見出し画像

まいにち易経_1210【虎を恐れず、礼を履む: 勇気と謙虚さの教え】虎の尾を履むも人を咥わず。亨る。[10䷉天澤履:卦辞]

履虎尾。不咥人。亨。

虎の尾をふむ、人をくらわず、亨る。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さん、今日は天沢履てんたくりという卦についてお話しします。
この卦は、一見すると非常にシンプルなようでありながら、深い意味を持っているんです。とくに、若いリーダーを目指す皆さんにとって、非常に重要な教えを含んでいます。

「虎の尾を履む」— 危険を冒す勇気

まず、この天沢履の卦に出てくる「虎の尾を履む」という言葉について考えてみましょう。直感的には、虎の尾を踏むなんて恐ろしいこと、やってはいけないことのように感じるでしょう。しかし、この卦が教えているのは、時には分外の危険を冒すことが必要だということです。

リーダーシップの中で、皆さんもこれから多くの決断を迫られることでしょう。その中には、どうしても避けられないリスクを取らなければならない場面が必ず出てきます。虎の尾を踏むという行為は、まさにそういった場面を象徴しています。危険はつきものです。しかし、その危険をしっかりと見据え、必要ならば踏み込む勇気が求められるというわけです。

「履」— 礼を踏む、謙虚さを持つことの大切さ

さて、「履む」という言葉にもう一つ注目しましょう。この「履む」という言葉は、ただ単に「踏む」ことを意味するだけではなく、ここでは「礼を履む」という意味合いを含んでいます。つまり、危険を冒す際にも、礼儀や謙虚さを忘れずに持ち続けることが大切だということです。

皆さんもこれから様々な立場で活躍していくでしょう。その時に、自分の力や能力を過信してはいけません。たとえ自分がリーダーの立場であっても、他者から学び、頭を下げる姿勢を忘れないことが重要です。これは、ただの謙遜ではなく、リーダーとしての本質的な強さに繋がるのです。

古今東西のリーダーたちも実践した「礼を履む」

歴史を見ても、この「礼を履む」という態度が大きな成功を生んできた例は数多くあります。例えば、古代中国の名将・韓信かんしんは、若い頃に乞食にまで身を落としたことがありますが、それでも彼は常に学び続け、謙虚さを保ちました。その後、彼は軍略の天才として名を馳せ、中国統一を果たす漢王朝の成立に大きく貢献しました。彼の成功の背景には、自らの力量を過信せず、常に礼を持って人と接し続けたことが大きな要因となっています。

また、近代においても、偉大なリーダーたちは皆、同じような姿勢を持ち続けています。例えば、マハトマ・ガンジーはインド独立運動の中で、常に非暴力と謙虚さを貫き通しました。彼は自らの行動を礼節と結びつけ、その結果、世界中の人々から尊敬されるリーダーとなりました。

現代のリーダーに求められる「礼を履む」

さて、現代のビジネスシーンにおいても、この「礼を履む」ことの重要性は変わりません。皆さんがリーダーとして成長していく中で、他者との関わりや意思決定の場面が増えていくでしょう。その時に、常に相手に対して礼儀を持ち、謙虚な姿勢を貫くことが、結果として自分自身を守り、成功へと導いてくれます。

例えば、あるプロジェクトをリードする際に、チームメンバーの意見を尊重し、自分の考えを押し付けることなく、しっかりと耳を傾けることが大切です。また、自分が知らない分野については、専門家や経験者から学ぶ姿勢を持ち続けることで、プロジェクト全体をより良い方向に導くことができます。

ここで、ちょっとした例え話をしましょう。皆さんは、バランスボールに乗ったことがありますか? バランスボールに乗る時、最初は不安定で難しいと感じるかもしれません。しかし、バランスを取りながらゆっくりと進んでいくと、次第にその感覚が掴めてくるでしょう。リーダーシップも同じです。最初は不安定で、何をどうすれば良いのか分からないことが多いかもしれませんが、謙虚に学びながら、少しずつバランスを取り、進んでいくことで、やがて自分自身のリーダーシップが確立されていくのです。

「虎に食われない」ための心構え

天沢履の卦では、「分外の危険を冒しても虎に食われずに最後まで仕上げることができる」とされています。この「虎に食われない」という表現は、リスクを取った結果、致命的な失敗を避けることができるという意味です。

では、どうすれば「虎に食われない」のでしょうか?それは、単に勇気を持ってリスクを取るだけではなく、そのリスクを冷静に分析し、準備を怠らず、必要な知識とスキルを持って挑むことが必要です。そして何よりも、リーダーシップにおいては、人との関わり方が非常に重要です。自分一人で全てをやろうとせず、チームや周囲の力を借りながら進めていくことで、危険を回避し、成功に導くことができるのです。


天沢履の卦が教えているのは、リーダーとしての基本的な姿勢と心構えです。リスクを恐れずに踏み込む勇気を持つこと。そして、その際には常に礼を持ち、謙虚に学び続ける姿勢を貫くこと。これが、成功するリーダーシップの鍵となるのです。

皆さんも、これから様々な挑戦が待ち受けていることでしょう。その時に、この天沢履の教えを思い出し、勇気を持って一歩踏み出してほしいと心から思います。リーダーシップは一朝一夕に身につくものではありません。日々の積み重ねと学びが、皆さんを真のリーダーへと導いてくれるでしょう。

どうか、この教えを胸に刻み、未来への道を切り開いていってください。


参考出典

虎の尾を履む
「虎の尾を履む」とは極めて危険なことの喩えだが、出典である天沢履の辞には、分外の危険を冒しても虎に食われずに最後まで仕上げることができるとある。
「履」とは草履の履で、「踏む・履む」という意味がある。何を踏むかというと「礼を履む」のである。
分外の大業を為すという自覚があれば、力のある人(虎)に頭を下げ、謙虚に物事を学ぼうとする。その姿勢を貫けば、困難や危険を乗り越えていけるということだ。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #天澤履 #天沢履


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集