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まいにち易経_0813【見て学べ、聞いて悟れ:森羅万象に学ぶ】大人を見るに利ろし。[01䷀乾為天:九二・九五]

九二。見龍在田。利見大人。

九二は、見龍田けんりょうでんに在り、大人たいじんを見るに利あり。

九五。飛龍在天。利見大人。

九五は、飛龍ひりょう天に在り、大人を見るに利あり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

みなさん、こんにちは。今日は、易経の『乾為天』について、少しお話しさせていただきます。これから社会に出て、リーダーとして活躍される皆さんにとって、とても大切な心構えが詰まっている教えだと思います。

まず、「大人を見るに利ろし」という言葉があります。これは、人生の先輩や立派な方から学ぶことの大切さを教えてくれています。ここでいう「見る」というのは、単に目で見るだけではありません。耳を傾けて聞くこと、そして実際に真似てみること、全てを含んでいるのです。

私が若いころ、ある先輩から面白い話を聞きました。「人間の目と耳は、なぜ二つずつあると思う?」と聞かれて、私は「物事を立体的に捉えるため」と答えました。すると先輩は笑って「それも正解だが、もう一つある。それは、人の話を二倍よく聞き、二倍よく観察するためだよ」と言われたのです。この言葉は今でも心に残っています。

さて、この「大人を見るに利ろし」という教えは、二つの場面で特に重要になってきます。

一つ目は、みなさんのように、これから社会に出て、修養を始めたばかりの段階です。この時期は、まさに「見龍」の時期と言えるでしょう。龍が水面に顔を出し始めたような、これからどんどん成長していく時期です。

この時期に大切なのは、素直な心で先輩や上司の言葉に耳を傾け、その行動を細かく観察し、真似ることです。例えば、上司の話し方や立ち振る舞い、仕事の進め方などを意識的に観察し、自分のものにしていく。これは、まるで料理の修行のようなものです。

私の知人に、フランス料理のシェフがいます。彼は修行時代、毎日師匠の動きを観察し、真似ることに徹したそうです。包丁の持ち方、食材の切り方、ソースの作り方、全てにおいて師匠のやり方を忠実に再現しようと努めました。時には、師匠の立ち方や歩き方まで真似たそうです。「最初は意味がわからなかったけど、やっているうちに、なぜそうするのか、体で理解できるようになった」と彼は言っていました。

このように、最初は理解できなくても、とにかく真似てみる。そうすることで、少しずつですが確実に成長していくのです。これが「見龍」の時期の学び方です。

二つ目は、社会的な地位を得て、リーダーになった時です。これは「飛龍」の時期と言えるでしょう。龍が空高く舞い上がり、その力を存分に発揮している状態です。

しかし、ここで注意が必要です。地位が上がれば上がるほど、人は傲慢になりがちです。「もう学ぶことなどない」「自分の考えが全て正しい」と思い込んでしまう危険性があるのです。

ここで思い出していただきたいのが、「大人を見るに利ろし」という言葉です。リーダーになっても、いや、リーダーになればなるほど、周りの声に耳を傾け、学び続ける姿勢が大切なのです。

私が経営者だった頃の話をさせていただきます。ある時、会社の業績が低迷し、打開策が見つからず悩んでいました。そんな時、新入社員が控えめに意見を言ってきたのです。最初は「何をこの若造が」と思いましたが、「大人を見るに利ろし」の教えを思い出し、じっくり耳を傾けました。すると、その意見が非常に斬新で、問題解決の糸口になったのです。

これは、周りの全てのものが自分の師になり得るということを教えてくれました。新入社員であっても、お客様であっても、はたまた競合他社であっても、そこから学べることは必ずあるのです。

リーダーがこの姿勢を持ち続けられるかどうかは、単にその人個人の問題ではありません。組織全体の成長、さらには存続にも関わる重要な問題なのです。

リーダーが学ぶ姿勢を持ち続けることで、組織全体が学習する組織になります。そして、そのような組織こそが、激しく変化する現代社会で生き残っていけるのです。

ある経営学者は「学習する速度が、唯一持続可能な競争優位性である」と言いました。つまり、個人であれ組織であれ、学び続ける能力こそが、長期的な成功の鍵なのです。

さて、ここで一つ面白い例を挙げてみましょう。動物の世界でも、「大人を見るに利ろし」の教えが生きています。例えば、チンパンジーの集団を観察すると、若いチンパンジーが年長のチンパンジーの行動を注意深く観察し、真似ている様子が見られます。道具の使い方や、食べ物の探し方など、生きていく上で必要なスキルを、この「見て学ぶ」という方法で身につけているのです。

人間社会でも、この本能的な学習方法が生きています。ですから、意識的にこの能力を活用することで、より効果的に成長できるのです。

最後に、もう一度強調しておきたいことがあります。それは、「大人を見るに利ろし」の教えは、決して上下関係や年齢の差を強調するものではないということです。むしろ、全ての人や物事から学ぶことができるという、開かれた心の大切さを教えてくれているのです。

若い皆さんには、どうか素直な心で周りの人々や出来事から学んでください。そして、将来リーダーになった時も、この学ぶ姿勢を忘れないでください。それが、皆さん自身の成長はもちろん、皆さんが率いる組織の発展にもつながっていくのです。

易経の教えは、何千年も前のものですが、このように現代にも通じる深い知恵を含んでいます。今日お話しした内容を、ぜひ心に留めておいていただければと思います。皆さんの輝かしい未来に、大いに期待しています。ありがとうございました。


参考出典

森羅万象に学ぶ~利権大人
「大人を見るに利ろし」という言葉は、修養を始めたばかりの人(見龍)にも、社会的地位を得たリーダー(飛龍)にも用いられている。
「見」の一字には、見る、見られる、まみえる、出会い、会見といった意味に加え、「聞く」という意味がある。つまり、アドバイスに従い、見て真似るということである。
修養の段階では、師のコピーに徹して、真似して学ぶ、見て体で覚える。そのためには素直に聞くことが大切なのである。
そして社会的リーダー、組織の頂点に立ってからは、人の意見に耳を傾ける。
組織の頂点に立つと、えてして人は学ぶ姿勢がなくなり、人の意見を聞かなくなる。しかし、リーダーがその地位を保つには、周りのすべての事象を師とみなし、見聞きして学ぶ姿勢を持つことが欠かせない。その姿勢の有無はリーダーのみならず、組織の存亡をも左右するのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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