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まいにち易経_1030【兆しを察する力:未来を切り開くリーダーの資質】

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「兆し」というと、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?例えば、春の訪れを告げるふきのとうの芽吹きのような、目に見える変化を想像されるかもしれません。しかし、易経が語る「兆し」は、もっと微妙で、まだ目に見えない変化のことを指しているのです。
これは、ちょうど氷山の一角のようなものだと考えてみてください。海面上に見える氷山の部分は、全体のほんの一部に過ぎません。本当に大切なのは、水面下に隠れている大きな部分なのです。易経の「兆し」も同じで、表面に現れる前の、水面下で起こっている微妙な変化を感じ取ることが重要なのです。

冬至という日は一年で最も昼が短く、夜が長い日です。でも、不思議なことに、冬至の日は実は春の始まりなのです。なぜなら、この日を境に少しずつ昼が長くなっていくからです。
ところが、皮肉なことに、本格的な寒さがやってくるのは冬至を過ぎてからなのです。これは、ビジネスや人生においても同じことが言えるかもしれません。物事が最も悪いように見える時こそ、実は良い方向に向かい始めている可能性があるのです。逆に、すべてが順調に見える時こそ、注意が必要かもしれません。

では、このような目に見えない「兆し」をどうやって察知すればいいのでしょうか?易経は、それには二つの方法があると教えています。

一つ目は、深い洞察力を養うことです。
これは、世の中の変化のパターンを学び、理解することから始まります。易経は、春夏秋冬の季節の移り変わりを基本として、世の中のあらゆる変化には一定の法則があることを説いています。
例えば、ビジネスの世界を考えてみましょう。どんな会社も、創業期、成長期、成熟期、衰退期という段階を経ていきます。これは自然界の四季のサイクルとよく似ています。この法則を理解していれば、自分の会社や競合他社がどの段階にあるのか、次にどんな変化が起こりそうなのかを予測しやすくなります。

二つ目は、直観力を磨くことです。
これは、論理的な思考だけでなく、感覚的に物事を捉える能力を高めることです。直観力は、長年の経験と深い洞察力の蓄積によって養われます。
例えば、ベテランの医師は、患者さんの些細な表情の変化や声の調子から、病気の兆候を感じ取ることができます。これは、まさに易経が教える「兆しを察する」能力の一例と言えるでしょう。
このような能力は、ビジネスの世界でも非常に重要です。市場の微妙な変化や、顧客の潜在的なニーズを感じ取ることができれば、競合他社に先んじて行動を起こすことができます。

ここで、私の経験を少し共有させていただきましょう。私が若い頃、ある大きなプロジェクトを任されたことがありました。表面上はすべてが順調に進んでいるように見えました。しかし、何かがおかしいという微妙な違和感を感じたのです。
その時、私は易経の教えを思い出しました。表面的な現象だけでなく、その裏に隠れている「兆し」を察知しようと努めたのです。綿密に調査した結果、プロジェクトの根幹に関わる重大な問題が潜んでいることが分かりました。早期に対策を講じることができたおかげで、大きな危機を未然に防ぐことができたのです。

このような経験を重ねるうちに、私は「兆し」を察知することの重要性を身をもって理解しました。それは単なる直感ではなく、長年の経験と学びの積み重ねによって培われた能力だったのです。

さて、ここで皆さんに考えていただきたいことがあります。今、皆さんの周りで起こっている変化の中に、何か重要な「兆し」が隠れているかもしれません。例えば、友人との何気ない会話の中に、新しいビジネスチャンスのヒントが潜んでいるかもしれません。あるいは、日々の業務の中で感じる小さな不便さが、革新的な製品やサービスのアイデアにつながるかもしれません。

重要なのは、そういった微妙な変化や違和感を無視せずに、注意深く観察し、考察することです。そして、その「兆し」が何を意味しているのか、どんな未来につながる可能性があるのかを想像してみることです。
ただし、ここで一つ注意が必要です。「兆し」を察知する能力は、一朝一夕には身につきません。易経が教えるように、これは長年の修養と実践によって培われるものなのです。

では、どうすればこの能力を磨くことができるでしょうか?
まず、日々の生活の中で意識的に観察力を高める努力をしてみてください。例えば、毎日同じ道を通勤する時でも、いつもと違う点はないか、何か変化が起きていないかを意識して見てみるのです。
また、様々な分野の本を読んだり、異なる背景を持つ人々と交流したりすることも大切です。多様な知識や経験を積むことで、物事を多角的に見る力が養われます。これは、「兆し」を察知する上で非常に重要な能力です。
さらに、自分の直感や違和感を大切にすることも忘れないでください。論理的な思考は確かに重要ですが、時として直感的な判断が正しい場合もあります。自分の感覚を信じる勇気を持つことも、リーダーには必要な資質です。

失敗を恐れないことも大切です。
「兆し」を読み違えることもあるでしょう。しかし、それも貴重な経験となります。失敗から学び、次につなげていく姿勢が、真のリーダーシップには不可欠なのです。

易経の教えは、2000年以上も前に生まれたものですが、現代のビジネスや人生においても非常に価値のある知恵を提供してくれます。皆さんがこれからリーダーとして成長していく中で、この「兆しを察する」という考え方を心に留めておいてください。
世の中は常に変化し続けています。その変化の中に潜む「兆し」を敏感に察知し、先を見通す力を持つことができれば、皆さんはきっと素晴らしいリーダーになれるでしょう。


参考出典

兆しを察する
易経は「時」を説き、「きざし」について言及している書物である。「春のきざし」といえば、ふきのとうが顔を出したというような現象をいうが、ここでいう「兆し」は、まだ現象化されていない目に見えない潜象、つまり物事に潜み隠れているわずかな変化の起こりをいう。冬至は一年で一番日が短く、この日を境に日は伸びていく。冬至は春が兆す日である。しかし、冬本番の時機は、冬至を過ぎた後にやってくる。
兆しを察知するとは、いわば物事にとっての冬至を知ることといっていいが、これを現象から読み取ることは、ほとんど不可能に近い。
では兆しはどうやって察するのか。それは修養を究め、直観、直知するのである。
易経は、春夏秋冬の巡りを基として、時の変化の原理原則、栄枯盛衰の法則を説いている。これを実践して学ぶことで、物事の全体の成り行きである大局を見通す力がつく。
やがて時の本質を見抜く洞察力が養われ、さらにわずかな兆しで先行きを察する直観力に発展するのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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