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まいにち易経_0825【創業は易く守成は難し】繻るるとき衣袽あり。終日戒む。[63䷾水火既済:六四]

六四。繻有衣袽。終日戒。 象曰。終日戒。有所疑也。

六四は、るに衣袽いじょあり。終日戒しゅうじついましむ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「既済きせい」という言葉の意味からお話ししましょう。これは「すでに大きな川を渡り終えた」という意味です。ビジネスの世界で言えば、大きな目標を達成したり、大きなプロジェクトを成功させたりしたことを表しています。

しかし、ここで注意しなければならないのは、大きな成功を収めた後の姿勢です。易経は、こう教えています。「るるとき衣袽いじょあり。終日戒しゅうじついましむ。」

これは何を意味しているのでしょうか。古い舟の底に穴が開いてしまい、その穴をぼろ布で塞いで、一日中警戒しなければならない状況を表しています。

ビジネスの世界で例えると、こんな感じでしょうか。皆さんが起業して、大きな成功を収めたとします。しかし、その成功に慢心して新しいプロジェクトに次々と手を出していくと、いつの間にか会社の基盤が揺らいでしまう。そして、その揺らぎを必死に繕っている、という状況です。

これは、成功した後の「守成」の大切さを教えているのです。「守成」とは、達成したものを大切に守り、さらに発展させていくことを意味します。

歴史上の例を挙げてみましょう。織田信長は、天下統一に向けて大きな成功を収めました。しかし、その成功に慢心して本能寺で油断し、明智光秀の襲撃を受けてしまいました。これは、まさに「守成」を怠った例と言えるでしょう。

一方、豊臣秀吉は、信長の死後、着実に勢力を拡大し、最終的に天下統一を果たしました。秀吉は、一つ一つの成功を大切にし、慎重に次の一手を打っていったのです。これは「守成」の良い例と言えるでしょう。

ビジネスの世界でも同じことが言えます。例えば、かつて世界最大のレンタルビデオチェーンだったブロックバスターは、DVDレンタル事業で大成功を収めました。しかし、その成功に慢心して、新しい技術やサービスの台頭に対応できず、最終的には破産してしまいました。

一方、アマゾンは、オンライン書店として始まり、着実に事業を拡大していきました。新しい分野に進出する際も、慎重に市場調査を行い、リスクを最小限に抑えながら展開していきました。これは「守成」の現代的な例と言えるでしょう。

では、私たちはどのように「守成」を実践すればよいのでしょうか。

  1. 謙虚さを忘れない:
    成功しても、常に学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です。「まだまだ知らないことがたくさんある」という謙虚な気持ちが、次の成長につながります。

  2. 基盤を固める:
    新しいことに挑戦する前に、現在の成功の基盤をしっかりと固めることが重要です。例えば、社内の体制を整えたり、顧客との関係を深めたりすることが考えられます。

  3. リスク管理:
    新しいプロジェクトを始める際は、必ずリスク分析を行いましょう。最悪の事態を想定し、それに対する対策を立てておくことが大切です。

  4. 段階的な成長:
    一気に大きな飛躍を目指すのではなく、段階的に成長していくことが重要です。小さな成功を積み重ねていくことで、より安定した成長が可能になります。

  5. フィードバックを大切に:
    社員や顧客からのフィードバックに耳を傾けることが大切です。現状に満足せず、常に改善の余地を探る姿勢が重要です。

  6. 時代の変化に敏感に:
    守成に努めるからといって、保守的になりすぎてはいけません。時代の変化を敏感に察知し、適切に対応していくことも大切です。

  7. 人材育成:
    自分の後継者や、次世代のリーダーを育成することも、守成の重要な要素です。組織の未来を担う人材を育てることで、長期的な成功が可能になります。

ここで、もう一つ興味深い例を紹介しましょう。日本の老舗企業である「虎屋」は、400年以上もの間、和菓子業界で成功を続けています。彼らの成功の秘訣は、伝統を守りながらも、時代のニーズに合わせて少しずつ変化していくことです。これは、まさに「守成」の精神を体現していると言えるでしょう。

また、「終日戒む」という言葉にも注目してください。これは、常に警戒心を持ち続けることの重要性を教えています。成功したからといって、油断してはいけないのです。

例えば、セキュリティ対策を考えてみましょう。一度、強固なセキュリティシステムを導入したからといって、それで安心してはいけません。日々進化するサイバー攻撃に対応するため、常に最新の情報を収集し、システムを更新し続ける必要があります。これは、まさに「終日戒む」姿勢と言えるでしょう。

成功は、ゴールではなく、新たな始まりだと考えてください。その成功を足がかりに、さらに高みを目指す。しかし、同時に、これまでの成功を大切に守り、育てていく。そのバランスが、真のリーダーには求められるのです。

大きな成功を収めた後こそ、慎重に、そして着実に歩みを進めていってください。そうすることで、皆さんは、一時的な成功者ではなく、長期的に社会に貢献し続けるリーダーになれるはずです。これからの皆さんの活躍を、心から期待しています。


参考出典

ボロ布で船底の穴をふさぐ
水火既済の「既済」はすでに川を渡り終えたという意味で、大業を成したことの喩え。
川を渡るのに用いた舟は古くなり、舟底に穴が空いて浸水してくる。そこで「るるとき衣袽いじょあり」ぼろ布を使って穴をふさぎ、終日警戒しなければならない。
本来、大業を成した後は守成に努め、止まるべき時である。そうせずに、さらに大業を成そうとすれば、必ず物事に破れが生じるという戒めである。

易経一日一言/竹村亞希子

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