まいにち易経_1230【未熟の美学：成長への第一歩】未済は、亨る。小狐ほとんど済らんとして、その尾を濡らす。利ろしきところなし。[64䷿火水未済：卦辞]
未濟。亨。小狐汔濟。濡其尾。无所利。
未済は、亨る。小狐汔んど済る。其の尾を濡らす。利するところなし。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストＺ世代の若者たちに向かって語る「未済」という言葉、これは「まだ済んでいない」「まだ完成していない」という意味です。これを一匹の小狐の物語を通じて解説してみたいとおもいます。
小狐は、ふさふさとした大きな尾を持っています。この尾は、普段は彼の魅力的な特徴ですが、川を渡る時には厄介なものに変わります。成長した狐は、その尾を水に濡らさないように高く上げて川を渡る知恵がありますが、小狐はまだその知恵を持っていません。彼は無我夢中で川を渡ろうとしますが、最後の最後で尾を水に浸してしまい、渡り切ることができないのです。
ここに重要な教訓があります。小狐が失敗するのは、単に知恵や技術が不足しているからではありません。それ以上に、自分の未熟さを認識できていないことが原因です。皆さんも、これからのリーダーとして、最初に直面する大きな課題の一つは、この「自分の未熟さを知る」ということです。
私も若い頃、同じような経験をしました。事業に挑戦する際、確かに勇気はありました。しかし、結果が出ない時期もあり、自分がまだまだ未熟だという現実を突きつけられました。その時はつらいものですが、その経験があったからこそ、次のステップに進むことができたのです。未熟であることは、恥ずかしいことでも、隠すべきことでもありません。それを認め、受け入れることこそが、次の成長への扉を開くのです。
この「未済は亨る」という言葉の中に、未完成であることの意味が込められています。未完成であることが、新たな成長をもたらし、最終的に完成に導いてくれるのです。自分の未熟さに気づき、それを認めることが、未来のリーダーとしての皆さんにとっての希望です。
ここで一つ、別の例を挙げてみましょう。皆さんは、竹がどのように成長するかご存知でしょうか？竹は、地上に芽を出すまでに非常に長い時間をかけて地下で根を張り巡らせます。この準備期間がなければ、竹は地上で高く成長することができません。これはまさに、未熟さを受け入れ、しっかりと自分を鍛える期間と重なります。
私が経営者として多くの経験を積んできた中で、常に学び続ける姿勢を大切にしてきました。なぜなら、どれだけの経験を積んでも、時代や環境は常に変わり続けます。自分が未熟であることを認め、学び続けることで、新たな挑戦に対応できる力を養うことができるのです。私たちが何かを達成した時、その瞬間に満足するのではなく、「まだやるべきことがある」「もっと学ぶことがある」と感じることが、次の成功への道を開きます。
リーダーとしての皆さんも、自分の未熟さに気づき、それを克服していくための努力を惜しんではいけません。たとえば、新しいプロジェクトに取り組む際、最初から完璧を目指すのではなく、まずは小さな成功を積み重ね、失敗から学ぶ姿勢を持ち続けてほしいと思います。そのプロセスで、自分の弱点や未熟さが見えてくるでしょう。しかし、それは決してマイナスではなく、皆さんがさらに成長するための糧です。
このように、自分の未熟さを知り、そこから学び続けることが、リーダーとしての皆さんにとって最も重要な要素です。未熟さを恐れず、むしろそれを新たな可能性の出発点として捉えてください。未熟であることは、まだまだ成長できるという希望の証なのです。
参考出典
未熟さを知る
火水未済の「未済」とは、未だ川を渡り終えていないということ。つまり未だ何もなしていない、未完成、未熟な時を説く。
そんな未熟さを小狐が川を渡ることに喩えている。狐はふさふさとした大きい尾を持っているが、水を含むとずっしりと重くなって泳ぐには負担がかかる。
成長した狐は尾を高く上げて川を渡る知恵があるが、小狐は岸までもう少しという所で尾を濡らし、渡り切れない。
未熟者は蛮勇をふるって事に臨むが、九分通りまで行ったところであと一歩が成せない。
小狐が失敗するのは、知恵や技術の以前に自分の未熟さを認識できないからである。
「未済は亨る」とは、未完成が完成に至ること。これではだめだと未熟さが身に染みた時から、完成への道が開けるのである。
どんなに人生の経験を積んでも、自分の未熟さに気づくことは新たな希望でもある。
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