まいにち易経_1102【美しい変革:君子豹変の深層に迫る】君子は豹の如く変す。小人は面を革む。[49䷰澤火革:上六]
上六。君子豹變。小人革面。征凶。居貞吉。 象曰。君子豹變。其文蔚也。小人革面。順以從君也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
今日は、「澤火革」という卦の「上六」という部分に焦点を当てて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。この教えは、「君子豹変」という言葉で表現されています。《君子は改革・変革の時に応じて過ちを改め、豹のように毛色を美しく変える》という意味になりますが、これは単なる動物の比喩以上の深い意味を持っています。
まず、「豹」について少し考えてみましょう。豹は美しい毛皮を持つ動物として知られています。しかし、その美しさだけでなく、豹の持つ別の特徴にも注目する必要があります。豹は環境に応じて、その姿を変える能力を持っています。これは、単に外見を変えるだけでなく、生存のために必要不可欠な適応力を表しているのです。
では、なぜ易経はリーダーを豹に例えたのでしょうか?
それは、真のリーダーシップには、環境の変化に柔軟に対応する能力が不可欠だからです。時代や状況が変われば、リーダーもそれに合わせて自らを変革していく必要があります。これは決して、信念を曲げるということではありません。むしろ、本質的な価値観を保ちながら、その表現方法や実践方法を柔軟に変化させていくということです。
例えば、テクノロジーの進化を考えてみましょう。20年前のビジネスリーダーと現在のリーダーでは、必要なスキルセットが大きく異なります。デジタル化やAIの台頭により、リーダーには新しい知識や視点が求められるようになりました。しかし、人々を導き、組織を成功に導くという本質的な役割は変わっていません。つまり、核となる部分は保ちつつ、時代に合わせて自己を更新していく。これこそが「君子豹変」の真髄といえるでしょう。
ここで注意していただきたいのは、この「変化」は決して表面的なものではないということです。易経は「小人は心にもないのに顔つきだけを改める」と警告しています。つまり、真の変革は内面から始まるのです。外見だけを取り繕っても、それは長続きしません。真のリーダーシップは、自己の内面からの変革、成長があってこそ発揮されるのです。
これは、日本の伝統的な考え方とも通じるものがあります。例えば、「守破離」という言葉をご存知でしょうか。これは武道や芸道の修行過程を表す言葉ですが、リーダーシップの発展にも当てはまります。「守」は基本を学ぶ段階、「破」はその基本を破って新しいものを取り入れる段階、「離」は最終的に独自のスタイルを確立する段階を指します。つまり、基本をしっかりと身につけた上で、それを超えて新しいものを創造していく。これは「君子豹変」の考え方と非常に似ています。
また、この教えは個人だけでなく、組織のあり方にも大きな示唆を与えてくれます。「大人虎変す」という表現がありますが、これは組織のトップが大きく変わることで、組織全体に変革の波が広がっていくことを意味しています。リーダーの変化が、周囲の人々にも良い影響を与え、組織全体が進化していく。これこそが、真の組織変革の姿といえるでしょう。
ここで、歴史上の具体例を見てみましょう。明治維新後の日本の変革は、まさに「君子豹変」の好例といえます。徳川幕府から明治政府への移行は、単なる政権交代以上の意味を持っていました。それは日本という国の在り方自体の大きな変革でした。しかし、注目すべきは、この変革が日本の伝統や文化を完全に捨て去るものではなかったという点です。むしろ、日本の本質的な価値観を保ちながら、西洋の新しい知識や技術を取り入れていったのです。これは、まさに「君子豹変」の精神そのものだといえるでしょう。
さて、ここで現代のビジネス界に目を向けてみましょう。急速に変化する市場環境の中で、多くの企業が変革の必要性に直面しています。しかし、単に流行を追いかけるだけでは真の変革とはいえません。重要なのは、企業の核となる価値観や強みを保ちながら、新しい要素を取り入れていくことです。
例えば、老舗の和菓子店が新しい商品開発に挑戦するケースを考えてみましょう。伝統的な和菓子の技術や味わいを大切にしながら、現代人の嗜好や生活スタイルに合わせた新商品を開発する。これは、まさに「君子豹変」の現代的な実践といえるのではないでしょうか。
また、「君子豹変」の考え方は、個人のキャリア開発にも適用できます。急速に変化する職場環境の中で、私たちは常に新しいスキルを学び、自己を更新していく必要があります。しかし、それは自分の核となる価値観や強みを捨て去ることではありません。むしろ、その核を保ちながら、新しい知識やスキルを積み重ねていくことが重要です。
ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。あなた自身の「核」とは何でしょうか?そして、その核を保ちながら、どのように自己を更新していけるでしょうか?これらの問いに向き合うことが、真のリーダーシップの第一歩となるのです。
「君子豹変」という言葉が現在では「悪く変わる」という意味で使われることがあるという点について触れておきたいと思います。これは非常に興味深い言葉の変遷です。本来は良い方向への変化を意味していたものが、なぜ否定的な意味を持つようになったのでしょうか。
これは、変化そのものに対する人々の不安や懐疑を反映しているのかもしれません。変化は常に不確実性を伴います。そのため、人々は時として変化を恐れ、否定的に捉えがちです。しかし、私たちリーダーに求められるのは、この不安を乗り越え、ポジティブな変化を起こしていく勇気です。
変化は、それ自体が良いものでも悪いものでもありません。重要なのは、その変化の方向性と、変化に込められた意図です。自己や組織をより良いものにするための変化なのか、それとも単なる利己的な動機による変化なのか。この違いを見極める目を持つことが、リーダーにとって非常に重要になってくるでしょう。
「君子豹変」の教えは、私たちに常に自己を見つめ直し、時代の要請に応じて自己を更新していく勇気を与えてくれます。しかし同時に、その変化が表面的なものに留まらず、内面からの真の変革であることの重要性も教えています。
参考出典
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