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まいにち易経_1126【光を秘す部下の美学】章を含みて貞にすべし。[02䷁坤為地:六三]

六三。含章可貞。或從王事。无成有終。 象曰、含章可貞、以時発也。或従王事、知光大也。

六三は、あやを含みて貞にすべし。あるいは王事に従う。成すことなくして終わること有り。 象に曰く、章を含む、貞にすべし、時を以て発するなり。或いは王事に従う、知光大なり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さんは「才能」についてどのようにお考えでしょうか?多くの人は、自分の才能を存分に発揮したい、認められたいと思うものです。しかし、易経はここで興味深いことを教えてくれています。

あやを含む」という言葉があります。「章」とは、キラリと光る才能や才覚のことです。そして「含む」というのは、その才能をすぐには表に出さない、という意味なのです。これは一見、矛盾しているように思えるかもしれません。せっかくの才能があるのに、なぜ隠さなければいけないのでしょうか?
実は、これこそが優れた部下、そして将来の優れたリーダーになるための重要な心得なのです。才能をひけらかさず、与えられた仕事に黙々と従う。これが部下の道だと易経は教えています。でも、これは単に自分を抑えつけることではありません。むしろ、長い目で見たときに自分の才能を最大限に活かす方法なのです。

例えば、植物の成長を考えてみましょう。種は地中に埋まっていて、外からは見えません。しかし、その中で着実に根を張り、芽を出す準備をしているのです。そして、十分に力をつけたときに、初めて地上に姿を現します。
皆さんの才能も、まさにこの種のようなものです。今はまだ見えないかもしれません。しかし、日々の仕事や経験を通じて、着実に成長しているのです。

ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。
徳川家康は若い頃から優れた才能を持っていましたが、長い間、織田信長や豊臣秀吉の下で黙々と仕事をこなしていました。自分の才能をひけらかすことなく、与えられた役割を忠実にこなし続けたのです。そして、時が来たとき、彼は自分の才能を存分に発揮し、日本を統一する大きな仕事を成し遂げました。まさに、「章を含む」の教えを体現した人物だといえるでしょう。

では、なぜこのような態度が重要なのでしょうか?
まず、謙虚さを示すことで、周りの人々からの信頼を得ることができます。才能をひけらかす人は、往々にして周囲の反感を買いがちです。しかし、自分の能力を控えめに表現しながら着実に仕事をこなす人は、周囲から信頼され、尊敬されるものです。

次に、自分自身の成長にもつながります。与えられた仕事に真摯に向き合うことで、新しい知識やスキルを身につけることができます。これは、将来リーダーになったときに、大いに役立つはずです。
さらに、長期的な視点で自分のキャリアを考えることができるようになります。目先の評価や認知にとらわれず、将来のより大きな成功のために今を生きることができるのです。

ここで、もう一つ興味深い例を挙げてみましょう。
皆さんは、アップル社の共同創業者であるスティーブ・ジョブズについて聞いたことがあるでしょう。彼は若い頃、アタリという会社でエンジニアとして働いていました。そこで彼は、自分の才能を誇示するのではなく、与えられた仕事を黙々とこなしました。
その経験が後に、アップル社を世界的な企業に成長させる基礎となったのです。彼は「章を含む」の教えを知らなかったかもしれませんが、結果的にその精神を実践していたといえるでしょう。

しかし、ここで誤解してほしくないのは、この教えは決して自分の才能を完全に隠せと言っているわけではないということです。むしろ、適切なタイミングと方法で才能を発揮することの重要性を説いているのです。
それは、ちょうど料理人が最高の料理を作るときのようなものです。優れた料理人は、素材の味を引き出すために、調理の順序や火加減を綿密に計算します。早すぎず、遅すぎず、ちょうど良いタイミングで火を通し、調味料を加えます。

同じように、皆さんも自分の才能を育て、適切なタイミングで発揮することが大切です。そのためには、日々の仕事や学びを通じて、自分の能力を磨き続けることが欠かせません。また、この教えは単に個人の成功のためだけではありません。組織全体の調和と成功にも大きく貢献します。

例えば、オーケストラを想像してみてください。オーケストラは多くの優れた演奏家で構成されていますが、全員が同時に自分の才能を最大限に発揮しようとすれば、結果は混沌としたノイズになってしまいます。
しかし、それぞれの演奏家が全体の調和を考え、適切なタイミングで自分の役割を果たすとき、美しい音楽が生まれるのです。組織も同じです。一人一人が「章を含む」の精神で行動することで、組織全体が調和し、大きな成果を上げることができるのです。

最後に、この教えは決して消極的になることを勧めているわけではないことを強調しておきたいと思います。むしろ、より大きな成功のために、今を耐え、学び、成長する積極的な姿勢を説いているのです。
それは、マラソンランナーが長距離を走るときの心構えに似ています。スタート直後から全力疾走すれば、すぐに力尽きてしまうでしょう。しかし、適切なペース配分で走れば、最後まで走り切り、そして優勝することもできるのです。

皆さんの人生も、まさにこのマラソンのようなものです。今は、自分の才能をじっくりと育てる時期かもしれません。しかし、適切なタイミングが来たとき、その才能を存分に発揮し、大きな成功を収めることができるでしょう。「章を含む」の教えは、そのための重要な指針となるはずです。自分の才能に気づきつつも、それを慎重に育て、適切なタイミングで発揮する。これこそが、真のリーダーシップの基礎となるのです。


参考出典

部下の心得
あや」はきらりと光るもの、才能、才覚をいう。これは臣下、部下の道を示している言葉。「章を含む」とは、明徳をあらわにしないこと。つまり、才覚をひけらかさず、命ぜられることにじっと耐えて従うこと。それが部下の道だと教えている。
現実を見ても、才能と知恵のある部下ほど、時に才覚を発揮してもひけらかさず、功績が認められなくても不満をいわないものである。

易経一日一言/竹村亞希子

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