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まいにち易経_1015【私物化の罠を避ける:透明性と共有の力】井収みて幕うことなかれ。[48䷯水風井:上六]

上六。井収勿幕。有孚元吉。 象曰。元吉在上。大成也。

上六は、井収せいくみとっておおうことなし。孚あれば元吉。 象に曰く、元吉にして上に在り、大いに成るなり。

井戸が修理された後は、井戸を蓋で覆わないで、民衆が利用できるようにすることが重要。こうすることで、君主の信頼や威信が天下に広がり、非常に吉祥となる。
この「蓋をしない井戸」は、実際には君主が天下の忠言を広く受け入れることの象徴であり、これによって天下が治まり、より多くの人々に恩恵を与えることができるという教訓を示している。
歴史書によれば、帝尭が治世を行っていたとき、側近たちは日々、国が泰平で民が安寧であると称賛していた。これに対して帝尭は心配し、実際の状況を聞くために宮殿の外に大きな鼓を置き、公告を出して、誰でも鼓を打って意見を述べることができるようにした。また、言葉を厳しくしないと意見を述べられない人々のために、宮殿の外に大きな木製の板を立て、人々が自由に君主の過ちを書き込めるようにした。これらの意見がどれだけ鋭くとも、追及されることはなかった。このようにして、帝尧は誠実に人々の意見を受け入れ、最終的に天下を治めたことで、聖明な君主として名を遺した。これが「井収む、幕う勿れ」の精神である。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「井」つまり「井戸」について考えてみましょう。昔の人々にとって、井戸はどれほど大切だったか、想像できますか?水は生命の源です。きれいな水がなければ、人は生きていけません。だからこそ、井戸は村の中心にあり、みんなで大切に守り、使っていました。
この「井戸」を、現代の「組織」や「会社」に置き換えて考えてみましょう。会社も、井戸と同じように、多くの人々の生活を支え、社会に貢献するものです。そして、その会社を運営する立場にある人は、井戸を管理する人のような存在なのです。
ここで、易経が私たちに警告しているのは何でしょうか。それは「私物化」という危険です。「井戸に覆いをしてはいけない」というのは、つまり「会社を自分のものだけにしてはいけない」ということです。

例えば、こんな話を聞いたことがあるでしょうか。古代ローマの水道橋は、2000年以上経った今でも使えるものがあるそうです。なぜでしょう?それは、建設した人々が「自分たちのため」だけでなく、「未来の人々のため」に作ったからです。彼らは、自分たちの利益だけでなく、社会全体の利益を考えていたのです。これは、現代の企業経営にも通じる考え方です。会社は、経営者や株主だけのものではありません。従業員、顧客、取引先、地域社会など、多くの人々と関わっています。だからこそ、会社の情報をオープンにし、誰もが理解できるように運営することが大切なのです。
「透明性」という言葉、よく聞きますよね。実は、この言葉が経営用語として使われ始めたのは、1980年代からだそうです。それまでは「企業秘密」という言葉のほうが一般的でした。しかし、情報化社会が進むにつれ、「隠す」より「見せる」ことの重要性が認識されるようになったのです。

さて、ここで皆さんに考えていただきたいことがあります。もし皆さんが会社の経営者になったとき、どのように会社を運営しますか?自分の利益だけを考えますか?それとも、社会全体の利益を考えますか?
易経の教えは、後者を選ぶべきだと言っています。なぜなら、会社は社会の中で生きているからです。社会に貢献することで、会社自体も成長し、繁栄することができるのです。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じます。SDGsは、「誰一人取り残さない」ことを理念としています。つまり、一部の人だけが豊かになるのではなく、社会全体が持続可能な形で発展することを目指しているのです。これは、まさに「井戸を皆で使う」という考え方と同じですね。

では、具体的に何をすればいいのでしょうか。易経は「しっかりとした管理体制を完成させる」ことが大切だと言っています。これは、単に規則やシステムを作ればいいというわけではありません。大切なのは、その組織の一人一人が、組織の目的や価値観を理解し、それに基づいて行動することです。例えば、ある会社では、毎週月曜日の朝に全社員で会社の理念を唱和するそうです。一見、形式的に見えるかもしれません。しかし、この習慣によって、社員全員が会社の目的を常に意識し、それに向かって仕事ができるのです。また、情報公開も重要です。財務情報はもちろん、環境への取り組みや社会貢献活動など、会社の活動を広く公開することで、社会からの信頼を得ることができます。これは、「井戸の水をきれいに保つ」ことに例えられるでしょう。日本には「三方よし」という考え方があります。これは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という意味で、商売は自分だけでなく、取引相手や社会全体にとっても良いものでなければならないということです。この考え方は、300年以上前の近江商人から伝わるものですが、現代のビジネスにも通用する素晴らしい教えです。

さて、ここまでのお話を聞いて、皆さんはどう感じましたか?「理想は分かるけど、現実はそう簡単じゃない」と思った人もいるかもしれません。確かに、現実の経営は難しい判断の連続です。しかし、だからこそ、このような普遍的な教えが重要なのです。
易経の教えは、単なる道徳論ではありません。長い歴史の中で、多くの人々の経験や知恵が凝縮されたものです。それは、時代や文化を超えて、私たちに重要な示唆を与えてくれるのです。


参考出典

私物化への警告
井戸は広く万人を養うものであり、いつでも水を汲み上げて用いるものである。それゆえに、決して井戸に覆いをして私物化してはならない。
この井戸の役割、構造や用い方、その管理は国や会社組織に見立てられる。 会社は広く社会に貢献して人を養うことが役目である。ゆえに経営者は会社を私物化してはならない。情報公開や透明性を重んじ、しっかりとした管理体制を完成させなければならないのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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