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まいにち易経_1117【静寂・中庸が導く心の浄化:洗心密蔵】聖人これをもって心を洗い、退きて密に蔵れ吉凶、民と患を同じくす。[繋辞上伝:第十一章]

聖人以此洗心。退藏於密。吉凶與民同患。

聖人は此を以て心を洗い、密に|退蔵たいぞうす。吉凶たみうれいを同じうす。

徳の高い人は、心を清めて迷いのない純粋な心となり、心が静かで物事に動じず、良い時も悪い時も他人の気持ちに寄りそうことができる。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

易経は、古代中国の哲学書ですが、その教えは現代のリーダーシップにも深く関わる智慧に満ちています。今日は特に、『繋辞上伝けいじじょうでん:第十一章』に焦点を当ててお話ししましょう。

この章では、「心を洗う」という言葉が出てきます。これは、単に手を洗うように簡単にできることではありません。でも、とても大切な考え方なのです。

皆さんは、重要な決断を迫られたとき、どうしていますか? 多くの人は、自分の経験や知識、そして感情に基づいて判断しがちです。しかし、それだけでは不十分なのです。

易経は、「中庸の精神」を重視します。これは、極端に走らず、バランスを取るという考え方です。例えば、熱いお茶を飲むときを想像してください。すぐに飲もうとすれば舌をやけどしてしまいます。かといって、冷めるのを待ちすぎれば、お茶の旨みが損なわれてしまう。適度な温度で飲むことが大切なのです。これと同じように、物事を判断するときも、極端に走らず、バランスを取ることが重要なのです。

では、どうすれば「心を洗う」ことができるのでしょうか。

まず、自分の思い込みや願望、そして私利私欲を認識することから始めましょう。これは、鏡を見るようなものです。鏡を見れば、自分の顔に付いた汚れに気づきます。同じように、自分の心の中を覗き込むと、そこにある偏見や欲望に気づくことができるのです。

次に、それらを「洗い流す」のです。これは、瞑想やヨガのような実践を通じて行うこともできますし、静かな場所で深く考えることでも可能です。例えば、海辺に座って波の音を聴くのもいいでしょう。波が寄せては返すように、自分の中の不要なものを洗い流していくイメージです。

このプロセスを通じて、私たちは「静かな深い境地」に到達することができます。これは、まるで高い山頂に立っているようなものです。山頂からは、街全体を見渡すことができます。同じように、この境地からは、物事の全体像を把握することができるのです。

そして、この境地に至ったとき、私たちは「人々の苦しみや悩みを我が事のように思いやり、感じる」ことができるようになります。これは、エンパシー(共感/empathy)と呼ばれるものです。現代のリーダーシップ理論でも、このエンパシーの重要性が強調されています。

なぜエンパシーが大切なのでしょうか? それは、リーダーが単に自分の利益だけを考えるのではなく、多くの人々の幸福を考慮に入れた決断を下すことができるようになるからです。これは、チェスのゲームに例えることができるでしょう。初心者のプレイヤーは、自分の駒の動きだけを考えます。しかし、熟練したプレイヤーは、相手の駒の動きも予測しながらゲームを進めていきます。同じように、優れたリーダーは、自分だけでなく、周りの人々のことも考慮に入れて判断を下すのです。

ここで注意したいのは、「心を洗う」というのは、一度きりの行為ではないということです。これは継続的なプロセスなのです。たとえば、毎日歯を磨くように、定期的に心を洗う習慣をつけることが大切です。

そして、この実践を通じて養った徳を、再び世に出たときに役立てるのです。これは、畑を耕すようなものです。種をまき、水をやり、丁寧に育てた後に、実りの季節を迎えるのです。同じように、私たちも内なる成長を経て、外の世界で成果を出すことができるのです。

この教えは、古代中国の智慧ですが、現代のビジネスの世界でも十分に通用します。例えば、世界的に有名な企業の CEO たちの中には、定期的に瞑想を行う人が少なくありません。彼らは、この「心を洗う」実践の重要性を理解しているのです。

また、この考え方は、ストレス管理にも役立ちます。現代社会は、情報過多で常にプレッシャーにさらされています。そんな中で、定期的に心を洗い、静かな境地に身を置くことは、メンタルヘルスの維持にも大きく貢献するでしょう。

さらに、この実践は創造性の向上にもつながります。心が静まり、クリアになることで、新しいアイデアが生まれやすくなるのです。多くの偉大な発明家や芸術家たちも、静かな瞑想の中でインスピレーションを得たと言われています。

ビジネスの観点から見ると、「心を洗う」ことは、リスク管理にも役立ちます。私利私欲や思い込みにとらわれていると、重要なリスクを見逃してしまう可能性があります。心をクリアにすることで、より客観的に状況を分析し、潜在的なリスクを特定することができるのです。

また、この教えは、チームビルディングにも応用できます。リーダーが「心を洗う」実践を行い、エンパシーを持ってチームメンバーに接することで、より強固な信頼関係を築くことができます。これは、チームの生産性と創造性を高めることにつながるでしょう。

最後に、この教えは持続可能なリーダーシップにも通じます。短期的な利益だけを追求するのではなく、長期的な視点を持ち、社会全体の利益を考慮に入れた決断を下すことができるようになるのです。これは、今日の SDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じるものがあります。


参考出典

心を洗う
聖人これをもって心を洗い、退しりぞきてみつかくれ吉凶、民とかんを同じくす。
「これ」とは易経が説く中庸の精神。物事を判断しなければならない時、中庸の精神に倣い、思い込みや、こうなってほしいという私心からの願望、私利私欲などを洗い流すように心を浄化する。そして、静かな深い境地に心を置くことで、人々の苦しみや悩みを我事のように思いやり、感じることができる。そうして養った徳を再び世に出た時に役立てるのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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