まいにち易経_1205【リーダーシップの核心:内なる邪と向き合う勇気】邪を閑ぎてその誠を存し。[01乾為天/文言伝:第二節(人事)九二]
九二曰、見龍在田、利見大人、何謂也。子曰。龍徳而正中者也。庸言之信、庸行之謹、閑邪存其誠、善世而不伐、徳博而化。易曰、見龍在田、利見大人、君徳也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、「邪を閑ぐ」という言葉の本当の意味から考えてみましょう。これは、外から来る悪いものを防ぐということではありません。実は、私たち自身の中にある「邪」、つまり良くない部分を自覚し、それを抑えることを意味しているのです。人間というのは、誰もが「正」と「邪」の両方を持っています。「正」は誠実さや善良さ、「邪」は欲や嫉妬、怒りなどのネガティブな感情や衝動を指します。完璧な人間などいません。私たちは皆、弱さを持っているのです。
想像してみてください。あなたの心の中に、天使と悪魔がいるとします。天使はいつもあなたに正しいことを囁きかけます。一方、悪魔は「ちょっとぐらいならいいじゃないか」「誰も見ていないよ」とささやきます。この二つの声を常に聞いているのが、私たち人間なのです。
ここで重要なのは、自分には「邪」な部分など全くないと思い込んでしまうことの危険性です。そう思ってしまうと、自分の中にある弱さや欲望に気づくことができません。結果として、それらをコントロールすることもできなくなってしまうのです。むしろ、自分の中にも「邪」の部分があることを認識し、それと向き合うことが大切です。それは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自己を深く理解し、成長するための第一歩なのです。
古代ローマの将軍が(トリウムフ)を行う際、後ろに立つ奴隷が「汝、ただの人間なることを忘れるな」(Remember you are mortal)と囁き、彼の謙虚さを保つ役割を果たしたとされています。これは、勝利に酔いしれ、傲慢になることを戒める習慣だったのです。つまり、自分の中にある弱さや限界を常に意識することの重要性を、古代ローマ人も理解していたということです。
では、実際にどのように「邪を閑ぐ」ことができるでしょうか。それは、自分の行動や思考を客観的に見つめ、常に自己点検する習慣を身につけることから始まります。例えば、毎日寝る前に、その日の自分の言動を振り返ってみるのはどうでしょうか。「今日、誰かを傷つけるようなことを言わなかっただろうか」「公平でない判断をしなかっただろうか」などと、自問自答してみるのです。また、信頼できる人に自分の行動や決定について意見を求めるのも良い方法です。他者の視点を取り入れることで、自分では気づかなかった「邪」の部分に気づくことができるかもしれません。
さらに、ストレス管理も重要です。人は疲れているときや追い詰められているときに、つい悪い決断をしてしまいがちです。適度な休息、運動、趣味などを通じて、心身のバランスを保つことも、「邪を閑ぐ」ための有効な方法の一つです。
ビジネスの世界では、この「邪を閑ぐ」という考え方は特に重要です。なぜなら、一人の判断ミスや不正が、会社全体に大きな影響を与える可能性があるからです。残念ながら、企業の不祥事はよく耳にします。その多くは、経営者自身が「邪を閑ぐ」努力を怠り、むしろそれを誤魔化す環境を作ってしまった結果なのです。例えば、短期的な利益を追求するあまり、倫理的な判断を軽視してしまうようなケースがあります。
ここで、ある企業の興味深い取り組みを紹介しましょう。この会社では、重要な意思決定を行う際に、必ず「悪魔の代弁者」と呼ばれる役割の人を置くそうです。この人の役割は、提案されたアイデアや決定に対して、あえて批判的な立場から質問や指摘をすることです。これにより、思わぬリスクや倫理的な問題点を事前に洗い出すことができるのです。
このような仕組みを作ることで、組織全体として「邪を閑ぐ」ことができるのです。つまり、個人の努力だけでなく、組織としての取り組みも重要なのです。
参考出典
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