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まいにち易経_0110【一語に宿る全貌】知者その彖辞を観れば、思い半ばに過ぎん。[繋辞下伝:第九章]
噫亦要存亡吉凶。則居可知矣。知者觀其彖辭。則思過半矣。
噫亦た存亡吉凶を要すれば、居ながらにして知るべし。知者その彖辞を観れば、思い半ばに過ぎん。
『正義』では、「噫」は「イ」という音で歎美の声とされているが、通常「ああ」と訓じるのが一般的だ。しかし、清の王引之が『経義述閒』で述べているように、『釈文』に引用された後漢の馬融や魏の王粛の説では、「噫」の音は「ヨク」とされ、助字として使われるのが正しいとされている。つまり、「噫」は「抑」と同義で「そもそも」を表すということだ。『論語』の学而篇にある「これを求めしか抑これを与えしか」の「抑」を、漢の石経では「意」と書き換えているが、これはその証拠の一つだ。
「知」は「智」と同義である。そもそも六爻全体から陰陽の消長や人事の吉凶の行方を要約すると、未来の変化や吉凶は静かにしていれば自然と理解できるものである。ただし、智者は一つの事象から十のことを知ることができる。六爻全体を見なくとも、卦のはじめに付いている卦辞(彖辞)を見れば、全卦の意味の六割程度は理解できるだろう。卦辞とは、一卦六爻の大意を総括したものであり、この概念は明の何楷が『周易訂詁』で述べている。「思い半ばに過ぐ」という表現は、後世において半分以上を理解することを意味する慣用表現として用いられるようになった。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「易経」と聞くと、なんだか難しい、古めかしいと思うかもしれません。しかし、易経は決して過去の遺物ではなく、現代を生きる私たちにも大いに役立つものです。簡単に言えば、易経は「物事の本質を見抜く力」を養うための書物です。特に、リーダーとして成功したい皆さんにとって、この力はとても大切なものです。
今日は「思い半ばに過ぐ」という言葉を中心に話を進めたいと思います。これは、易経の中で「彖辞」という部分に記されている言葉です。この「彖辞」は、易経の六十四卦の最初に出てくるもので、物事の吉凶を見極める道理について述べています。要するに、何かを始めるとき、その最初の一歩や言葉だけで、その後の展開をある程度予測できる、ということです。
例えば、皆さんが新しいプロジェクトを始めるとしましょう。その際、最初のミーティングで出た意見や提案、チームの雰囲気などから、このプロジェクトが成功するかどうかを感じ取れることがあるでしょう。それは偶然ではなく、経験や直感が働いているからです。易経は、そうした感覚を磨くための道具とも言えます。
ここで少し、興味深い例え話をしましょう。古代中国では、軍師たちが戦を前にして、最初の風の吹き方や敵軍の動きを観察することで、戦局を予測しました。まさに「思い半ばに過ぐ」の考え方です。戦場での一つの小さな動きが、その後の勝敗を左右することがあると彼らは知っていたのです。現代においても、皆さんがリーダーとしてチームを率いるとき、その最初の一歩がどれだけ重要かを理解しておくことは、成功への大きな鍵となります。
さらに、この「思い半ばに過ぐ」の教えは、リーダーシップだけでなく、日常生活にも当てはめることができます。例えば、誰かと会話をしているとき、その人が言った一言で「ああ、そういうことか」と納得する瞬間があるでしょう。それもまた、易経が教える「感応を呼び起こす」力です。相手の言葉や行動の背後にある意図や感情を理解することで、私たちはより深いコミュニケーションを築くことができるのです。
さて、ここまで聞いて、易経がただの古典書ではなく、実際に皆さんの日々の生活や仕事に役立つものだということが少しでも伝わっていれば幸いです。易経は、物事の本質を見抜くためのヒントをたくさん与えてくれます。それは、リーダーとして成功するために必要な「洞察力」を高める助けとなるでしょう。
また、易経の教えを活かすためには、日々の中で実践することが大切です。例えば、何かを始めるときに、その最初の一歩をどれだけ慎重に、または大胆に踏み出すべきかを考えてみること。それだけでも、皆さんの未来は大きく変わるかもしれません。
最後に、皆さんに伝えたいのは、リーダーシップとは決して「強さ」だけを意味するものではないということです。リーダーは、時に柔軟であり、時に慎重であり、そして何よりも「思い半ばに過ぐ」という感覚を持つことが重要です。それが皆さんを成功へと導く鍵となるでしょう。
参考出典
思い半ばに過ぐ
「彖辞」(卦辞)は易経六十四卦の最初に記される言葉。吉凶存亡の道理を知った者ならば、物事の始まりを観ただけで、その大半を把握するだろう、といっている。
何かのきっかけ、誰かにいわれた一言で、「そういうことか」と腑に落ちることがある。易経には、そうした一言で感応を呼び起こすような辞が記されている。
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