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まいにち易経_1020【逆境からの成長】身に反りて徳を修む。[39䷦水山蹇:象伝]

象曰。山上有水蹇。君子以反身脩徳。

象に曰く、山上に水あるは蹇なり。君子以て身にかえりて徳をおさむ。

蹇卦の卦象は、山(艮)の上に水(坎)がある状態を表し、高い山の上に水がたまる姿を象徴している。これは困難や障害があること、行動が困難であることを示す。このような状況に直面したとき、君子は自身を省みて、徳を高める努力をすべきだとされる。自身の努力を通じて、この困難な状況を乗り越えることが求められる。

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未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「水山蹇」という言葉の意味からお話ししましょう。「水」は川や海のような流れるものを、「山」は動かない大きな障害物を表しています。つまり、この状況は、まるで大きな山の前に立ちはだかられて、前に進めない様子を表現しているのです。皆さんも、人生で行き詰まりを感じたことがあるのではないでしょうか?この教えが伝えようとしているのは、そんな困難な状況に直面したときの心構えです。易経では、これを「四大難卦」の一つとして位置づけています。つまり、人生最大級の試練を表しているわけです。

ここで、ちょっとした豆知識をお話ししましょう。日本の歴史上の人物で、この「水山蹇」の教えを体現した人物として、徳川家康が挙げられます。家康は若い頃、何度も命の危機に瀕し、敗北を経験しました。しかし、その度に自分を省みて学び、最終的には天下統一を成し遂げました。まさに、困難を乗り越えて成長した例と言えるでしょう。

さて、このような困難な状況に直面したとき、私たちはどうしても心が荒んでしまいがちです。「なぜ自分だけがこんな目に遭うのか」と天を恨んだり、「あの人のせいだ」と他人を責めたくなったりします。しかし、易経はそれが解決への道ではないと教えています。
では、どうすればよいのでしょうか?ここが肝心なところです。易経は、そんなときこそ自分自身を見つめ直す絶好の機会だと教えています。「自分にはまだ力が足りないのではないか」「もっと鍛錬が必要なのではないか」「まだまだ成長の余地があるのではないか」と、自分自身を厳しく見つめ直すのです。

これは決して自分を卑下することではありません。むしろ、自分の可能性を信じ、さらなる高みを目指すための大切なステップなのです。

皆さんは盆栽をご存知でしょうか?盆栽師は、木の成長を抑制することで、逆説的にその木の生命力を引き出します。枝を切り、根を制限することで、木は限られた資源の中で最大限の美しさを表現するのです。これは、まさに困難な状況下で自己を高めていく過程に似ています。私たち人間も同じです。困難という「盆栽鉢」の中で、いかに自分の可能性を開花させるか。それが「水山蹇」の教えの本質だと言えるでしょう。

ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。今、あなたの人生で直面している困難は何でしょうか?それは学業かもしれません。仕事かもしれません。人間関係かもしれません。その困難を、自分を成長させるチャンスだと捉え直すことはできないでしょうか?

例えば、仕事で大きな失敗をしてしまったとします。そんなとき、「なんで自分だけが」と嘆くのではなく、「この経験から何を学べるだろうか」と考えてみましょう。失敗の原因を冷静に分析し、次に活かす道を探るのです。これこそが、「水山蹇」の教えを実践することなのです。

また、人間関係で行き詰まりを感じたときも同様です。相手を責めるのではなく、自分のコミュニケーション能力を高める機会だと捉えられないでしょうか?相手の立場に立って考える練習をしたり、自分の感情をより適切に表現する方法を学んだりすることで、より豊かな人間関係を築く力が身につくかもしれません。

ここで、もう一つ重要なポイントをお話ししましょう。「水山蹇」の教えは、決して一人で全てを抱え込めと言っているわけではありません。むしろ、自分の限界を知り、適切に助けを求める賢明さも教えているのです。
例えば、ビジネスの世界では、優れたリーダーは自分の弱点を認識し、それを補う人材を適切に配置することができます。これも「水山蹇」の教えを実践している一例と言えるでしょう。

さらに、この教えは長期的な視点の重要性も示唆しています。目の前の困難に囚われるあまり、大局を見失ってはいけません。一時的な後退や停滞が、より大きな飛躍のための準備期間となることもあるのです。
例えば、キャリアにおいて、一時的に昇進が止まったように感じることがあるかもしれません。しかし、その期間を自己研鑽の時間と捉え、新しいスキルを身につけたり、人脈を広げたりすることで、将来的により大きなチャンスをつかむことができるかもしれません。

最後に、「水山蹇」の教えは、困難を乗り越えた先にある喜びの大きさも示唆しています。山を登る苦労が大きければ大きいほど、頂上からの景色はより素晴らしいものとなるでしょう。同様に、大きな困難を乗り越えた後の成長と達成感は、何物にも代えがたい人生の財産となるのです。

皆さん、人生の道のりは決して平坦ではありません。むしろ、険しい山あり、深い谷ありの変化に富んだものです。しかし、「水山蹇」の教えを胸に刻んでおけば、どんな困難も乗り越えられる力が皆さんの中にはあるのです。

困難に直面したとき、それを嘆くのではなく、自己成長の機会として捉える。自分を厳しく見つめ直し、さらなる高みを目指す。そして、その過程を通じて、より強く、より賢明な人間になっていく。これこそが、「水山蹇」の教えが私たちに示す人生の指針なのです。

皆さんがこれから歩む人生の道のりで、この「水山蹇」の教えが、困難を乗り越える力強い指針となることを心から願っています。そして、その先に待っている素晴らしい景色を、皆さんが必ず見ることができると信じています。


参考出典

猛省して努力する
水山蹇の卦は大変な難事、険難の時を説く、四大難卦の一つである。
乗り越えるのは不可能かと思われるほどの大変な悩み苦しみの渦中では、心が荒んで、天を恨み、人を責めたくなる。しかし、それでは解決にならず、ますます難がけわしくなるだけである。
いかに自分に力がないか、鍛えられていないか、育ってないかを猛省して、一層、自分を高める努力をせよと戒めている。

易経一日一言/竹村亞希子

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