まいにち易経_1120【知性と芸術が導く新たな道】文徳を懿くす。[09䷈風天小畜:象伝]
象曰。風行天上小畜。君子以懿文徳。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
私たちの人生には、思うようにいかない時期があります。仕事がうまくいかなかったり、人間関係で悩んだり、目標に向かって進んでいるはずなのに、なかなか結果が出ないこともあるでしょう。そんな時、どうすればいいのでしょうか?
易経は、そんな時こそ「文徳を修める」べきだと教えてくれています。文徳とは、内面の力のことです。知性や教養、芸術的感性、そして何より心の豊かさを指します。
盆栽をご存じでしょうか?小さな鉢の中で、美しい樹形を作り上げていく日本の伝統芸術です。盆栽師は、枝を切ったり曲げたりして形を整えますが、それだけではありません。水やりや肥料、光の当て方など、目に見えない部分にも細心の注意を払います。これこそが「文徳を修める」ことの本質なのです。表面的な形だけを整えるのではなく、内側から丁寧に育てていく。そうすることで、小さな鉢の中にも雄大な自然の景色を表現できるのです。
さて、ここで「文徳」に対比される「武徳」というものについても触れておきましょう。武徳は、外に向かって発揮される力強さのことです。例えば、スポーツで言えば筋力や技術、ビジネスで言えば営業力や交渉力といったものでしょうか。確かに、これらの力も大切です。
しかし、易経は「物事が滞っている時こそ、文徳を磨くべきだ」と教えているのです。なぜでしょうか?
それは、真の強さは内側から湧き出てくるものだからです。知識を深め、感性を磨き、心を豊かにすることで、私たちは新しい視点や発想を得ることができます。そして、それが行き詰まりを打開する糸口になるのです。
江戸時代の大名、上杉鷹山をご存じでしょうか?彼は、借金まみれの米沢藩を立て直した名君として知られています。
鷹山が藩主になった当時、米沢藩は莫大な借金を抱え、藩の存続さえ危ぶまれる状況でした。しかし、鷹山はまず自らの生活を質素にし、学問に励みました。そして、藩士たちにも「倹約」と「学問」を奨励したのです。
これは、まさに「文徳を修める」という教えを実践したものと言えるでしょう。鷹山は、単に財政改革を行うだけでなく、藩全体の文化レベルを向上させることで、長期的な発展の基礎を築いたのです。
皆さんも、将来リーダーとして活躍される中で、様々な困難に直面することがあるでしょう。そんな時、ぜひこの「文徳を修める」という教えを思い出してください。
例えば、新しいプロジェクトがうまくいかない時、すぐに方針を変えたり、チームメンバーを責めたりするのではなく、まず自分自身を見つめ直してみてはどうでしょうか。新しい知識を学んだり、異なる分野の本を読んだり、芸術に触れたりすることで、思わぬひらめきが生まれるかもしれません。
また、チームの雰囲気が悪くなってきた時も同様です。厳しく指導するだけでなく、メンバーの話をじっくり聞いたり、一緒に勉強会を開いたりすることで、チームの結束力が高まるかもしれません。
アップル社の共同創業者、スティーブ・ジョブズは大学を中退した後、カリグラフィー(西洋書道)のクラスを聴講していました。一見、コンピューター業界とは無関係に思えるこの経験が、後にマッキントッシュの美しいフォントデザインにつながったのです。
これも「文徳を修める」ことの重要性を示す良い例と言えるでしょう。一見無駄に思えることでも、それが将来思わぬ形で役立つことがあるのです。
ただし、ここで注意しなければならないのは、「文徳を修める」ことは決して現実逃避ではないということです。困難から目をそらすのではなく、より良い解決策を見出すための手段なのです。例えば、会社の業績が悪化している時に、ただ趣味に没頭するのは「文徳を修める」ことにはなりません。しかし、業界の歴史や最新のトレンドを学び、それを自社の状況に当てはめて考えることは、まさに「文徳を修める」ことと言えるでしょう。
また、「文徳を修める」ことは、決して一朝一夕にできるものではありません。長い目で見て、少しずつ自分を高めていく姿勢が大切です。それは、まるで毎日少しずつ貯金をしていくようなものかもしれません。今はその効果がわからなくても、いつか必ず大きな力となって現れるのです。
今、私たちは急速に変化する社会に生きています。AIやIoTなど、新しい技術が次々と登場し、ビジネスの在り方も大きく変わりつつあります。
このような時代だからこそ、「文徳を修める」ことがより重要になってくるのではないでしょうか。なぜなら、技術は日進月歩で進化しますが、人間の本質的な部分、つまり思考力や創造性、倫理観といったものは、簡単には代替できないからです。これらの力を磨くことが、まさに「文徳を修める」ことなのです。そして、そのような力を持った人こそが、激動の時代を乗り越え、真のリーダーとして活躍できるのではないでしょうか。
易経の『風天小畜』の教えは、何千年も前のものですが、現代にも十分通用する深い知恵が含まれています。困難に直面した時、すぐに結果を求めるのではなく、まず自分自身を高める努力をする。そうすることで、必ず道は開けてくるはずです。そして、そのプロセスそのものが、皆さんを一回りも二回りも大きく成長させてくれるでしょう。
参考出典
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