見出し画像

まいにち易経_1021【復帰の道を見失わないために: 反省と復活】復に迷う。凶なり。災眚あり。[24䷗地雷復:上六]

上六。迷復。凶。有災眚。用行師。終有大敗。以其國君。凶。至于十年不克征。 象曰。迷復之凶。反君道也。

上六は、ふくに迷う。凶なり。災眚さいせいあり。用ていくさる、ついに大敗することあり。その国君こくくんおよぶ、凶なり。十年に至るまでせいするあたわず。 象に曰く、迷復めいふくの凶なるは、君の道にそむけばなり。

迷復:犯した過ちに対して、間違いに気づかず、改めようとしなかったり、頑固に守り続けたりすること。
災眚:「災」は外的な要因による不幸を意味し、「眚」は自分の過失から生じた災いを指す。「災」は外から、「眚」は内から生じるものを意味し、「災眚」は災難全般を示す。
不克征:「克」は「勝つ」という意味で、「不克征」は「戦いに勝てない、任務を果たせない」という意味。
過ちを犯しても、それに気づかず、改めることをしないと、災いに見舞われる。天災や人災が続けて起こるだろう。こうした状況で兵を出しても、大敗北を喫するだろう。国を治める際にも、君主は凶運に見舞われる。この状況が変わらなければ、10年以内には戦争を行うべきではない。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「地雷復」という言葉を聞いて、何を想像されますか?地面から雷が復活するような、そんなイメージでしょうか。実は、この「復」という字には、「戻る」「回復する」という意味があるんです。つまり、この卦は「復帰」「復活」「回復」といったことについて教えてくれているのです。人生を歩んでいると、時には正しい道から外れてしまうことがあります。それは皆さんも経験があるのではないでしょうか。例えば、学生時代に勉強をサボってしまったり、約束を破ってしまったり……。そういった時、どうすればいいのでしょうか。易経はこう教えています。
「道を踏み外したら、自分を戒めて、速やかに戻るべきだ」と。
ここで大切なのは、「速やかに」という部分です。戻ることを躊躇していると、どんどん元の正しい道から遠ざかってしまうからです。

例えば、こんな状況を想像してみてください。友人と約束をしていたのに、うっかり忘れてしまった。気づいた時には約束の時間を30分も過ぎていた……。そんな時、皆さんならどうしますか?
「もう遅刻してしまったし、このまま行かないでおこう」
「言い訳を考えて、後で謝ろう」
「今すぐ連絡して、謝罪しよう」
易経の教えに従えば、3つ目の選択肢が正解です。これが「速やかに戻る」ということです。

でも、現実はそう簡単ではありませんよね。「恥ずかしい」「怒られるかも」「関係が壊れるかも」……そんな不安が頭をよぎり、戻ることを躊躇してしまう。これが「復に迷う」という状態です。
ここで、易経は厳しい警告を発しています。
「復に迷えば、永遠に道に戻れなくなる」と。これは恐ろしいメッセージですね。でも、考えてみれば納得できます。先ほどの例で言えば、謝罪を後回しにすればするほど、謝るのが難しくなっていきます。そして最終的には、その友人との関係が修復不可能になってしまうかもしれません。
この教えは、ビジネスの世界でも非常に重要です。例えば、会社の経営において間違った判断をしてしまった場合。その時、速やかに軌道修正するのか、それとも面子にこだわって間違いを認めないのか。後者を選んでしまうと、会社全体が危機に陥る可能性があります。

歴史上の例を挙げると、1985年にコカ・コーラ社が行った「ニューコーク」の導入が思い浮かびます(カンザス計画)。これは、長年親しまれてきたコカ・コーラの味を変更するという大胆な戦略でした。しかし、消費者の反発は予想以上に大きく、売り上げは急落。この時、コカ・コーラ社は速やかに判断を下し、わずか79日で元の味に戻しました。この素早い対応が、ブランドの信頼を回復させ、結果的に売り上げを伸ばすことにつながったのです。
このように、間違いを認めて速やかに軌道修正することは、個人でも組織でも非常に重要です。しかし、それは簡単なことではありません。なぜなら、人間には「自分の間違いを認めたくない」という心理が働くからです。
心理学では、これを「認知的不協和」と呼びます。自分の行動や決定と、それによって生じた結果との間に矛盾が生じた時、人間は往々にしてその矛盾を無視したり、正当化したりしようとするのです。これが「復に迷う」状態を引き起こす大きな要因の一つです。

では、どうすれば「復に迷う」状態を避けられるでしょう?

1つ目のポイントは、「自己認識」です。自分の行動や決定が正しいかどうか、常に冷静に観察する習慣をつけましょう。これは簡単なことではありませんが、例えば毎日日記をつけるなど、自分を客観視する機会を作ることが役立ちます。
2つ目は、「謙虚さ」です。完璧な人間などいません。間違いを犯すのは人間として当然のことだと受け入れる心の余裕を持ちましょう。そうすれば、間違いに気づいた時にも、素直に認めて修正することができるでしょう。
3つ目は、「勇気」です。間違いを認めて軌道修正するには、勇気が必要です。しかし、それは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、成長の証だと捉えましょう。

最後に、易経の言葉にある「災眚さいせい」について触れておきたいと思います。これは「わざわい」を意味する言葉です。「災」は外部からの禍、「眚」は自分が作り出してしまう禍を指します。
つまり、道を踏み外すことそのものは、時として避けられない「災」かもしれません。しかし、それを認めて戻ることを躊躇し、さらなる問題を引き起こしてしまうのは、まさに自分で作り出す「眚」なのです。

皆さんはこれから、様々な場面でリーダーシップを発揮することになるでしょう。その時、必ず判断を迫られる場面に直面します。そして、時には間違った判断をしてしまうかもしれません。しかし、それは決して恥ずべきことではありません。大切なのは、間違いに気づいた時に、速やかに軌道修正する勇気を持つことです。それこそが、真のリーダーシップなのです。

「過ちて改めざる、是を過ちという」という孔子の言葉があります。間違いを犯すことよりも、それを認めて改めないことの方が本当の過ちだというのです。これは、まさに易経の教えと通じるものがあります。

子曰、過而不改、是謂過矣。
いわく、あやまちて改めざる、れをあやまちとう。

論語:衛霊公

参考出典

復に迷う
地雷復の卦は、復帰・復活・回復の時を表す。また、正しい道から逸れてしまった時の戻り方を説いている。
「復に迷う」とは道に迷うわけでなく、踏み外したと自覚しているのに、元に戻ることを迷うこと。「災眚さいせい」はわざわい。「災」は外部からの禍をいい、「眚」は自分がわざわざ作ってしまう禍をいう。
道を踏み外したら自戒して速やかに復るべきである。復に迷えば永遠に道に戻れなくなると易経は警告している。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #地雷復


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集