まいにち易経_0723【創造的な摩擦】天地は睽けどもその事同じきなり。男女は睽けどもその志通ずるなり。[38䷥火澤睽:彖伝]
天地睽而其事同也。男女睽而其志通也。
天地は対立しているが、その働きは一致している。男女は異なるが、その志は通じている。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、『睽』という字は「背く」「反目する」「疑う」「同じ方向を持たない」という意味を持っています。一見すると、ネガティブな印象を受けるかもしれませんね。しかし、実はこの「睽」という概念こそ、私たちの社会や組織を発展させる鍵なのです。
易経では、「天地は対立しているが、その働きは一致している。男女は異なるが、その志は通じている。」と説いています。これは何を意味しているのでしょうか?
春と秋、昼と夜、山と谷。これらは全く異なる性質を持っていますよね。でも、これらが織りなす自然の調和こそが、私たちの世界を豊かにしているのです。同じように、組織の中でも、異なる意見や視点が存在することは、決してマイナスではありません。むしろ、それらが共存し、互いに刺激し合うことで、新しいアイデアや革新が生まれるのです。
中国の哲学では、万物は背き合うことによって統一され進歩していくとされています。これは矛盾論、つまり対立する要素が相互に作用して発展を生み出すという考え方です。企業やチームの中でも、異なる意見や視点が存在することが、より強力で創造的な組織を築くための鍵となるでしょう。
古代中国では、火と水は対立する元素と考えられていました。火は上に向かい、水は下に流れます。しかし、火と水が調和することで、蒸気が生まれ、新たなエネルギーを生み出すことができます。これと同じように、対立する意見や視点が融合することで、新しい価値が生まれるのです。
現代の経営学でも、『創造的摩擦creative friction)』という概念があります。創造的摩擦とは、異なる意見や視点がぶつかり合うことで生まれる議論や対立から、新しいアイデアや解決策が生まれる現象を指します。特に、チームやグループの中で多様な背景や経験を持つメンバーが協力する際に見られます。この摩擦は一見ネガティブに見えることがあるかもしれませんが、適切に管理されることで革新や創造性を高める効果があります。
多様性:異なるバックグラウンドやスキルセットを持つメンバーの存在。
対話と議論:意見の違いを建設的に議論し、深掘りするプロセス。
共通の目的:全員が共有する明確な目標やビジョンがあること。
信頼関係:メンバー間の信頼と尊重があり、自由に意見を表明できる環境。
これらの要素が揃うことで、創造的摩擦は新しいアイデアの発見や問題解決のための強力なエンジンとなります。
では、将来のリーダーとして、皆さんはこの「睽」の知恵をどのように活かせるでしょうか?
まず、多様性を恐れないことです。異なる意見や背景を持つ人々を積極的に受け入れ、その違いを尊重しましょう。対立や矛盾を避けるのではなく、それらを建設的な議論の機会として捉えることが大切です。
次に、「両極端を見る」習慣を身につけることです。ある問題に直面したとき、一つの視点だけでなく、正反対の視点からも考えてみましょう。これにより、より包括的で深い理解が得られます。
さらに、「矛盾の統合」を目指すことです。対立する意見や方針があった場合、どちらか一方を選ぶのではなく、両者の長所を活かした新しい解決策を見出す努力をしてください。これは簡単なことではありませんが、真のイノベーションはこのプロセスから生まれることが多いのです。
リーダーシップの観点からも、「睽」の考え方は非常に重要です。優れたリーダーは、チーム内の多様性を活かし、異なる意見を尊重しながら、全体としての方向性を定めることができます。これは、まさに「天地は対立しているが、その働きは一致している」という易経の教えそのものです。
ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。自分の周りにいる、自分とは全く異なるタイプの人を思い浮かべてください。その人との違いに、どのような可能性を見出せるでしょうか?その違いを、どのように組織や社会の発展に活かせるでしょうか?
「睽」の考え方は、個人の成長にも大きな示唆を与えてくれます。私たちは往々にして、自分の弱点や欠点を否定的に捉えがちです。しかし、「睽」の視点から見れば、それらの弱点こそが、自分の強みを引き立てる要素かもしれません。完璧を目指すのではなく、自分の中の「対立」を受け入れ、それを活かす方法を見つけることが大切なのです。
参考出典
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