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まいにち易経_0814【龍徳の道:時を捉えるための指南書】大人を見るに利ろしとは何の謂いぞや。子日く、龍徳ありて正しく中する者なり。[01䷀乾為天/文言伝:第二節(人事)]

九二曰、見龍在田、利見大人、何謂也。子曰。龍徳而正中者也。

九二に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、何のいぞや。 子曰く、龍徳ありて正中なる者なり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「見習うべき大人」とはどんな人でしょうか。それは、「龍徳」という明確な志を持ち、「正しく中する者」のことを指します。ここでいう「中」とは、時の的に中るという意味です。つまり、その時々にぴったりの言動で、物事の核心を鋭く突き、私利私欲に偏らない人のことです。

これは、ちょうど弓道の達人が的の中心を射抜くように、人生の様々な場面で最適な判断と行動ができる人のことを表しています。みなさんも、弓道を練習したことがあるでしょうか。的の中心を狙うには、単に力任せに引くのではなく、呼吸を整え、心身を調和させる必要があります。これは、人生における判断や行動にも通じるものがあります。

さて、ここで少し話を広げてみましょう。歴史上の偉人たちの中にも、この「正しく中する者」の良い例があります。例えば、室町時代の足利義満はどうでしょうか。彼は、政治家として優れた手腕を発揮しただけでなく、文化人としても高い評価を得ました。当時の複雑な政治情勢の中で、臨機応変に対応し、文化の保護育成にも力を入れました。これは、まさに「その時その場面において出処進退を弁え、最も適切なことを行う」という態度の表れだと言えるでしょう。

また、経営の世界でも同様の例があります。松下幸之助さんは、時代の変化を敏感に察知し、それに合わせて経営方針を柔軟に変更していきました。例えば、戦後の混乱期には「水道哲学」を提唱し、良質な製品を安価で提供することで、人々の生活向上に貢献しました。これも、その時代に最も適した行動を取った例と言えるでしょう。

では、私たちはどのようにしてこの「正しく中する者」になることができるのでしょうか。それには、次の三つのポイントが重要だと考えています。

  1. 広い視野を持つこと
    まず、自分の周りだけでなく、社会全体の動きに目を向けることが大切です。新聞やニュースだけでなく、様々な分野の本を読んだり、異なる背景を持つ人々と交流したりすることで、多角的な視点を養うことができます。

  2. 深い洞察力を磨くこと
    表面的な情報だけでなく、その背後にある本質を見抜く力が必要です。そのためには、常に「なぜ」という疑問を持ち、物事の原因や理由を考える習慣をつけることが有効です。

  3. 柔軟な思考と行動力を身につけること
    状況が変化したときに、迅速かつ適切に対応できる能力が求められます。これは、日々の生活の中で新しいことに挑戦したり、予期せぬ事態に対して前向きに取り組んだりすることで培われます。

さて、ここで一つ興味深い話をご紹介しましょう。皆さんは「適応放散」という言葉をご存知でしょうか。これは生物学の用語で、一つの祖先種から様々な環境に適応した多様な種が進化することを指します。例えば、ガラパゴス諸島のフィンチは、島ごとに異なる環境に適応し、くちばしの形や大きさを変化させました。

これは、ビジネスの世界にも当てはまります。成功する企業は、常に変化する市場環境に適応し、新しい製品やサービスを生み出しています。Apple社は、パーソナルコンピュータから始まり、音楽プレーヤー、スマートフォン、ウェアラブルデバイスへと、時代のニーズに合わせて製品ラインを拡大してきました。これも、「その時その場面において出処進退を弁え、最も適切なことを行う」という原則の実践と言えるでしょう。

ここで強調しておきたいのは、「正しく中する」ということは、単に流行に乗るということではないということです。むしろ、表面的な動きに惑わされず、本質を見極める力が必要です。それは、まるで荒海の中で航海するような難しさがあります。しかし、その難しさを乗り越えることで、真のリーダーとしての資質が磨かれていくのです。

また、「私事の偏りがない」ということも重要です。これは、自分の利益だけでなく、組織全体や社会全体の利益を考えて行動するということです。例えば、環境問題に取り組む企業が増えていますが、これは短期的な利益だけでなく、長期的な持続可能性を考慮した判断と言えるでしょう。

みなさんが将来、リーダーとして活躍する時代は、今以上に複雑で予測困難なものになるかもしれません。人工知能やロボット技術の発展、気候変動、グローバル化の進展など、様々な要因が絡み合って、社会は急速に変化しています。

そんな時代だからこそ、「正しく中する者」としての資質が求められるのです。常に広い視野を持ち、深い洞察力を磨き、柔軟な思考と行動力を身につけることで、どんな状況にも適切に対応できる力を養ってください。

最後に、この教えは決して高邁な理想論ではないことを強調しておきたいと思います。むしろ、日々の小さな判断や行動の積み重ねの中で実践していくものです。今日学んだことを、明日からの生活の中で意識的に取り入れてみてください。例えば、友人との会話の中で、相手の立場に立って考えてみる。あるいは、日々のニュースを見るときに、表面的な情報だけでなく、その背景にある本質は何かを考えてみる。そういった小さな実践の積み重ねが、やがて大きな力となっていくのです。

みなさんには、無限の可能性があります。その可能性を最大限に引き出し、社会に貢献できるリーダーとして成長していってほしいと思います。そのために、今日お話しした「正しく中する者」としての姿勢を、ぜひ心に留めておいてください。

これからの人生で、様々な困難や選択に直面することがあるでしょう。そんなとき、この教えを思い出し、勇気を持って前に進んでいってください。みなさんの輝かしい未来を、心から応援しています。


参考出典

正しく中する者
見習うべき大人とは、「龍徳」明らかな志を持ち、「正しく中する者」であるという。「中」は時の的に中る。すなわち、その時々にぴったりの言行によって、鋭く物事の的を射て、私事の偏りがないという意味。その時その場面において出処進退を弁え、最も適切なことを行うこと。そんな人の姿勢を見習って、物事の基本姿勢を身につけなくてはいけない。

易経一日一言/竹村亞希子

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