まいにち易経_0130【順天応人:時代を動かす大義の力】天地革まって四時成り、湯武命を革めて、天に順い人に応ず。革の時大いなるかな。[49䷰澤火革沢:彖伝]
彖曰。革。水火相息。二女同居。其志不相得。曰革。己日乃孚。革而信之。文明以說。大亨以正。革而當。其悔乃亡。天地革而四時成。湯武革命。順乎天而應乎人。革之時大矣哉。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、「革」という字について考えてみましょう。この字は「なめし革」を表していますが、皮を革に変える過程を想像してみてください。それは決して簡単なものではありません。時間がかかり、努力と根気が必要です。しかし、その結果得られるものは、元の素材よりもはるかに価値があり、用途が広いものになります。これは、社会の変革や組織の改革にも通じる考え方だと思います。
さて、『澤火革』の教えの核心は「順天応人」という言葉に集約されています。これは「天の道理に従い、人々の願いに応える」という意味です。ここでいう「天」は、自然の摂理や時代の流れといったものを指します。「人」は、もちろん私たちの周りにいる人々のことです。
この考え方は、古代中国の王朝交代の際にも重要視されました。例えば、夏王朝から殷王朝へ、殷王朝から周王朝への移行です。これらの革命は、単なる権力争いではありませんでした。それぞれの時代において、民衆の苦しみを救い、より良い社会を作ろうとする志があったのです。
ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。現代社会において「順天応人」とはどのようなものでしょうか?例えば、環境問題への取り組みは、まさに自然の摂理(天)に従い、人々の願い(人)に応えるものと言えるでしょう。あるいは、テクノロジーの進化に合わせた働き方改革なども、時代の流れに沿った人々のニーズに応える取り組みと言えるかもしれません。
ここで一つ、興味深い例を挙げてみましょう。皆さんは「ガラパゴス化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、日本の携帯電話産業が世界の潮流から取り残されてしまった現象を指す言葉です。高機能な日本の携帯電話は国内では評価されましたが、世界標準からかけ離れてしまい、結果的に国際競争力を失ってしまいました。これは、「順天応人」の考え方から外れてしまった例と言えるかもしれません。つまり、世界の潮流(天)と、グローバルな消費者のニーズ(人)を見誤ってしまったのです。
一方で、「順天応人」の精神を体現した成功例もあります。例えば、トヨタ自動車のハイブリッド車開発です。環境問題への意識の高まり(天)と、低燃費車へのニーズ(人)を先取りし、プリウスを開発しました。これは世界中で高い評価を得て、環境車市場におけるリーダーシップを確立することにつながりました。
ここで強調しておきたいのは、「順天応人」の「順天」は、必ずしも現状維持を意味するものではないということです。時には大きな変革、つまり「革命」が必要になることもあります。しかし、その変革は私利私欲のためであってはなりません。あくまでも大義、つまり多くの人々の幸福のためでなければならないのです。
歴史を振り返ると、真の変革者たちは常にこの原則に従っていたことがわかります。例えば、マハトマ・ガンジーのインド独立運動、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの公民権運動、ネルソン・マンデラの反アパルトヘイト運動などです。彼らは皆、時代の要請(天)と人々の願い(人)に応えようとしました。
しかし、ここで注意しなければならないのは、「順天応人」の判断は決して容易ではないということです。何が本当の「天の道理」で、何が真の「人々の願い」なのか、それを見極めるのは非常に難しい課題です。時として、短期的な利益や表面的な要求に惑わされることもあるでしょう。だからこそ、リーダーには広い視野と深い洞察力が求められるのです。
また、「革命」や大きな変革は、往々にして抵抗を伴います。なぜなら、どんな改革も必ず既得権益を持つ人々の反発を招くからです。そのため、変革を推し進めるリーダーには、強い意志と高い倫理観が必要になります。自分の行動が本当に「順天応人」の精神に基づいているのか、常に自問自答する姿勢が大切です。
ここで、もう一つ興味深い例を挙げてみましょう。皆さんは「シェアリングエコノミー」という概念をご存じでしょうか?これは、個人が持っている遊休資産(車や住宅、スキルなど)を他の個人と共有する経済の仕組みです。Uber(配車サービス)やAirbnb(民泊サービス)などがその代表例です。
これらのサービスは、デジタル技術の進化という時代の流れ(天)と、より効率的で柔軟な消費形態を求める人々のニーズ(人)に応えたものと言えます。しかし同時に、既存のタクシー業界やホテル業界との軋轢も生み出しました。これは、新しい「順天応人」の形が、従来の秩序と衝突する典型的な例です。
このような状況下でリーダーに求められるのは、新しい価値創造と既存の利害関係者への配慮のバランスを取ることです。革新を推し進めながらも、社会の調和を乱さないよう慎重に舵取りをする必要があります。これこそが、現代における「順天応人」の難しさであり、同時に醍醐味でもあるのです。
最後に、皆さんへのメッセージをお伝えしたいと思います。
これからのリーダーである皆さんには、常に大局を見る目を持っていてほしいと思います。目の前の利益だけでなく、長期的な視点で物事を判断する力を養ってください。そして、自分の組織や社会がどこに向かっているのか、人々は何を求めているのか、常に敏感でいてください。
同時に、自分自身の価値観や倫理観を大切にしてください。「順天応人」の精神に基づいた変革は、必ずしも楽な道のりではありません。時には孤独を感じることもあるでしょう。しかし、その変革が本当に必要なものであれば、必ず共感する人々が現れ、やがては大きなうねりとなるはずです。
リーダーシップとは、単に人々の意見に従うことではありません。時には逆風に立ち向かい、人々を新しい方向に導くことも必要です。しかし、それは独善的であってはなりません。常に「天の道理」と「人々の願い」を見極める努力を怠らないでください。
皆さん一人一人が、この「順天応人」の精神を胸に刻み、より良い社会の実現に向けて邁進していくことを、心から期待しています。未来は皆さんの手の中にあるのです。頑張ってください。
参考出典
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