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まいにち易経_0222【信賞必罰の剣:裁きの真髄】噬嗑は亨る。獄を用うるに利ろし。[21䷔火雷噬嗑:卦辞]
噬嗑。亨。利用獄。
噬嗑は、亨る。獄を用うるに利あり。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「噬嗑」という言葉は、「噛み砕く」という意味です。歯で固いものを噛み砕くように、障害となるものを取り除いて物事をスムーズに進めるという考え方です。これは、組織を運営する上でとても重要な概念なのです。
皆さんは将来、リーダーとしての役割を担うことになるでしょう。その時に覚えておいていただきたいのが、「信賞必罰」という言葉です。これは「善行には必ず褒賞を、悪行には必ず罰を与える」という意味です。
組織を健全に保つためには、この原則がとても大切になってきます。例えば、会社の中で誰かが素晴らしい成果を上げたら、それをきちんと評価し、褒賞を与える。一方で、ルールに反する行為があれば、それに対して適切な処分を下す。これが「信賞必罰」の考え方です。
ここで少し、日本の歴史から興味深い例を挙げてみましょう。戦国時代の武将、武田信玄は「信賞必罰」の原則を徹底して実践したことで知られています。彼は功績のあった家臣には惜しみなく恩賞を与え、一方で規律に反した者は身内であっても容赦なく処罰しました。この一貫した態度が、家臣たちの信頼を集め、強い組織を作り上げることにつながったのです。
さて、「火雷噬嗑」の卦は、特に「法令を整えて獄を用いる」ということを強調しています。これは現代の言葉で言えば、「明確なルールを設定し、それを公平に適用する」ということでしょう。
ビジネスの世界で言えば、会社の規則やコンプライアンスの徹底ということになります。ルールがあいまいだったり、適用に差があったりすると、組織の中に不公平感が生まれ、モラルの低下につながってしまいます。
特に注意しなければならないのは、地位の高い人が問題を起こした時です。往々にして、そういった場合は隠蔽されたり、見逃されたりすることがあります。しかし、これは組織にとって非常に危険なことなのです。
例えば、アメリカの大手エネルギー会社エンロンの破綻は、まさにこの問題が引き起こした典型的な例と言えるでしょう。経営陣による不正会計が発覚し、一時は「アメリカで最も革新的な企業」と称賛されていた会社が一瞬にして崩壊してしまったのです。
このような事態を防ぐためには、たとえ過去に大きな功績があった人物であっても、ルール違反があれば適切な処分を下す必要があります。これは簡単なことではありません。時には、厳しい決断を迫られることもあるでしょう。しかし、それこそがリーダーとしての責任なのです。
「噬嗑」の「噛み砕く」というイメージは、まさにこの難しい問題に真正面から取り組むことを表しています。問題を小さく噛み砕いて、一つ一つ丁寧に対処していく。そうすることで、最終的には組織全体の健全性を保つことができるのです。
ここで、もう一つ興味深い例を紹介しましょう。シンガポールの建国の父と呼ばれるリー・クアンユー氏は、徹底した汚職撲滅政策で知られています。彼は、高級官僚や政治家の汚職に対して厳しい姿勢で臨み、それが今日のシンガポールの清廉性の高さにつながっています。これも「火雷噬嗑」の精神を体現した例と言えるでしょう。
しかし、ここで誤解してほしくないのは、「火雷噬嗑」の教えは単に厳しく罰することだけを言っているわけではないということです。むしろ、公平で透明性の高いシステムを作ることの重要性を説いているのです。
例えば、問題が起きた時の対処方法をあらかじめ明確にしておく。誰もが納得できる評価システムを構築する。オープンなコミュニケーションを促進し、問題を隠蔽する文化を作らない。こういった取り組みが、結果として組織の健全性を高めることにつながるのです。
また、「噛み砕く」という言葉には、もう一つの意味があります。それは、複雑な問題を分かりやすく説明する能力です。リーダーとして、難しい概念や方針を、チームの全員が理解できるように噛み砕いて説明する。これも非常に重要なスキルです。
例えば、アップル社の共同創業者であるスティーブ・ジョブズは、複雑な技術を一般の人にも分かりやすく説明する能力に長けていました。彼の製品発表のプレゼンテーションは、まさに「噛み砕く」技術の極致と言えるでしょう。
さて、ここまで「火雷噬嗑」の教えについて、様々な角度から見てきました。最後に、皆さんに伝えたいことがあります。
リーダーシップとは、単に厳しく指示を出すことではありません。公平性を保ちながら、組織の一人一人の成長を促し、全体としての成果を上げていくこと。そして、問題に直面した時には、それを丁寧に「噛み砕いて」解決していくこと。これこそが、「火雷噬嗑」の卦が私たちに教えてくれている本質だと思います。
皆さんが将来、どのような立場に立つことになるかは分かりません。しかし、この「火雷噬嗑」の精神を心に留めておけば、必ず良いリーダーシップを発揮できるはずです。
参考出典
信賞必罰
「噬嗑」とは噛み砕く。邪魔なものを顎で噛み砕くことで物事が通るという意味がある。刑罰を明らかにし、法令を整えて「獄を用いる」。信賞必罰は必要である。とくに地位ある者が罪を犯すと、隠蔽して逃れ得る場合もある。しかし、いくら過去に功績があっても見逃さず、悪いことをしたら罰を与えなくてはいけない。牢獄に入れ、しっかりと噛み砕くように裁き、問題を解決すべきである。
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