まいにち易経_0124【清き水、集う人々 : 市井の物語】往来井を井とす。[48䷯水風井:卦辞]
井。改邑不改井。无喪无得。往來井井。汔至。亦未繘井。羸其瓶。凶。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「水風井」の卦は、私たちの社会や人間関係について、とても重要なことを教えてくれています。まず、「井戸」というものについて少し考えてみましょう。
皆さんは、普段何気なく蛇口をひねって水を使っていると思います。でも、昔の人々にとって、井戸はどれほど大切だったか想像できますか?井戸は、文字通り命の源でした。
面白いことに、「市井」という言葉があります。これは「まちなか」や「庶民の暮らし」を意味する言葉ですが、元々は「市場と井戸」という意味だったのです。なぜでしょうか?
それは、きれいで澄んだ水のある場所に自然と人が集まり、そこで商いが始まり、やがて村や町が形成されていったからです。つまり、井戸は単なる水汲み場ではなく、コミュニティの中心だったのです。
ここで重要なのは、井戸が持つ「公平性」です。井戸は、誰がやって来ても分け隔てなく水を与えてくれます。お金持ちだろうが貧乏人だろうが、身分の高い人も低い人も、旅人も地元の人も、はたまた動物たちさえも、みな平等に冷たくて新鮮な水の恵みを受けることができるのです。
これは、リーダーシップを考える上でとても大切な視点です。真のリーダーとは、井戸のように、すべての人に対して公平で、分け隔てなく接する人のことを言うのではないでしょうか。
さて、「水風井」の卦が教えてくれる「井の徳」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
まず、「移り動かず、常に一定の清い水を湛える」という特徴があります。これは、リーダーとしての一貫性や信頼性を表しているとも言えるでしょう。周りの状況がどんなに変わっても、自分の信念や価値観を保ち続けること。これは、リーダーにとって非常に重要な資質です。
例えば、スティーブ・ジョブズを思い浮かべてみてください。彼は、「ユーザーフレンドリーなデザイン」という信念を最後まで貫き通しました。時代や技術が変わっても、その核心的な価値観は変わらなかったのです。
次に、「人を選ばず、万人に用いる」という特徴があります。これは、多様性を受け入れ、誰に対しても公平に接するという姿勢を表しています。現代社会において、この姿勢はますます重要になってきていると言えるでしょう。
ここで、興味深い例を挙げてみたいと思います。サムスン電子の創業者である李秉喆氏は、「人材第一主義」を掲げ、出身や学歴に関係なく、能力のある人材を積極的に登用しました。これは、当時の韓国社会では革新的な考え方でした。彼のこの姿勢が、サムスンを世界的な企業へと成長させる原動力の一つになったのです。
さらに、井戸の特徴として「日用の徳」というものがあります。これは、日々の生活に欠かせない、当たり前すぎて気づかないけれど、実は非常に重要な存在であるということを意味しています。
リーダーとしての皆さんに問いかけたいと思います。あなたは、周りの人々にとって、そんな存在になれていますか?当たり前のように存在しているけれど、いざというときに頼りになる。そんなリーダーこそが、組織にとって真に必要とされる存在なのではないでしょうか。
最後に、井戸の水が「清く澄んでいる」ということについて考えてみましょう。これは、リーダーとしての倫理観や透明性を表していると言えるでしょう。どんなに権力や富を持っていても、その心が濁っていては、真のリーダーとは呼べません。常に自分自身を省み、清廉潔白であろうと努力すること。これこそが、リーダーにとって最も大切な資質の一つではないでしょうか。
ここで、日本の歴史上の人物を例に挙げてみたいと思います。江戸時代の八代将軍、徳川吉宗は、「清廉潔白」の象徴として知られています。彼は、贅沢を控え、質素倹約を旨とし、自ら範を示すことで幕府の財政再建に努めました。このような姿勢が、民衆からの信頼を勝ち得ることにつながったのです。
さて、ここまで「水風井」の卦が教えてくれる様々な教訓について、お話してきました。これらすべてを一朝一夕に身につけることは難しいでしょう。しかし、常にこれらの理想を念頭に置き、少しずつでも近づこうと努力することが大切です。
皆さんには、将来のリーダーとしての大きな可能性があります。その潜在能力を最大限に発揮するためにも、この「水風井」の教えを心に留めておいてほしいと思います。
公平性、一貫性、多様性の尊重、日々の小さな気配り、そして清廉潔白。これらを兼ね備えたリーダーは、きっと多くの人々から信頼され、尊敬される存在となるでしょう。
そして、忘れないでください。リーダーシップとは、決して上から目線で人々を導くことではありません。むしろ、井戸のように、静かにそこに在り続け、必要とする人々に寄り添い、支え続けること。それこそが、真のリーダーシップなのです。
参考出典
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