夜を駆ける
ここのところ気持ちがもにゃもにゃと落ち込み気味だったので、仕事から帰ってから少しばかり近所を走りに出てみた。
リズミカルに呼吸をしながら、1、2、1、2と脚を進める。舞台をやっているとは言え40半ば、絶賛運動不足のおじさんだ。5分くらいでほんのりと息が上がってくる。しんどいのを堪えて腕を振って走る。ルートは特に決めていたわけではないが、川沿いの道を走ろうと思った。川と言っても多摩川みたいな風情のある大きな川じゃない。河原に草が生えているわけでもない、びっちりコンクリートで整備された、住宅街を縫って走る細い川だ。川には時々細い橋が掛かっている。次の橋まで頑張ってみよう。もう一つ次の橋。いや、まだ行ける……橋をチェックポイントに走るうちに見慣れぬ景色の所まで走ってきた。こんな所にコンビニがあるんだな。学校があるんだな。すれ違った学生さん3人組は部活帰りだろうか。走りながら様々な想いが巡る。すっかり息は上がって、体がじっとりと汗ばんでくるのが分かる。走ってきたということはこれと同じ距離を走って帰らないといけないんだぞ。まだ行けるか?もう無理か?自問しながらもう少しだけ走って、橋を渡って往路とは違う側の川沿いを引き返した。帰りは途中から少し川沿いを離れて住宅街の中を縫うように帰った。住宅街の狭い道の交差点とは言え走って飛び出すと危ない……を言い訳に、時々ウォーキングに切り替えながら帰った。はぁはぁと大きく息を切らせて帰り着くと、出掛けに仕掛けていた炊飯器のご飯がまだ炊けていなかった。時間にしてほんの20分ばかりのランニングだった。
上着を脱いで汗を拭きながら息を整える。何だかとても清々しい気持ちだった。ランニングを習慣にしている人が、「走ると気持ちいいよ」とか「1日走らないと落ち着かないんだよね」なんてことを言うのを聞くたびに、「そんなわけねぇだろ」と思っていたことを詫びようと思う。たかが1回、たった20分そこらを走って回ってきただけで言うのも烏滸がましいが、これは悪くないものだ。三日坊主にすらならないで辞めてしまう予感しかないが、「時々走る」を習慣に出来たらいいなという思いを含め、記念すべき第1回の走りをここに記しておこうと思う。