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まいにち易経_0114【陰陽の舞、世界を動かす調和】天地交わりて万物通ずるなり。上下交わりてその志同じきなり。[11䷊地天泰:彖伝]

彖曰。泰。小往大來。吉亨。則是天地交而萬物通也。上下交而其志同也。内陽而外陰。内健而外順。内君子而外小人。君子道長。小人道消也。

彖に曰く、泰は、小往き大来る。吉にして亨る。即ちこれ天地交わって万物通ずるなり。上下交わってその志し同じきなり。内陽にして外陰なり。内健にして外順なり。内君子にして外小人なり。君子、道長みちちょうじ、小人、道消みちしょうするなり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「天地の交わり」とは何を意味するのでしょうか。これは、天の気と地の気が交わることで、この世界のあらゆるものが生まれるという考え方です。言い換えれば、上と下が交わり、互いの意志が通じ合うことを表しているのです。

例えば、自然界を見てみましょう。太陽の光と大地の養分が交わることで、植物が育ちます。雨と土が交わることで、生命の源である水が地中に蓄えられます。これらはまさに「天地の交わり」の具体例と言えるでしょう。

ビジネスの世界でも同じことが言えます。経営者と従業員が互いの考えを理解し合い、同じ目標に向かって協力することで、大きな成果を生み出すことができるのです。これも「天地の交わり」の一つの形と考えることができます。

ここで一つ、面白い話をご紹介しましょう。古代中国の名将、孫子は「天の時、地の利、人の和」という言葉を残しました。これは、勝利を得るためには「天の時(タイミング)」「地の利(地形や環境)」「人の和(人々の協力)」の3つが必要だという教えです。この「人の和」こそ、まさに「天地の交わり」の精神そのものだと言えるでしょう。

さて、『地天泰』の教えでは、このような「天地の交わり」が実現している状態を「天下泰平」と呼びます。これは、世の中の秩序や経済が良好に保たれている状態を指します。そんな時代には、どのようなことが起こるのでしょうか。

まず、人徳を備えた人物が重要な位置に就き、その力を十分に発揮することができます。これは、組織や社会にとって非常に重要なことです。なぜなら、優れたリーダーシップを持つ人が適切な立場にいることで、組織全体がより良い方向に向かうからです。

ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。古代ローマの五賢帝時代というものがありました。これは、ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスという5人の皇帝が続けて統治した約80年間のことを指します。この時代、ローマ帝国は最も繁栄し、平和で安定した社会を築いたと言われています。これは、人徳を備えた人物が重要な位置に就いた結果、「天下泰平」の状態が実現した好例と言えるでしょう。

次に、『地天泰』の教えでは、このような時代には「私利私欲の小人は遠ざけられる」と言います。つまり、自分の利益だけを追求する人々は重要な立場から離れていくのです。これは、組織や社会の健全性を保つ上で非常に重要なポイントです。

皆さんも、学校や部活動、アルバイトなどで、自分の利益ばかりを考える人と一緒に仕事をした経験があるかもしれません。そういう人がいると、チームの雰囲気が悪くなったり、目標の達成が難しくなったりしませんでしたか? 『地天泰』の教えは、そのような状況を避け、より良い環境を作ることの大切さを教えてくれているのです。

さらに、『地天泰』では「人々は段々と徳を身につけるよう感化される」とも言います。これは、良い環境の中で過ごすことで、人々が自然と良い影響を受け、自分自身も成長していくという意味です。

例えば、皆さんの中にも、尊敬できる先輩や先生と出会って、「自分もあの人のようになりたい」と思った経験があるのではないでしょうか。それこそが、まさに「感化される」ということなのです。

心理学には「社会的学習理論」というものがあります。これは、人は他者の行動を観察し、模倣することで学習するという理論です。つまり、私たちは意識的にも無意識的にも、周りの人々から影響を受けて成長しているのです。『地天泰』の教えは、この心理学の理論とも通じるものがあると言えるでしょう。

しかし、『地天泰』の教えは、良い時代のことだけを語っているわけではありません。「世の中が乱れている時は、小人どもが重要な位置を占めているものだ」とも言っています。これは、社会や組織が混乱している時には、自己中心的な人々が力を持ってしまうことがある、という警告でもあるのです。

歴史を振り返ると、権力の座についた人物の私利私欲によって、国家が混乱に陥った例は数多くあります。例えば、ローマ皇帝ネロは、自分の欲望を満たすために贅沢な宮殿を建設し、その費用を賄うために重税を課しました。これにより、民衆の不満が高まり、最終的には帝国の衰退につながったと言われています。

このような例は、現代の組織や社会にも当てはまります。自己中心的な考えが蔓延すると、組織の目標や理念が軽視され、長期的な成功や持続可能性が損なわれてしまうのです。

では、将来のリーダーを目指す皆さんは、『地天泰』の教えから何を学べるでしょうか。

まず、「天地の交わり」の重要性を理解し、実践することです。つまり、上下の立場を超えて互いの考えを理解し合い、共通の目標に向かって協力することの大切さを忘れないでください。

次に、自分自身が「人徳を備えた人物」になるよう努力することです。知識や技術を磨くことはもちろん大切ですが、それと同じくらい、人間性を高めることも重要です。誠実さ、思いやり、公平さなどの徳を身につけることで、周りの人々からの信頼を得ることができるでしょう。

そして、「私利私欲の小人」にならないよう、常に自分自身を省みることも大切です。自分の行動が組織や社会全体の利益につながっているかどうか、常に考える習慣をつけてください。


参考出典

天地の交わり
天の気と地の気が交わって地上の万物が生まれ、上下が交わって意志が通じる。
天地が交わる、上下が交わるとは、陰陽が交わること。陰陽が交わらなければ、この世の何ものも生育することはない。
男と女が交わって子供が生まれる。会社組織であれば、経営者と部下の志が一つになって大事業が成り立っていく。
地天泰は天下泰平の時を表すめでたい卦。
世の中の秩序や経済がよりよく保たれている時は、人徳を備えた人物が重要な位置に就きその力を発揮する。私利私欲の小人は遠ざけられ、人々は段々と徳を身につけるよう感化される。世の中が乱れている時は、小人どもが重要な位置を占めているものだ。

易経一日一言/竹村亞希子

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