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まいにち易経_0713【一足飛びは危険】飛鳥もって凶なり。[62䷽雷山小過:初六]

初六。飛鳥以凶。

初六は、飛鳥ひちょう以て凶。

小過卦全体を鳥が空を飛んでいる姿に見立てて、飛鳥という語を使っている。

初六は柔弱な小人であり、控えめであるべき時期に、過度に高く飛ぼうとする。小人でありながら、上ることだけを知って降ることを知らない。この行動は卦辞の戒め「上るに宜しからず」に反しており、結果として凶を招くのは避けられない。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さん、こんにちは。本日は、将来のリーダーとして期待されている皆さんに、易経の教えについてお話しさせていただきます。今回取り上げるのは、『雷山小過』という卦の初六の部分です。これは、人生や仕事において非常に重要な教訓を含んでいます。

まず、「飛鳥」という言葉から始めましょう。ここでいう「飛鳥」とは、実力や経験が十分ではないのに、コネや縁故を使って一気に高い地位を得ようとする人のことを指しています。これは、皆さんの周りでもよく見かける光景かもしれませんね。

例えば、大学を卒業したばかりの新入社員が、親戚の紹介で大企業の幹部候補生として採用されるようなケースを想像してみてください。確かに、その人には才能があるかもしれません。しかし、実務経験もなく、組織の仕組みも理解していない状態で、いきなり重要なポジションに就くことは、本人にとっても周囲にとっても大きなリスクとなりかねません。

この教えは、私たちに何を伝えようとしているのでしょうか?それは、成長には適切な時間と段階が必要だということです。植物の成長を例に考えてみましょう。種から芽が出て、茎が伸び、葉が茂り、そして花を咲かせる。この過程には、それぞれ適切な時間が必要です。水や肥料を与えすぎても、急激に成長させようとしても、健全な成長は望めません。

人間の成長も同じです。才能を認められたからといって、すぐに大きな責任を負える訳ではありません。リーダーシップ、判断力、人間関係の構築など、様々なスキルは経験を通じて培われていくものです。

ここで、歴史上の興味深い例をご紹介しましょう。古代ローマの皇帝カリグラは、わずか24歳で皇帝の座に就きました。彼は当初、民衆から歓迎されましたが、若さゆえの未熟さと権力の誘惑に負け、暴君と化してしまいました。結果として、わずか4年で暗殺されるという悲劇的な最期を迎えたのです。これは、「飛鳥」の教えが示す危険性を如実に表しているといえるでしょう。

では、どうすれば良いのでしょうか?易経は「自分の力量、分限、そして時を大きく行き過ぎると禍になる」と教えています。つまり、自分の現在の能力を冷静に見極め、分相応の行動をとることが大切だということです。

ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。自分の「力量」「分限」「時」とは、具体的に何を指しているのでしょうか?

「力量」は、現在の自分の能力や技術のレベルを指します。例えば、プログラミングの技術、プレゼンテーション能力、チームマネジメントのスキルなどが挙げられるでしょう。これらは、日々の努力や経験を通じて徐々に向上していくものです。

「分限」は、現在の自分の立場や役割を意味します。新入社員、チームリーダー、部長など、組織内での位置づけを示します。それぞれの立場には、ふさわしい振る舞いや責任があります。

「時」は、キャリアの段階や、その時々の状況を指します。例えば、業界の動向、会社の経営状態、社会の変化など、様々な要因が含まれます。

これら三つの要素を常に意識し、バランスを取りながら行動することが、健全な成長につながるのです。

ここで注意しなければならないのは、「小過」という言葉の意味です。これは「少しく過ぎる」という意味で、完全に現状維持に留まるのではなく、少しずつ自分の限界を押し広げていくことの重要性を示しています。

つまり、易経は私たちに「挑戦することを恐れるな」と言っているのです。ただし、その挑戦は「小過」、つまり少しずつ、段階的に行うべきだということです。

例えば、プロジェクトリーダーとしての経験がない人が、いきなり100人規模のプロジェクトを任されるのは危険です。しかし、5人程度の小さなチームのリーダーを経験し、そこで成功を収めた後、10人、20人と徐々にチームの規模を大きくしていくのは、健全な成長の過程といえるでしょう。

この「小過」の考え方は、現代のビジネス理論にも通じるものがあります。例えば、「PDCA (Plan-Do-Check-Act) サイクル」や「アジャイル開発」などは、小さな単位で計画を立て、実行し、評価して改善するというプロセスを繰り返すことで、大きな目標を達成していく方法論です。これらも、易経の「小過」の思想と共通する部分があるといえるでしょう。

最後に、皆さんに伝えたいことがあります。易経の教えは、決して皆さんの野心や向上心を否定するものではありません。むしろ、健全で持続可能な成長の道筋を示しているのです。

自分の現在の力量を正しく認識し、分限を理解し、そして時の流れを読む。そして、少しずつ、着実に自分の限界を押し広げていく。これこそが、真のリーダーシップの基礎となるのです。

皆さんの中には、「もっと早く成功したい」「今すぐにトップに立ちたい」と考える人もいるかもしれません。しかし、焦らないでください。人生は長いものです。今この瞬間に「飛鳥」のように飛躍的な成功を収めるよりも、着実に、そして確実に成長を続けることの方が、長期的には大きな成功につながるのです。

今日お話しした内容を、ぜひ皆さんの日々の行動や決断の指針としてください。そして、自分自身の成長を振り返る際の物差しとしても活用してください。皆さんがこの教えを心に留め、健全な成長を遂げ、真のリーダーとして活躍されることを心から願っています。


参考出典

この「飛鳥」とは、まだ実力も経験もない者が縁故を使って一足飛びに立身しようとすることの喩え。
少し才能を認められただけで、高みまで行けると勘違いをする。そして欲に駆られ、時に逆らい、分限を忘れてしまうと、結果として凶になる。
少しく過ぎる時を説く雷山小過の卦では、自分の力量、分限、そして時を大きく行き過ぎると禍になると教えている。

易経一日一言/竹村亞希子

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