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まいにち易経_0922【『敬』と『義』の心 ~成功と信頼を築く道しるべ~】敬以て内を直くし、義以て外を方にす。敬義立てば徳孤ならず。[02坤為地:文言伝]

直其正也、方其義也。君子敬以直内、義以方外。敬義立而徳不孤。直方大、不習无不利、則不疑其所行也。

ちょくはそれせいなり、ほうはそれ義なり。君子は敬もって内をなおくし、義をもって外を方にす。敬義けいぎ立ちて徳ならず。直方大ちょくほうだいなり、習わざれども利ありからざるなしとは、そのおこなうところを疑わざるなり。

「直」はその人の正しさ、「方」は義、つまり道理に基づくけじめを指す。君子は、内面においてつつしみを持ち、正直であり、外見には義をもって方正であることを表す。ここで注意すべきは、義が内面から外形を自然に整えるのであって、義そのものが外に存在するわけではないという点。
敬と義が揃えば、その人の徳は決して孤立的なものにはならない。だからこそ、広大なものを求める必要はないが、自ずとその人の徳が広大となる。ここで言う「直方大」の「大」は、この広がりを意味している。
「習わざれども利あらざるなし」とは、自分の行動に疑いや迷いがないため、特に学習する必要がない、つまり既に正しい道を歩んでいるからこそ、すべてにおいて有益であるということ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「敬」という言葉から始めましょう。この「敬」は、単に誰かを尊敬するという意味ではありません。自分の心を引き締め、慎重に物事に向き合うことを指します。例えば、大切な試合の前に深呼吸をして集中力を高めるように、日々の生活の中で自分の心を整えることが「敬」なのです。

次に「義」についてお話しします。「義」とは、正しいと信じることに従って行動することです。たとえば、困っている人を見かけたら助けの手を差し伸べる。そういった行動が「義」にあたります。

この「敬」と「義」を身につけることで、皆さんの内面と外面が整います。内面は謙虚で慎重、外面は正義に基づいた行動をとる。そうすることで、自然と徳が積み重なっていくのです。

ここで、興味深い例え話をしましょう。かつて日本には「石門心学」という教えがありました。これは、江戸時代の商人たちに広く受け入れられた道徳教育でした。その中心的な教えの一つに「正直」がありました。これは単に嘘をつかないということではなく、自分の心に正直であり、そして他者に対しても誠実であるという意味でした。つまり、「敬」と「義」を実践していたのです。

この教えを実践した商人たちは、短期的な利益よりも長期的な信頼関係を重視しました。その結果、多くの商家が何代にもわたって繁栄を続けることができたのです。これは、「敬義立ちて徳孤ならず」という教えの実例と言えるでしょう。

さて、現代社会に目を向けてみましょう。私たちは日々、様々な判断を求められます。その際、「敬」の心を持って慎重に状況を分析し、「義」に基づいて行動することが重要です。

例えば、企業のリーダーとして難しい決断を迫られたとき。まず、自分の心を落ち着かせ、様々な角度から状況を分析します。これが「敬」です。そして、会社の利益だけでなく、従業員や社会への影響も考慮に入れて決断を下す。これが「義」です。

このように行動することで、周囲からの信頼を得ることができます。そして、その信頼は新たな機会を生み出し、さらなる成長につながっていくのです。これが「徳孤ならず」の意味するところです。

ここで、現代の経営者の例を挙げてみましょう。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正氏は、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という理念を掲げています。この理念の背景には、単に利益を追求するだけでなく、社会に貢献したいという強い思いがあります。

柳井氏は、自社の成長だけでなく、取引先や従業員の成長、さらには社会全体の発展を常に考えています。これは、まさに「敬」と「義」を実践している例と言えるでしょう。その結果、ユニクロは日本だけでなく、世界中で愛される企業に成長しました。

また、環境問題への取り組みも、「敬」と「義」の実践と言えます。
パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナード氏は、「地球に害を与えない事業」を目指しています。これは、地球環境という大きな視点から自社の事業を見直す「敬」の心と、環境保護という「義」を実践しているのです。

このような姿勢は、単に環境に配慮しているというだけでなく、消費者からの信頼を獲得し、ブランド価値を高めることにもつながっています。まさに「徳孤ならず」の実例と言えるでしょう。

さて、ここまでお話ししてきて、皆さんの中には「そんなに完璧にできるだろうか」と思った方もいるかもしれません。確かに、常に「敬」と「義」を実践することは簡単ではありません。時には失敗することもあるでしょう。

しかし、大切なのは完璧を目指すことではなく、常に「敬」と「義」を意識し、少しずつでも実践していくことです。小さな積み重ねが、やがて大きな変化をもたらします。

例えば、毎日の小さな決断から始めてみてはどうでしょうか。
朝、目覚まし時計が鳴ったとき、すぐに起きるか、もう少し寝るか。この小さな選択にも「敬」と「義」を適用できます。「敬」の心で自分の状態を冷静に見つめ、「義」の心で約束の時間や自分の目標を考慮して決断する。こういった小さな実践を積み重ねることで、やがて大きな決断の場面でも「敬」と「義」を自然に実践できるようになるのです。

最後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。「敬」と「義」を実践することは、決して自分を縛ることではありません。むしろ、自分自身を高め、周囲との関係を豊かにする方法なのです。

自分の内面を整え、外への行動を正すことで、皆さんは信頼される人間になっていきます。そして、その信頼は新たな機会を生み出し、皆さんの人生をより豊かなものにしていくでしょう。


参考出典

敬と義
「敬」はうやまうという意味ではなく、心を引き締める、慎重にすること。
つつましくあることで心の内をまっすぐにし、正義にしたがうことで外に向かって行動する姿勢を正していく。この敬と義を備えていれば、その人の徳は一つだけに止まるはずはない。自然に多くの徳が積み重なって大きく盛大になり、また周囲にも良い影響を及ぼしていくものである。

易経一日一言/竹村亞希子

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