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まいにち易経_0518【上昇の条件】柔、時を以て升り、巽にして順、剛中にして応ず。ここを以て大いに亨る。[46䷭地風升:彖伝]

彖曰。柔以時升。巽而順。剛中而應。是以大亨。
用見大人勿恤。有慶也。南征吉。志行也。
彖に曰く、柔(じゅう)、時を以て升(のぼ)り、巽(そん)にして順(じゅん)、剛中(ごうちゅう)にして応ず。ここを以て大いに亨る。
用て大人を見る恤(うれ)うるなかれは、慶(よろこ)びあるなり。南征して吉は、志し行なわるるなり。

地風升(ちふうしょう)
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さん、こんにちは。まず、『地風升』とはどのような意味を持つのか、簡単に説明しましょう。この卦は「昇り進む、上昇の時」を示しています。しかし、ただ単に昇るというだけでなく、そこにはいくつかの重要な条件があります。この条件を理解し、実践することで、皆さんは確実に成功への道を歩むことができるでしょう。

私は長年企業を率いてきた経験から、リーダーとして大切なことがいくつかあると気づきました。その一つが、「時機を捉えること」です。
例えば、会社が成長するための好機をつかむことができれば、企業は飛躍的に発展できます。しかし、その好機を逃してしまえば、取り返しがつきません。リーダーは常に環境の変化に注意を払い、行動を起こすベストなタイミングを見計らう必要があるのです。

柔、時を以て升り

これは、「時機を捉える」ことの表現です。草木が春から夏に向けて徐々に芽吹き、成長していくように、人間社会の出来事も、すべてに「時」がある。タイミングが熟すのを待ち、その「時」を逃さずに行動することが大切なのです。焦って成果を求めるのではなく、環境や時期が整うのを待ち、その時に一気に成長することが大切です。ここで言う「柔らかさ」は、柔軟な心や姿勢を指し、時には柔軟に対応することが成功の鍵となります。

巽にして順

しかし、タイミングばかりに気をとられていては何も始まりません。それでも前に進もうとするリーダーの姿勢が重要です。易経ではこれを「巽にして順」、つまり「環境や人々に逆らわず、上手に順応していくこと」と説いています。
どんな状況でも謙虚さを忘れず、環境や人々に逆らわずに順応することが求められます。例えば、新しい職場やプロジェクトに参加する際には、まずその場のルールや文化を理解し、適応することが重要です。これにより、周囲との調和を保ち、スムーズに物事を進めることができます。
また、社員のモチベーションが下がっているときに、強権的にプロジェクトを進めようとしても反発を招くでしょう。しかし、社員の意見に耳を傾け、彼らと協調しながら進めば、プロジェクトは円滑に進行するはずです。優れたリーダーは、状況に柔軟に対応しながら、粘り強く目標に向かっていく姿勢が求められます。

剛中にして応ず

そしてもう一つ重要なことは、「剛中にして応ず」
これは、「強さを内に秘めつつ、他者と応じ合う」という意味です。つまり、賢者の助言に学び、支援を得ることです。
リーダーとして強さを持つことは重要ですが、その強さを誇示するのではなく、内に秘めることで周囲からの信頼を得ることができます。また、賢者や先人から学び、助けを得ることも大切です。これにより、自分の知識やスキルをさらに高め、成功への道を確実なものにすることができます。
リーダーひとりの力だけでは限界があります。昔から今に至るまで、多くの先人が苦労を重ねて学んだ知恵があります。その知恵から学び、仲間の支えを得ながら、自分自身の経験と知識を重ねていく。そうすればリーダーはさらに大きく成長できるはずです。


易経はこう教えています。「時機を捉え柔軟に順応し、賢者から学びながら前進を続ければ、必ず大きな成功が待っている」と。
以上の三つの条件を満たすことで、『地風升』の卦が示すように大いに亨る、すなわち成功を収めることができるのです。特に、「用て大人を見る恤うるなかれ」という言葉があります。これは、「偉大な人物に会っても心配することはない」という意味で、皆さんが目指すべきリーダー像を示しています。偉大なリーダーとは、自分の成功だけでなく、周囲の人々にも喜びや幸福をもたらす存在であるべきです。

例えば、江戸時代の有名な大名である徳川家康は、非常に柔軟な人物でした。彼は若い頃、戦国の世の中で多くの困難に直面しましたが、常に時を待ち、適切なタイミングで行動することを心がけていました。彼の成功は、まさに『地風升』の教えを実践した結果と言えるでしょう。また、彼は謙虚さを忘れず、周囲の大名たちと調和を保ちながら、自らの強さを内に秘めて行動しました。結果として、徳川幕府を開くという偉業を成し遂げたのです。

皆さんも、これからのリーダーとして多くの挑戦に直面するでしょう。しかし、『地風升』の教えを心に留め、柔軟さを持ち、時を待ち、謙虚に順応し、強さを内に秘めて行動するならば、必ずや成功を手にすることができるでしょう。そして、偉大なリーダーとして、多くの人々に喜びと幸福をもたらす存在になってほしいと思います。

(了)


参考出典

地風升の卦は昇り進む、上昇の時を説く。ただし、昇り進んでいくためには条件がある。
まず「時」を待って進むこと。草木が春から夏にかけて成長するように、物事も時期、環境、場が揃ったときに昇り進む。
そして「巽にして順」、環境や人に逆らわないこと。さらに「剛中にして応ず」賢者に学び従い、応援を得ることが欠かせない。

易経一日一言/竹村亞希子

『柔時を以て升る』もとの雷水解の六三の柔が、然るべき時に升ってこの卦になったので、この卦を升と名付ける。
昇り進んでいくためには条件がある。先ず『時』を待って進むこと。草木が春から夏にかけて成長するように、物事も時期、環境、場が揃ったときに昇り進む。
そして『巽にして順』、環境や人に逆らわないこと。
さらに『剛中にして応ず』賢者に学び従い、応援を得ることが欠かせない。
上下卦の徳からいっても、卦全体の形からいっても善いところがあるので、元亨という。
『用て大人を見る恤うるなかれ』将来に福があること何の心配もない。
南征して吉とは、前進すれば志が天下に行なわれること。

易(朝日選書)/本田濟

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