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まいにち易経_1010【乱世の知恵:混乱を生き抜くための処世術】天地交わらざるは否なり。君子もって徳を倹にし難を辟く。栄するに禄をもってすべからず。[12䷋天地否:象伝]
象曰。天地不交否。君子以儉徳辟難。不可榮以祿。
象に曰く、天地交わらざるは否なり。君子以て徳を倹め難を辟く。栄するに禄を以てすべからず。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、『天地否』という言葉の意味から説明しましょう。「天地が交わらない」という状態を表しています。これは何を意味するのでしょうか? 簡単に言えば、世の中が上手くいっていない状況のことです。会社に例えると、経営者と従業員の間に大きな溝ができてしまっているような状態ですね。
私が若い頃、ある大企業で働いていた時のことを思い出します。その会社では、上層部の人々が自分たちの利益ばかりを追求し、一方で従業員たちは「どうせ頑張っても意味がない」と思い、やる気をなくしていました。まさに『天地否』の状態でした。このような状況では、どのように行動するべきでしょうか? 易経は私たちに、とても賢明なアドバイスを与えてくれています。それは、「出世や儲け話から遠ざかりなさい」というものです。
これは一見、消極的な態度に思えるかもしれません。しかし、実はとても深い知恵が隠されているのです。なぜなら、混乱した状況の中で高い地位に就くことは、大きなリスクを伴うからです。例えば、沈みゆく船の船長になるようなものです。船が沈んでしまえば、船長は最後まで残らなければなりません。同様に、問題を抱えた組織のトップになれば、その問題すべてに対処しなければならなくなるのです。
春秋時代の賢人、孔子の生きた時代も、まさに『天地否』の時代でした。諸国が争い、道徳が乱れた時代です。孔子は高い地位に就くことを避け、代わりに各地を旅して教えを広めることを選びました。結果として、彼の教えは何千年もの間、人々の心に生き続けることになったのです。
では、このような状況で私たちはどうすればよいのでしょうか?
易経は「よく省みて、警戒謹慎することが必要だ」と教えています。これは決して「何もしない」ということではありません。むしろ、自分自身を見つめ直し、周囲の状況をよく観察し、慎重に行動するということです。このような時こそ、自己啓発や学習に時間を使うべきです。例えば、新しい技術を学んだり、人間関係のスキルを磨いたりするのです。そうすることで、状況が改善された時に、より強い立場で新しい機会に臨むことができます。真の友人や信頼できる同僚を見極める絶好の機会でもあります。困難な時に寄り添ってくれる人こそ、本当の仲間と言えるでしょう。
江戸時代の商人、三井高利は、幕府の財政が悪化し、商業が停滞していた時期に活躍しました。高利は、派手な商売は避け、代わりに「現金掛値なし」という革新的なビジネスモデルを導入しました。これは、当時としては珍しい誠実な商売方法でした。結果として、三井家は困難な時期を乗り越え、後に日本を代表する財閥となったのです。
『天地否』の教えは、ビジネスの世界だけでなく、私たちの日常生活にも当てはまります。例えば、友人関係がうまくいっていない時、無理に人気者になろうとするのではなく、まず自分自身を見つめ直し、少数の信頼できる友人との関係を深めることが大切です。また、学業や仕事がうまくいかない時も同じです。無理に結果を出そうとするのではなく、基礎からじっくりと学び直す。そうすることで、長期的には大きな成果につながるのです。
ここで強調したいのは、『天地否』の状態は永遠に続くわけではないということです。中国の古い諺に「天道酬勤」という言葉があります。これは「天道は勤勉な者に報いる」という意味です。つまり、困難な時期にこそ、自己研鑽に励み、誠実に行動し続ければ、必ず好機が訪れるということです。
皆さんの中には、「でも、何もしないで待っているだけでは、チャンスを逃してしまうのではないか」と心配する方もいるかもしれません。確かに、その懸念はよく分かります。しかし、ここで言う「警戒謹慎」とは、ただ座して待つということではありません。むしろ、周囲の状況をよく観察し、小さな変化も見逃さない。そして、その変化に応じて、柔軟に対応できる準備をしておくということです。これは、武道の「心技体」にも通じる考え方です。「心」で状況を把握し、「技」を磨きながら、「体」で実践に備える。そうすることで、チャンスが訪れた時に、最も効果的に行動できるのです。
『天地否』の教えは、決して悲観的なものではありません。むしろ、大きな希望を含んでいるのです。なぜなら、この教えは、どんな困難な状況でも、必ず好転する時が来るということを前提としているからです。
そして、その好転の時に備えて、自分自身を磨き、周囲との関係を深めることの大切さを教えてくれています。言わば、これは「冬に種を蒔く」ようなものです。厳しい冬の間、種は地中でじっと芽吹くのを待っています。そして、春が来れば、一気に花開くのです。
皆さんも、今の状況がどんなに厳しくても、決して諦めないでください。今は自分自身を磨く絶好の機会だと捉えてください。新しい知識を学び、スキルを磨き、人間関係を深める。そうすることで、必ず訪れる好機に、最高の状態で臨むことができるはずです。
参考出典
乱世の処世術
天地交わらざるとは、人が起こした禍で無道乱世の世の中。会社組織に喩えると、経営者側は利権をあさり、従業員はなるべく怠けようとするような状況である。
このような時は、爵禄つまり出世や儲け話から遠ざかり、要職に就くべきではない。要職に就けば、後に必ず災難が降りかかる。よく省みて、警戒謹慎することが必要だ。
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