まいにち易経_1211【聞く力の象徴:「鼎の耳」とリーダーの本質】鼎黄耳金鉉あり。[50䷱火風鼎:六五]
六五。鼎黄耳金鉉。利貞。 象曰。鼎黄耳。中以爲實也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、「鼎」という言葉自体についてお話ししましょう。
鼎とは、古代中国で使われていた三本脚の大きな鍋のことです。祭りの際に供物を調理するのに使われ、同時に国の権威の象徴でもありました。今日でいえば、国旗や国璽のような存在だったのでしょう。
この鼎には、運ぶための取っ手、つまり「耳」が付いていました。耳が壊れてしまったら、鼎を運べなくなってしまいます。ですから、この耳は非常に重要な部分だったのです。そのため、鼎の耳は「王の耳」に例えられるようになりました。
さて、ここで皆さんに質問です。リーダーにとって最も大切な能力は何だと思いますか?カリスマ性でしょうか?決断力でしょうか?それとも先見性でしょうか?もちろん、それらも重要です。しかし、この『鼎』の卦が教えてくれるのは、実は「聴く力」こそがリーダーにとって最も重要な能力の一つだということなのです。
なぜでしょうか?それは、リーダーが一人で全てを知り、全てを決められるわけではないからです。組織が大きくなればなるほど、一人の力では限界があります。だからこそ、周りの意見に耳を傾け、多様な視点を取り入れることが不可欠なのです。
この「聴く力」を象徴するのが、鼎の耳に通された「金鉉」です。金鉉とは、鼎を担ぐための棒のことですが、ここでは賢者の諫言や知恵、明晰な判断力を表しています。つまり、リーダーの耳に、周りの賢明な意見が届いているイメージです。
このように、虚心坦懐に人の意見を聞くリーダーの耳のことを、「黄金の耳」と呼びます。黄金は、錆びることなく、いつまでも輝き続ける貴重な金属です。同じように、真摯に耳を傾け続けるリーダーの姿勢は、組織にとってかけがえのない財産となるのです。
ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。16世紀の日本で、天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は、「黄金の耳」を持っていた人物の一人だと言えるでしょう。秀吉は、身分の低い農民の出身でありながら、頭角を現し、最終的には全国を統一するまでに至りました。その秘訣の一つが、周りの意見に耳を傾ける能力だったのです。
例えば、秀吉は家臣たちと食事を共にする際、必ず各テーブルを回って話を聞いていたと言われています。また、戦略を立てる際も、常に部下たちの意見を求め、それを取り入れていました。
このような姿勢があったからこそ、秀吉は様々な階層の人々の支持を得て、天下統一という大事業を成し遂げることができたのでしょう。
さて、では具体的に、私たちはどのようにして「黄金の耳」を持つリーダーになれるのでしょうか。いくつかのポイントをお伝えしたいと思います。
先入観を捨てる
まず大切なのは、先入観を捨てることです。「この人の意見はいつも的外れだ」とか、「若い人には分からないだろう」といった固定観念は、新しい発見や革新的なアイデアを見逃す原因になりかねません。誰の意見にも等しく耳を傾ける姿勢が重要です。積極的に聴く
ただ黙って聞いているだけでは不十分です。相手の話を理解しようと努め、適切な質問をすることで、より深い洞察を得ることができます。これを「積極的傾聴」と呼びます。非言語コミュニケーションにも注目する
言葉だけでなく、表情やボディランゲージにも注意を払いましょう。時として、言葉以上に多くのことを伝えていることがあります。異なる意見を尊重する
自分と異なる意見を聞いたとき、すぐに否定したくなる気持ちを抑えましょう。多様な視点があることこそ、組織の強みになります。フィードバックを求める
定期的に、自分のリーダーシップについてフィードバックを求めましょう。これにより、自分では気づかない改善点を見つけることができます。謙虚さを忘れない
リーダーになると、ついつい自分が全てを知っているかのように振る舞いがちです。しかし、常に学ぶ姿勢を持ち続けることが、真のリーダーシップには不可欠です。
これらのポイントを意識することで、私たちも「黄金の耳」を持つリーダーに近づくことができるでしょう。
ここで、現代のビジネスシーンでの具体例を挙げてみましょう。
ある大手IT企業の社長は、毎週金曜日の午後を「オープンドア」の時間に設定していました。この時間、社員は誰でも予約なしで社長室を訪れ、直接社長と話をすることができたのです。最初は、ほとんど誰も来ませんでした。しかし、社長が本当に熱心に話を聞き、可能な限り提案を実行に移していくうちに、徐々に訪れる社員が増えていきました。
ある日、入社したばかりの新入社員が訪れ、顧客サービスの改善案を提案しました。一見突飛な案に思えましたが、社長はじっくりと耳を傾け、その案を採用することにしたのです。
結果として、その改善案は大きな成功を収め、会社の売上を大幅に伸ばすことにつながりました。新入社員のアイデアを尊重し、実行に移した社長の「黄金の耳」が、会社に大きな利益をもたらしたのです。
このように、「聴く力」は単なる美徳ではありません。それは、組織を成功に導く重要な戦略的ツールなのです。
最後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。リーダーシップは生まれつきの才能ではありません。努力と経験によって、誰もが成長できるのです。
今日お話しした「黄金の耳」の概念を心に留め、日々の生活の中で実践してみてください。友人との会話、家族との対話、そしてもちろん、職場でのコミュニケーションにおいて。
最初は難しく感じるかもしれません。しかし、継続することで、きっと皆さんの中に「黄金の耳」が育っていくはずです。そして、その力は必ず、皆さんを優れたリーダーへと導いてくれるでしょう。
易経の教えは、何千年もの時を超えて、今なお私たちに大切なことを伝えてくれています。その深遠な知恵を、現代に生きる私たちの指針として活用していけたらすばらしいと思います。
皆さんの未来に、大いなる可能性を感じています。どうか自信を持って前に進んでください。そして、周りの声に耳を傾ける勇気を忘れずに。皆さんの「黄金の耳」が、きっと素晴らしい未来を創り出すことでしょう。
参考出典
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