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まいにち易経_0915【我は行く、心の命ずるままに…】独立して懼れず、世を遯れて悶うることなし。[28䷛澤風大過:象伝]

象曰。澤滅木大過。君子以獨立不懼。遯世无悶。

象に曰く、沢つくすは大過なり。君子以て独立しておそれず、世をのがるれどもいきどおることなし。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「沢風大過」という言葉の意味から説明しましょう。「沢」は水たまりや池を、「風」は風を表します。そして「大過」は「大きく過ぎる」という意味です。つまり、この卦は「池の水が風にあおられて大きくあふれ出す」様子を表現しているのです。

これは、組織や国が危機的状況に陥った時の状態を象徴しています。想像してみてください。平和な時は、池の水は穏やかに たたえられています。しかし、強い風が吹くと、水は激しくうねり、あふれ出してしまうかもしれません。これは、組織が平常時から非常時へと移行する様子を表しているのです。

さて、このような危機的状況に直面した時、リーダーはどのように行動すべきでしょうか?

「沢風大過」の教えは、こう言っています。「自分の力量を超え、過ぎた行いをしなければ、危機からは逃れられない」

これは、非常に重要な点です。普段の生活や仕事では、慎重に行動し、無理をしないことが大切だと言われますよね。しかし、危機的状況下では、それだけでは不十分なのです。
スティーブ・ジョブズがアップルに復帰した時、会社は破産寸前でした。しかし彼は、従来の常識を覆す「iMac」を発表し、会社を立て直しました。当時としては大胆すぎる決断だったかもしれませんが、結果的にアップルを世界最大の企業の一つにまで成長させたのです。

これらの例が示すように、危機的状況下では「普通」の対応では不十分なのです。リーダーは自分の限界を超え、時には常識を超えた行動をとる必要があるのです。

しかし、ここで注意しなければならないのは、こうした「過ぎた」行動は必ず批判を招くということです。周りの人々は、その行動を「無謀だ」「非現実的だ」と非難するかもしれません。しかし、「沢風大過」はこう教えています。「周りや世間がどんなに非難しても、苦悶せず、良しとした志を懼れず流されずに貫き通すことである」

これは、リーダーにとって非常に難しい課題です。批判や非難を受けながらも、自分の信念を貫くことは、精神的に大きな負担がかかります。しかし、本当の危機を乗り越えるためには、この苦難に耐える強さが必要なのです。

さらに、「沢風大過」は「大変な非常時には逃げるのではなく、『我行かん』と勇気を持って進んで行かなければならない」と教えています。

これは、リーダーの責任の重さを示しています。危機的状況下では、逃げ出したくなる気持ちは誰にでもあるでしょう。しかし、リーダーにはその選択肢はありません。むしろ、真っ先に危険に立ち向かう覚悟が必要なのです。

日本の歴史上の武将、上杉謙信の言葉に「義を見てせざるは勇なきなり」というものがあります。正しいと思ったことを実行しないのは、勇気がないからだ、という意味です。リーダーには、この「義」を見極め、それに向かって突き進む勇気が求められるのです。

ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。皆さんが直面するかもしれない「危機的状況」とは、どのようなものでしょうか?それは、会社の経営危機かもしれません。あるいは、自然災害や感染症の大流行かもしれません。または、個人的な挫折や困難かもしれません。

そのような状況下で、あなたはどのように行動しますか?周りの反対を押し切ってでも、自分の信じる道を進みますか?批判にさらされながらも、自分の決断を貫き通せますか?

これらの問いに簡単に答えることはできないでしょう。しかし、「沢風大過」の教えは、そのような時のための指針を与えてくれます。それは、自分の限界を超え、批判を恐れず、勇気を持って前進する、ということです。

ただし、ここで一つ注意しておきたいことがあります。「過ぎた行い」や「我行かん」の精神は、あくまでも危機的状況下でのものだということです。平時にこの教えを適用すると、独断専行や独善的な行動につながる危険性があります。リーダーには、状況を正確に把握し、適切な判断を下す能力が求められます。

また、「過ぎた行い」は必ずしも大胆な行動だけを意味するわけではありません。時には、慎重すぎると思えるほどの準備や計画が「過ぎた行い」となることもあるでしょう。重要なのは、その状況下で最も効果的な、常識を超えた対応をとることなのです。


参考出典

我行かん
沢風大過は、国や組織が倒れかかり、危急存亡に瀕した時の行動を教える卦。危急の時、リーダーは自分の力量を超え、過ぎた行いをしなければ、危機からは逃れられない。周りや世間がどんなに非難しても、苦悶せず、良しとした志を懼れず流されずに貫き通すことである。
大変な非常時には逃げるのではなく、「我行かん」と勇気を持って進んで行かなければならないと教えている。

易経一日一言/竹村亞希子

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