まいにち易経_1018【へつらわない、馴れ合わない】上交して諂わず、下交して涜れず、それ幾を知れるか。[繋辞下伝:第五章]
君子上交不諂。下交不瀆。其知幾乎。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
上交諂わず、下交瀆ず
身分や地位で差をつけず、誰に対しても公平に接すること。
[楊子法言]
「上交諂わず」。これは「目上の人にへつらわない」という意味です。例えば、上司や先輩に対して、必要以上に褒めたり、自分の意見を曲げたりしないということです。確かに、目上の人に従順であることは大切です。しかし、自分の信念や正しいと思うことを曲げてまで従うのは、本当の意味での従順とは言えません。
ここで、ある興味深い例を紹介しましょう。古代ギリシャの哲学者ディオゲネスの話です。ある日、大王アレクサンドロスがディオゲネスに会いに来ました。アレクサンドロスは「何か望みはないか?」と尋ねました。するとディオゲネスは「そこを一歩動いて、陽なたを遮らないでくれ」と答えたそうです。これは、権力者に対しても自分の信念を曲げなかった例として有名です。
次に、「下交驕らず」。これは「目下の人に対して馴れ合いにならない」という意味です。部下や後輩に対して、親しく接しても馴れ馴れしくしないということです。確かに、リーダーとして適度な距離感を保つことは大切です。しかし、それは相手を尊重しないということではありません。
さて、ここで皆さんに質問です。なぜ、このような態度が重要なのでしょうか? それは、人間関係のしがらみに縛られずに、物事を正しく判断し、行動するためです。例えば、上司にへつらっていると、その上司の意見が間違っていても指摘できなくなってしまいます。また、部下と馴れ合いになれば、その部下に対して客観的な指導が出来なくなってしまう可能性があります。
リーダーとして成功するためには、常に正しい判断をし、適切なタイミングで行動することが求められます。そのためには、周りの人々との健全な関係性が不可欠なのです。
ここで、もう一つ興味深い例を紹介しましょう。アメリカの元大統領エイブラハム・リンカーンの話です。リンカーンは、大統領になる前は一介の田舎弁護士でした。しかし、彼は地位や身分に関係なく、誰に対しても誠実に接していました。そのため、大統領になってからも、多くの人々から信頼され、支持されました。これは、「上交諂わず下交驕らず」の精神を体現した例と言えるでしょう。
では、実際の企業経営や組織運営において、この教えをどのように活かせるでしょうか?
オープンなコミュニケーション文化の構築
誰もが自由に意見を言える環境を作ることが大切です。上司も部下も、対等な立場で意見を交換できる場を設けましょう。例えば、定期的なブレインストーミングセッションや、匿名のフィードバックシステムなどが効果的です。公平な評価システムの導入
実力や成果に基づいた公平な評価システムを導入しましょう。これにより、地位や年功に関係なく、真の能力が評価される環境が作れます。多様性の尊重
さまざまなバックグラウンドを持つ人々の意見を尊重しましょう。多様な視点が、イノベーションや問題解決につながることがあります。リーダー自身の学び続ける姿勢
リーダー自身が常に学び続ける姿勢を示すことが大切です。これにより、周りの人々も成長意欲を持つようになります。謙虚さと自信のバランス
自信を持ちつつも、常に謙虚さを忘れないことが重要です。自分の非を認め、改善する勇気を持ちましょう。
ここで、もう一つ重要なポイントがあります。それは、「物事の僅かな機微を察知する」ということです。これは、単に相手の言葉だけでなく、表情やしぐさ、場の空気なども含めて、状況全体を把握する能力のことを指します。例えば、会議の場で誰かが意見を述べた時、その人の言葉だけでなく、他の参加者の反応や雰囲気も含めて観察することが大切です。これにより、表面化していない問題や、潜在的なアイデアを察知することができます。
この能力を磨くためには、日々の観察力を高めることが重要です。例えば、毎日の通勤時に、周りの人々の表情や行動を観察してみるのも良いでしょう。また、文学作品を読むことも効果的です。優れた作家は、登場人物の微妙な心理や場面の雰囲気を巧みに描写します。これを読み解くことで、人間の機微を理解する力が養われます。
この教えの本質は何でしょうか? それは、「人間関係のしがらみに縛られずに、物事を正しく判断し、行うべき事を行うべき時に迅速に行動する」ということです。
最後に、ある言葉を紹介して、今日の話を締めくくりたいと思います。それは、アメリカの詩人ラルフ・ワルド・エマーソンの言葉です。
「偉大な人とは、子供の純真さと大人の強さを兼ね備えた人のことだ」
この言葉は、まさに「上交諂わず下交驕らず」の精神を表していると言えるでしょう。子供のような純粋さと、大人としての強さ。この両方を兼ね備えることが、真のリーダーシップにつながるのです。
参考出典
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