まいにち易経_1019【予期せぬ出会いが導くイノベーション】穴に入る。速かざるの客三人来るあり。これを敬すれば終には吉なり。[05䷄水天需:上六]
上六。入于穴。有不速之客三人來。敬之終吉。 象曰。不速之客來。敬之終吉。雖不當位。未大失也。
「速く」は「招く」と違い「需つ」の意味を持つ。速かざるとは需たない、つまり期待していないということである。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
招かざる客
『水天需』の上六にある「招かざる客」という言葉、これは皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。現代では、迷惑な客人を意味することが多いですが、本来の意味は少し違います。ここでの「招かざる客」とは、思わぬ助け手を指しているのです。
助け手を拒絶しない
人生には、予測できない困難が必ず訪れます。そういう時、私たちは往々にして頑なになり、外部からの助けを拒絶してしまうことがあります。特にリーダーとしての立場にあると、自分一人で全てを解決しようとする傾向が強くなるかもしれません。しかし、易経はこう教えています。本当に困った時に現れた救いの手を、追い返したり、逃げたりせずに、素直に受け入れなさいと。
実際の例から学ぶ
例えば、ペニシリンの発見を思い出してください。アレクサンダー・フレミングが休暇から戻ると、彼の実験室のペトリ皿にカビが生えていました。普通なら、それを失敗として片付けてしまうところですが、フレミングはその「招かざる客」であるカビに注目しました。そして、そのカビが細菌の成長を阻害していることに気づいたのです。これが、人類を救った抗生物質ペニシリンの発見につながりました。
また、ビジネスの世界でも同様の例があります。ポストイットの発明は、3M社の研究員スペンサー・シルバーが開発した「あまり強力ではない接着剤」が元になっています。当初、この接着剤は失敗作と見なされていました。しかし、同僚のアート・フライがこの「招かざる客」のような接着剤に新たな可能性を見出し、付箋として利用することを思いつきました。結果、ポストイットは世界中のオフィスで欠かせないアイテムとなったのです。
易経の教えと現代ビジネス
易経の教えは、古代中国のものでありながら、現代のビジネスシーンにも通じるものが多くあります。例えば、最近のビジネスの世界では「オープンイノベーション」という言葉がよく使われます。これは、社外からのアイデアや技術を積極的に取り入れることで、新しい価値を創造するという考え方です。まさに『水天需』の上六の教えそのものです。
パートナーシップの力
ここで一つ、面白い話をしましょう。皆さんもご存じの「アップル」と「マイクロソフト」という大企業、実は昔は激しいライバル関係にありました。しかし、1997年、アップルが経営危機に陥った時、マイクロソフトは思わぬ救いの手を差し伸べ、アップルに1億5000万ドルの投資を行いました。この一件は「招かざる客」の典型例と言えます。もしアップルがその助けを拒絶していたら、今のような成功はなかったかもしれません。
助け手を受け入れる勇気
リーダーシップにおいて、助け手を受け入れる勇気は、自己の限界を認めることでもあります。これは決して弱さではなく、むしろ強さの証です。自分一人で全てを背負い込むのではなく、周囲の人々との協力関係を築くことで、より大きな成果を達成することができます。
今日お話しした『水天需』の上六の教え、そして「招かざる客」の意味は、リーダーシップの本質を理解する上で非常に重要です。皆さんがこれからリーダーとして成長していく中で、困難に直面した時には、この教えを思い出してほしいと思います。思わぬ助け手を素直に受け入れることで、より良い未来を築いていけるでしょう。
参考出典
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