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まいにち易経_0228【時中】

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日は「時中じちゅう」という概念についてお話ししたいと思います。「時中」とは、一言で言えば「適切なタイミングで、適切なことをする」ということです。しかし、これをただの時間の問題と捉えるのは少し狭い見方になります。易経で言う「時」は、単に時刻や時間だけを意味しているわけではなく、状況や環境、つまり空間全体も含んでいます。ですので、「時中」とは、時間や場所、そしてそのときの環境に応じて、最もふさわしい行動を取ることを意味しているのです。

例えば、農業を考えてみましょう。春に種を蒔き、夏に水をやり、秋に収穫するという流れは、自然の摂理に従ったものです。この流れに逆らって、冬に種を蒔こうとすれば、当然ながら収穫は期待できません。これが「時中」の基本的な考え方です。「今、何をするのが最も自然で適切か」を見極め、それに従って行動することが求められるわけです。

しかし、現実の社会では、この「時中」を実践することは容易ではありません。特にリーダーとしての立場に立つと、混迷した状況の中で最適な行動を選び取ることは、非常に難しいことです。変化のスピードが速く、環境も複雑に絡み合っている現代において、常に「正しいタイミング」を見極めることは、至難の業です。

それでも、易経は「どんな状況でも、必ず適切なタイミングが存在する」と教えています。つまり、どんなに難しい状況でも、そのときに最もふさわしい行動が必ずあるということです。この適切な行動を選び取る能力、これこそがリーダーにとって必要不可欠なスキルです。

「時中」をもう少し深く考えるために、ビジネスの世界でもよく使われる「タイミングの重要性」を例に挙げてみましょう。例えば、新しい商品を市場に投入する際、タイミングが早すぎれば、消費者の準備が整っておらず、製品が受け入れられないかもしれません。逆に、遅すぎれば、すでに競合が市場を占めてしまい、自社の製品が目立たなくなるリスクがあります。適切なタイミングを見極めて行動することが、成功への鍵となるのです。

また、「時中」はただタイミングを合わせるだけではなく、その時の環境や状況に対する適応力も含んでいます。例えば、リーダーシップにおいても、部下が困難な状況にあるときには、すぐに助け舟を出すべきか、それとも自分で解決させる時間を与えるべきか、状況に応じた対応が必要です。これもまた「時中」を実践する一例です。

易経では、変化の流れを読むこと、つまり「時」を見極めることが非常に重要とされています。これは、古代中国の哲学だけでなく、現代のリーダーシップにも通じる考え方です。常に変わり続ける世界の中で、状況に応じた柔軟な対応をすることが求められるのです。

少し興味深い例として、弓術を取り上げてみましょう。弓術では、ただ的に向かって矢を放つだけではなく、「的に当たる瞬間」を見極めることが重要です。風の動きや弓の張り具合、そして自身の心の状態まで考慮しなければなりません。矢を放つタイミングが少しでもずれてしまうと、的を外してしまう可能性があります。「時中」とは、この「的を射抜く瞬間」を見極める力でもあります。

リーダーとして、「時中」を体得するためには、まず自分自身の内面を見つめ直し、変化に対応する柔軟な心構えを持つことが大切です。そして、日々の経験を通じて、少しずつ適切なタイミングを掴む力を鍛えていくことが必要です。

「時中」はまた、忍耐とも関係しています。リーダーとして成功するためには、ただ早く行動するだけでなく、適切な瞬間を待つ忍耐力も必要です。良い機会が訪れるまで待つこと、そしてそのときに準備を整えて行動に移すことが、長期的な成功につながるのです。

易経が教える「時中」という考え方は、皆さんがこれからリーダーとして歩んでいく中で、非常に役立つ指針となるでしょう。これから先、多くの難題や不確実な状況に直面することがあるかもしれません。しかし、そのときに「今、何が最も適切な行動なのか」を冷静に判断する力を養うことで、どんな困難も乗り越えていくことができるでしょう。

最終的には、「時中」を実践することが、リーダーとしての成功を大きく左右する要素となると考えています。どうか、日々の経験を積み重ねながら、この「時中」という概念を意識して、リーダーシップを磨いていってください。


参考出典

時中
「時中」とは時にあたる。時の的を射ることをいう。「中」は中庸の中である。
ここでいう「時」とは、時間だけでなく、空間、環境も包含している。春に種を蒔くように、最も適切な当たり前の行動・対処をすることが大切なのである。
とはいえ、混迷した時に何が最も適切かを判断するのは至難の業である。常に変化する時の的を鋭く射ることは容易ではない。しかし、どんな時でも、必ず「時中」がある。それを見極め、時に趣く~この精神が易経の本懐である。

易経一日一言/竹村亞希子

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