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まいにち易経_1031【時流を追わず、時機を見極める力】

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さんは、「時流に乗る」という言葉をよく耳にすると思います。でも、実は易経では、それとは少し違った考え方をしているんです。
例えば、みなさんがスマートフォンアプリを開発しているとしましょう。今、一番人気のある機能やデザインを真似して、それだけに注力したとします。確かに、一時的には人気を得られるかもしれません。でも、そのトレンドが過ぎ去ったら、どうなるでしょうか?アプリは急速に人気を失い、あっという間に忘れ去られてしまうかもしれません。
では、どうすればいいのでしょうか?
易経は、「その時々に為すべきことをする」ことが大切だと教えています。これは、長期的な視点を持ち、目の前のことに真摯に取り組むということです。

自然界を見てみましょう。木々は、春には芽吹き、夏には葉を広げ、秋には実をつけ、冬には休息します。それぞれの季節にふさわしいことを、きちんと行っているんです。

ビジネスの世界でも同じことが言えます。例えば、トヨタ自動車を見てみましょう。トヨタは、常に最新のトレンドだけを追いかけるのではなく、長期的な視点で品質と効率を追求してきました。その結果、世界有数の自動車メーカーとして成功を収めています。

時には、目の前のチャンスを逃すこともあるかもしれません。でも、それは決して悪いことではありません。むしろ、そのチャンスを逃すことで、より大きな機会に備えることができるかもしれないのです。

「Nokia」は、かつて世界最大の携帯電話メーカーでしたが、スマートフォン時代の到来に対応できず、急速に市場シェアを失いました。
ノキアは、自社の強みであった従来型の携帯電話市場にこだわりすぎて、スマートフォンという新しい「時流」に乗り遅れてしまったのです。結果として、時流と共に衰退してしまいました。
一方、同じ時期にAppleは、既存の携帯電話市場の「時流」を追うのではなく、全く新しい概念のiPhoneを開発しました。これは、まさに「その時々に為すべきこと」を行った結果だと言えるでしょう。

このように、「時流を追わない」というのは、決して進歩を否定するものではありません。むしろ、本質的な価値や長期的な展望に基づいて行動することを意味しているのです。

具体的にどうすればいいのでしょう?

  1. 自分の価値観や信念を大切にする:
    流行や他人の意見に流されるのではなく、自分が本当に大切だと思うことを見極め、それに基づいて行動しましょう。

  2. 長期的な視点を持つ:
    目先の利益や成功だけでなく、5年後、10年後の自分や組織のあるべき姿を考えて行動しましょう。

  3. 継続的な学習と成長:
    時流を追うのではなく、常に新しい知識やスキルを身につける努力をしましょう。それが、予期せぬ機会や挑戦に対応する力になります。

  4. バランスを保つ:
    全てを無視して自分の殻に閉じこもるのではなく、世の中の動きを観察しつつ、自分の軸をしっかり持つことが大切です。

  5. 失敗を恐れない:
    時流に乗れなかったことで一時的に後れを取ることがあっても、それを学びの機会と捉え、次につなげる姿勢が重要です。

最後に、こんな言葉を紹介したいと思います。アメリカの作家、マーク・トウェインはこう言っています。

「歴史は繰り返さない。しかし、韻を踏む」

これは、過去の出来事が全く同じ形で繰り返されることはないけれど、似たようなパターンは繰り返されるという意味です。つまり、一時的な流行や時流に惑わされるのではなく、歴史から学び、本質的なものを見極める力が大切だということです。

皆さんには、ぜひこの易経の教えを心に留めておいてほしいと思います。目の前のチャンスに飛びつくのではなく、自分の信念に基づいて、その時々にすべきことを着実に行っていく。そうすることで、長期的には必ず良い結果が得られるはずです。

時には、周りの人たちが華々しい成功を収めているのを見て、焦ることもあるかもしれません。でも、そんな時こそ、この教えを思い出してください。あなたには、あなたにしかできない役割があるのです。


参考出典

時流を追うな
世間ではいかにして時流に乗るかと切磋琢磨する。
しかし、易経は、「時流を追いかける者は時流とともに滅びる」としている。
たまたま時流を読む才能があり、時流に乗るのは僥倖のようなもの。ツキで時流に乗ったとしても、ツキが落ちたら衰退するだけである。
ツキがあろうがなかろうが、その時々に為すべきことをするというのが易経の教えである。春や夏に為すべきことをせずに、いつも実りの秋ばかりを追いかけるのは無理な話である。

易経一日一言/竹村亞希子

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