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まいにち易経_1022【明察と迅速な問題処理の重要性】山上に火あるは旅なり。君子もって明らかに慎み刑を用いて獄を留めず。[56䷷火山旅:象伝]

象曰。山上有火旅。君子以明愼用刑而不留獄。

象に曰く、山の上に火あるはりょなり。君子以てあきらかにつつしんで刑を用いて獄をとどめず。

山の上に火があるのが旅であり、君子はこれを見て、刑罰を慎重に用い、裁判を長引かせない。
旅卦の卦象は、艮(山)の下に離(火)があり、火が急速に燃え広がる様子を表している。これは旅人が急いで旅をしていることを象徴しており、君子はこの卦を観て、刑罰に慎重に臨み、速やかに裁きを行うべきだと教えている。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「火山旅」というのは、山で火が燃えている様子を表しています。でも、その火はただ一か所で燃えているわけではありません。次々と移動していくのです。これは、私たちの人生や仕事の中で直面する問題や課題が、常に変化し、移り変わっていくことを表しているのかもしれません。

さて、この教えは主に二つのことを私たちに伝えています。

一つ目は、人々の過ちや問題に対する対処の仕方についてです。リーダーとしては、人々の間違いをしっかりと見極める必要があります。でも、それと同時に、罰を与える際には慎重でなければいけません。これは、例えば会社で誰かがミスをしたときのことを考えてみるとわかりやすいでしょう。
ミスを見過ごすわけにはいきませんが、かといって厳しすぎる対応をすれば、その人の成長の機会を奪ってしまうかもしれません。ですから、適切な指導や改善の機会を与えることが大切なのです。
これは、私が若いころに経験した出来事を思い出させます。新入社員だった私は、大きな商談で重大なミスをしてしまいました。その時の上司は、私を厳しく叱責するのではなく、そのミスから学ぶべきことを丁寧に教えてくれました。その経験が、私のその後の成長につながったのです。

二つ目は、問題解決の進め方についてです。問題を一箇所に留めず、明確に理解し、慎重に、しかし着実に前に進めていくことの重要性を教えています。これは、プロジェクト管理でよく言われる「ボトルネック」の解消と似ていると思います。一つの問題にこだわりすぎて全体の進行が滞ってしまうのは避けなければいけません。かといって、問題を放置してしまうのも良くありません。
私の経験から言えば、大きな問題に直面したときは、それを小さな部分に分割して、一つずつ解決していく方法が効果的でした。例えば、新製品の開発で予想外の障害に直面したときも、問題を細分化し、チーム全体で分担して取り組むことで、効率的に解決できました。

この「火山旅」の教えは、古代中国の知恵ですが、現代のビジネスや人生にも十分に通用する素晴らしい考え方だと思います。易経は紀元前1000年頃に成立したと言われていますが、その教えが2000年以上も受け継がれてきたのは、なぜだと思いますか?それは、易経が単なる占いの書ではなく、人生や社会の普遍的な真理を含んでいるからです。
例えば、「変化」という概念。易経では、世の中のすべてのものは常に変化し続けると考えます。これは現代の量子力学の考え方とも通じるものがあります。物質の最小単位である素粒子でさえ、常に振動し、変化し続けているのです。

この「変化」の概念を理解することは、ビジネスの世界でも非常に重要です。市場は常に変化し、顧客のニーズも変わり続けます。そのような中で成功するためには、固定観念にとらわれず、柔軟に対応する能力が求められるのです。また、易経の教えの中には、現代の心理学と共通する部分も多くあります。例えば、「内なる自己」と「外なる世界」のバランスを取ることの重要性など、カール・ユングの理論とも通じる点があります。
このように、古代の知恵は現代にも十分に通用するのです。だからこそ、皆さんにもこの「火山旅」の教えを心に留めておいてほしいと思います。

リーダーとしての道を歩む上で、必ず困難な場面に直面するでしょう。そのときに、この教えを思い出してください。問題を明確に理解し、慎重に、しかし着実に前に進める。そして、人々の過ちに対しては、厳しさと寛容さのバランスを取る。これらの姿勢が、皆さんを優れたリーダーへと導いてくれるはずです。

最後に、私の座右の銘をお伝えしたいと思います。「水は方円の器に従う」という言葉です。これは、人間は、交友関係や環境次第で、善にも悪にも感化されるという意味です。状況に応じて柔軟に対応することの大切さを表しています。この言葉も、今日お話しした「火山旅」の教えと通じるものがあります。

八~九世紀の中国の詩人、白居易(雅号は楽天)の詩の一節に由来します。晩年、彼は自身の人生を振り返り、その時々の状況や人間関係に流されながら生きてきた様子をこう例えました。
情の無い水は、方形や円形の器に従ってその形を変え、繋がれていない舟は、吹いたり止んだりする風に流されて進んでいく」(意志を持たない水は入れ物の形に合わせて変化し、岸に繋がれていない舟は風に任せて動いていく)。

皆さんには、固定観念にとらわれず、常に学び続ける姿勢を持ち続けてほしいと思います。そうすることで、どんな困難な状況にも適応し、乗り越えていけるはずです。今日のお話が、皆さんの人生やキャリアにとって少しでも参考になれば幸いです。これからの皆さんの活躍を、心から期待しています。頑張ってください。ありがとうございました。


参考出典

問題の処理
火山旅は、山に山焼きの火があり、それが一箇所に止まらず、次々に移っていくことから、「旅」という卦名がついている。
そこから、君子は民が犯した罪を明察し、慎重に刑罰を用いて、牢屋に長く留めないようにせよと教える。
また、これは物事を一箇所に留めずに明察・慎重に進めよという意味でもあり、問題を明解に処理し、未処理のまま留めて置かないことを説いている。

易経一日一言/竹村亞希子

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