まいにち易経_0806【創意工夫努力:オリジナリティの創出】君子終日乾乾す。[01䷀乾為天:九三]
九三。君子終日乾乾、夕惕若。厲无咎。
乾乾とは、繰り返し一生懸命努力すること。惕若とは、畏れ慎むこと。終日克己努力し、夜には一日の行動を振り返り、過ちがなかったかと細かく反省することで、非難を免れることができる。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「君子終日乾乾す」は、一日中休むことなく、前向きに物事に取り組むことを意味しています。「乾乾」という言葉は、まるで太陽が空高く昇り続けるように、絶え間なく努力し続けることを表しているのです。
ここで少し、日本の歴史から興味深い例を挙げてみましょう。江戸時代の儒学者、佐藤一斎という人物をご存知でしょうか。彼は「言志四録」という著書の中で、「少にして学べば、即ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、即ち老いて衰えず。老いて学べば、即ち死して朽ちず。」という言葉を残しています。これは、生涯にわたって学び続けることの大切さを説いたものです。まさに「終日乾乾」の精神そのものだと言えるでしょう。
しかし、ただ一生懸命に働くだけでは不十分です。易経は続けてこう言っています。「夕惕若」。これは、夜になったら一日の行動を振り返り、反省することの大切さを教えています。
「惕若」という言葉は、「畏れ慎む」という意味があります。これは、自分の行動に対して謙虚で、常に改善の余地があると考える姿勢を表しています。リーダーとして成功を収めれば収めるほど、高慢になりがちです。しかし、本当の意味での成功者は、常に自分を戒め、反省する心を持ち続ける人なのです。
このように、日中一生懸命に努力し、夜には自己反省をする。これを続けることで、「厲无咎」、つまり危険を避け、非難されることがなくなるのです。
皆さんは「PDCA サイクル」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)というサイクルを回すことで、継続的に業務を改善していく手法ですね。この考え方は、まさに易経の教えと通じるものがあります。日中の「乾乾」が Do に当たり、夜の「惕若」が Check と Act に当たるのです。
さて、ここまでの話を踏まえて、皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、「なぜ易経はこのような教えを説いているのか」ということです。
易経が書かれた時代、すなわち古代中国では、為政者の行動が国家の運命を左右しました。一人の判断ミスが、数十万、数百万の人々の生活に影響を与えかねなかったのです。そのため、リーダーには常に慎重で、かつ積極的な姿勢が求められました。
現代社会においても、この教えは非常に重要です。グローバル化が進み、情報があふれる現代では、一つの判断が思わぬ波及効果を生む可能性があります。そのため、リーダーには常に最善を尽くし、かつ自らの行動を省みる姿勢が求められるのです。
ここで、現代の経営者の例を挙げてみましょう。アップル社の共同創業者、スティーブ・ジョブズは、常に新しいアイデアを追求し続けました。これは「乾乾」の精神そのものです。しかし同時に、彼は自社製品に対して厳しい目を向け、常により良いものを追求し続けました。これは「惕若」の精神と言えるでしょう。
また、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎は、「よい考えはよい製品を生む」という言葉を残しています。これは、日々の努力と反省が良い結果をもたらすという、易経の教えと通じるものがあります。
ここで、皆さんに問いかけてみたいと思います。皆さんは日々、どのように過ごしていますか? 朝から晩まで全力で取り組んでいますか? そして、一日の終わりに自分の行動を振り返っていますか?
もしかしたら、「そんなに頑張れない」「毎日反省するのは疲れる」と思う人もいるかもしれません。確かに、これを完璧に実践するのは難しいでしょう。しかし、ここで大切なのは、完璧を目指すことではなく、少しずつでも実践しようとする姿勢なのです。
例えば、朝起きたときに「今日は何を頑張ろうか」と考えてみる。夜寝る前に「今日はどんなことがあったか」と振り返ってみる。こうした小さな習慣から始めてみてはいかがでしょうか。
また、これは仕事だけでなく、私生活にも当てはまります。例えば、新しい趣味や技術を習得しようとするとき、毎日少しずつ練習し(乾乾)、その日の成果を振り返る(惕若)。こうした積み重ねが、やがて大きな成長につながるのです。
ここで、もう一つ重要なポイントがあります。それは、この「乾乾」と「惕若」のバランスです。ただ頑張るだけでは燃え尽きてしまいますし、反省ばかりしていては前に進めません。適度な努力と適切な振り返り、この二つのバランスを取ることが、持続可能な成長につながるのです。
人生は長いマラソンのようなものです。スタートダッシュだけでゴールにたどり着くことはできません。また、ただ走り続けるだけでは、正しいコースを外れてしまうかもしれません。
だからこそ、日々全力で走り続けること。そして、時には立ち止まって自分の位置を確認すること。この二つを続けていくことが、皆さんを正しいゴールへと導いてくれるのです。
易経の教えは、何千年も前に書かれたものです。しかし、その本質は今も変わっていません。なぜなら、人間の本質もまた、変わっていないからです。
皆さんには、この古い教えを現代に活かす知恵と勇気があると信じています。日々の努力と反省を重ねながら、自分なりのリーダーシップを築いていってください。その先には、きっと素晴らしい未来が待っているはずです。
ご清聴ありがとうございました。
参考出典
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