が急成長することがあります。その時、経営者や従業員は「この成功は永遠に続く」と思いがちです。しかし、市場は常に変化しています。競合他社が現れたり、顧客のニーズが変わったりします。その変化に対応できずに、以前の成功にしがみつく企業は、やがて衰退していくのです。
これは企業だけでなく、個人の人生にも当てはまります。学生時代に優秀な成績を収めた人が、社会に出てつまずくことはよくあります。なぜでしょうか? それは、過去の成功に慢心して、新しい環境での学びや成長を怠ってしまうからです。
易経は、この教えを月の満ち欠けにたとえています。「満月が必ず欠けるように、物事も満ちれば、それは久しく続かない」と。
自然界を見れば、この真理は明らかです。春に咲き誇る花も、やがては散ります。夏の太陽も、秋には力を弱めていきます。これは決して悲観的な見方ではありません。むしろ、自然の循環の中に、人生の知恵を見出すことができるのです。
では、この教えを現代のリーダーシップにどう活かせばよいのでしょうか?
まず、謙虚さを忘れないことです。どんなに成功しても、常に学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です。世界的な成功を収めた企業のCEOでさえ、「私はまだ学ぶことがたくさんある」と言います。この謙虚さが、さらなる成長を生み出すのです。
次に、変化を恐れないことです。「今がよければそれでいい」という考えは危険です。市場の変化、技術の進歩、社会のニーズの変化……これらに常にアンテナを張り、自分や組織を適応させていく勇気が必要です。
そして、バランスを保つことです。仕事で大きな成功を収めても、家族や健康、自己啓発など、人生の他の側面をおろそかにしてはいけません。全てのバランスが取れてこそ、真の成功と言えるのです。
ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。ナポレオン・ボナパルトは、フランス革命後の混乱期に頭角を現し、めざましい軍事的成功を収めました。しかし、その成功に酔いしれ、ロシア遠征という無謀な作戦に出てしまいます。結果は惨敗でした。まさに、「高みに昇り過ぎた龍」の例と言えるでしょう。
一方、日本の歴史を見ると、徳川家康の例があります。関ヶ原の戦いで勝利を収めた後も、慎重に政策を進め、260年以上続く平和な江戸時代を築きました。「勝って兜の緒を締めよ」という有名な言葉は、まさにこの易経の教えと通じるものがあります。
現代のビジネス界でも、この教えは生きています。かつて携帯電話市場を席巻したノキアは、スマートフォンの台頭に対応できず、市場シェアを大きく落としました。一方、常に革新を続けるアップルは、iPodから iPhone、そして新たなサービスへと、時代の変化に柔軟に対応し続けています。
ここで強調したいのは、この教えは決して「成功するな」と言っているのではないということです。むしろ、「真の成功とは何か」を考えさせてくれるのです。一時的な栄光ではなく、持続可能な成功、そして自分自身と周りの人々を幸せにする成功こそが、私たちが目指すべきものではないでしょうか。
若い皆さんには、大きな可能性があります。その可能性を最大限に活かすためにも、この古代の知恵を心に留めておいてほしいと思います。成功した時こそ、謙虚さを忘れず、常に学び続ける姿勢を持ち続けてください。そして、自分だけでなく、周りの人々や社会全体のことも考えられる、バランスの取れたリーダーになってほしいと思います。
最後に、私の経験から一つアドバイスをさせてください。人生には、上昇期と下降期があります。調子のいい時は、「この先ずっとうまくいく」と思いがちです。逆に、調子の悪い時は、「もうダメだ」と思ってしまいます。しかし、どちらも錯覚なのです。
良い時こそ、次の困難に備えて力を蓄えましょう。悪い時こそ、次の好機をつかむためにじっくりと準備をしましょう。このように、常に先を見据えて行動することで、人生の波を上手に乗りこなすことができるのです。
易経の教えは、数千年の時を超えて、私たちに人生の真理を語りかけています。この教えを胸に、皆さんが素晴らしいリーダーとして成長されることを心から願っています。
参考出典
勢いのある昇り龍も、高みに昇り過ぎれば失墜し、降り龍となって後悔する。満月が必ず欠けるように、物事も盈ちれば、それは久しく続かないということである。
人は運や勢いに任せていると、その時がまるで永遠に続くかのように錯覚する。しかし、満ち足りた時に溺れて、驕り高ぶれば、得た地位も名誉も長くは続かない。
これは万人にとって戒めとすべき言葉である。
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