見出し画像

まいにち易経_1008【時を待つ】天地閉じて、賢人隠る。[02䷁坤為地:文言伝]

天地變化、草木蕃、天地閉、賢人隱。易曰、嚢括、无咎无譽。葢言謹也。

天地変化して、草木しげく、天地閉じて、賢人隠る。易に曰く、ふくろを括る、咎もなく誉れもなしと。けだし謹むべきを言えるなり。

天地が生成して発展すると、日月や山川草木などの全てのものが成長し、変化していく。天地が互いに影響し合わなければ、全てのものは成長し、変化することができない。君主と臣下が互いに理解し合わなければ、社会は混乱し、賢い人々は世の中から離れて隠れるしかなくなる。
「才能や徳を隠して、愚かな人のように振る舞うのがよい」というのは、君主と臣下の関係において、臣下が慎んで行動することが大切だと説いているのである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

私たちの人生には、うまくいかない時期というものがあります。それは個人の人生でも、会社の経営でも、はたまた国の運営でも同じことが言えるでしょう。易経では、このような状況を「天地閉じて」と表現しています。天と地が閉ざされた状態、つまり、上と下の意思疎通がうまくいかない状況のことです。例えば、国の場合を考えてみましょう。政府を天に、国民を地に例えることができます。政府が国民の気持ちを理解せず、国民も政府の方針に従わない。そんな状況では、国全体がうまく機能しないでしょう。
これは、会社でも同じことが言えます。経営陣と現場の従業員の間に溝ができてしまうと、会社全体の雰囲気が悪くなり、業績も下がってしまいます。

易経は、こんなアドバイスをしています。
「賢い人は、そういう時代には自分の能力を活かせないと知り、口を閉じ、財布の紐を堅く結んで、遠く隠遁するようになる」
一見すると、逃げ出すように聞こえるかもしれません。でも、これは決して臆病な行動ではありません。むしろ、非常に賢明な判断なのです。なぜでしょうか?それは、時代の流れというものがあるからです。どんなに優秀な人でも、時代が求めていない時には、その才能を発揮することができません。

歴史上の人物で考えてみましょう。例えば、織田信長は、戦国時代という混沌とした時代に、大きな力を発揮しました。しかし、もし彼が平和な時代に生まれていたら、どうだったでしょうか?おそらく、その才能を十分に発揮することはできなかったでしょう。つまり、才能を活かすには、適切なタイミングが必要なのです。そして、そのタイミングが来るまでは、じっと待つ必要があるのです。これは、ビジネスの世界でもよく言われることです。新しい製品やサービスを投入するタイミングは非常に重要です。早すぎても、遅すぎても、成功は難しいのです。

では、待っている間は何もしないのかというと、そうではありません。「じっと堪えて、来るべき時代に備える」のです。

これは、種を蒔いた後の農家の姿に似ています。種を蒔いたら、すぐに芽が出るわけではありません。でも、農家は何もせずに待っているわけではありません。水をやったり、害虫から守ったりと、芽が出るための準備をしっかりと行います。みなさんも、自分の才能を活かせる時が来るまで、しっかりと準備をすることが大切です。新しい知識を身につけたり、人間関係を築いたり、自分自身を磨いたりすることができるでしょう。

そして、もう一つ大切なことがあります。それは、「時代を読む力」です。いつが自分の出番なのか、それを見極める力が必要です。これは、経験を積むことでしか身につかない能力かもしれません。でも、日頃から世の中の動きに注目し、歴史を学ぶことで、少しずつ磨くことができるはずです。

また、「時を待つ」ということは、決して消極的な行動ではありません。むしろ、非常に積極的で戦略的な行動なのです。なぜなら、適切なタイミングで行動することで、最大の効果を得ることができるからです。
これは、柔道の技にも通じるものがあります。相手の力を利用して技をかける、つまり、相手の動きのタイミングを見計らって技をかけるのです。力任せに攻めるのではなく、相手の力を巧みに利用する。これこそが、「時を待つ」ことの本質と言えるでしょう。

ビジネスの世界でも、同じことが言えます。例えば、新しい技術が登場したとき、すぐに飛びつくのではなく、その技術が成熟するのを待ってから参入する戦略があります。これを「ファストフォロワー戦略」と呼びます。先頭を走る企業のリスクを避けつつ、技術が安定してから参入することで、効率的に市場シェアを獲得することができるのです。

しかし、ここで注意しなければならないのは、「待つ」ことと「諦める」ことは違うということです。「待つ」ということは、常に準備を怠らず、チャンスが来たときにすぐに行動できる状態を保つことです。
そして、もう一つ大切なことがあります。それは、「謙虚さ」です。「天地閉じて」の状況では、自分の能力を過信せず、周囲の状況をよく観察することが重要です。自分の非を認め、必要であれば一歩引くことも大切です。これは決して弱さではなく、むしろ大きな強さになります。


参考出典

時を待つ
たとえば、天を政府、地を国民とする。政府が国民の気持ちを考えず、国民が政府の方針に従わなければ、どちらも意思の疎通を図れず、国は乱れる。これが「天地閉じて」という状態である。
賢い人は、そういう時代には自分の能力を活かせないと知り、口を閉じ、財布の紐を堅く結んで、遠く隠遁するようになる。
一見卑怯に見えても、時を待つしか術がない時もある。そういう時は、じっと堪えて、来るべき時代に備えるしかない。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #文言伝 #坤為地


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?