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使ってはいけない心理学2 ミラーリング効果は逆効果? 類似性と相補性は、どっちが正しい?

 今回は、相手に好かれるテクニックとして社会的認知度の高い「ミラーリング効果」についてお伝えできればと思います。

 インターネット上で、調べてみると、様々な情報が閲覧できます。

 恋愛や接客、人材マネジメントなどを中心に多くの分野で、相手に好かれるコミュニケーション技術として紹介されています。

 なかには、同調効果として紹介している記事なども存在します。
 ※同調効果は情報的影響要因、規範的影響、によるものとされています

 どうして、この様ないい加減な情報が蔓延しているのかと落胆しながら、「また、商用目的なのね」
 と落としどころを見つけて解説していきたいと思います。

ミラーリング効果

 ミラーリング効果とは多くのメディアで
 『相手を真似することで、親近感を抱かせる心理テクニック!』
 とされています。

 ミラーリング効果の根拠とされているのは、アメリカの心理学者ターニャ・チャートランドとジョン・バーが1999年に実施した以下の実験です。

【実験内容】
 被験者にサクラと会話をさせ、会話後にサクラに対する印象を9点満点で評価する実験。

サクラは2種類用意。

・サクラA:声の調子や話し方を被験者に似せて会話
・サクラB:一切の真似をしないで会話

 数分間会話の会話を実施、被験者のサクラAとサクラBに対する評価は以下のようになった。

『好感度』
・サクラAの評価(平均):6.62点
・サクラBの評価(平均):5.91点

『会話のスムーズさ』
・サクラAの評価(平均):6.76点
・サクラBの評価(平均):6.02点

 実験の結果、自分と似ているところがある人の方が好感を持ちやすく、会話もスムーズになるという推論がされました。

実験の考察

 まず、実験の全体数が調べきれなかったので、実験の規模や信頼水準がどの程度かということは、考察しません。

 実験の結果をわかりやすく、パーセンテージで算出すると(点数÷9)
 『好感度』100%中      
 サクラA 73% サクラB 65%
 『会話のスムーズさ』100%中  
 サクラA 75% サクラB 66%
 8%と9%の差異があるのがわかります。

 しかし、好感度や会話のスムーズさの10%前後の違いで、人に対する好き嫌いはどれ程、影響されるのでしょうか。

 それらの根拠がない状態であるため、実験の10%前後の差異の効果は不明と解釈するしかない様に感じます。

その他の疑問

・サクラA、サクラB及び被験者は同一人物か。
 ∟会話という行為以外に、好感度や会話のスムーズさに影響を与える要素が存在するため

 具体的には、
 サクラ役の容姿、雰囲気、清潔感、仕草
 対面でない場合は、声質、声音、イントネーション、間
 などが他の要素として考えられます。

 また、被験者の好みや認知は当然違いが生じますので、その誤差をどの様に実験に反映させ、正確性の論拠を持たせているか不透明だと感じました。

ミラーリングの根拠

 ミラーリングの根拠として多くみられるのが、
『類似性』 自分と他者の性格、体格、価値観など、ある要素が似ている。
 の効果です。

 一方、逆の効果としては
『相補性』 自分と他者のある要素は異なるが、補いあえる関係にある。
 と、いうものもあります。

 どちらも、定められた条件下での一定の効果は否定はできませんが、無条件でどちらか一方が大多数に効果があるということはあり得ません。

 極論ですが、そうであれば夫婦ゲンカもありませんし、家族や兄弟、友人等の人間関係内で争うことは、ほとんどない、ということになります。
 ※類似性=好意=親密な関係、を前提とした解釈です

 しかし、人間関係はそれほど単純ではなく、愛憎が混同して複雑な構造であり、遺伝や成育歴によっても大きく影響されていると思います。

ミラーリング効果を確認できなかった実験

 日本でも、ミラーリング(主にしぐさ)の研究として2018年、兵庫教育大学で以下の実験が実施されました。

【実験名】
 対話状況におけるミラーリングが対人魅力に及ぼす影響

【実験目的】
 対話状況においてミラーリング(しぐさの模倣)がどの様な役割、機能を持っているか、同性間の対人魅力や会話の質にどの様な影響を与えるかを目的とした。

【参加者】
 被験者/男子大学生/54名
 実験協力者/男性/2名

【実験内容】
 実験者と初対面であることを条件とした男子大学生54名の被験者を実験群(ミラーリングあり)と統制群(ミラーリングなし)にランダムに割り当て、実験者もランダムに割り当てて実施。

 大学の一室を使用し、対面コミュニケーションにて、しぐさの模倣による影響を観察した。

【実験結果】
 全体として、本研究では対話状況においてミラーリングすること(会話相手のしぐさを模倣するもの)は「会話の質」「対話相手のイメージ」の評価を向上させる直接的な要因にはならなかった。

ミラーリングを肯定する実験

 一方、2013年に目白大学にて
『心理臨床場面でのノンバーバル・スキルに関する実験的検討』
 として実験が実施されました。

 この研究では、心理臨床場面におけるカウンセラーのノンバーバル・スキルのひとつであるミラーリングの効果について検討を行いました。

 実験協力者16人に対して、キャリア・プランについての模擬カウンセリングが実施され、カウンセラーのミラーリングと、クライエントの共感についての体験・評価との関連が分析されました。

 その結果、カウンセラーがミラーリングを行った群は行わなかった群に比べてクライエントがより共感を認知しやすくなり、ラポールの形成につながるポジティブな印象・体験を有意にもたらすことが示されました。

 これらの結果は、共感という現象の過程とミラーリングの関連をデータによって実証したものであると考えられました。

 しかし、この実験は、カウンセラーとクライエントという条件があり、通常の条件下とは、異なる作用が働く可能性が高いため、
『通常のコミュニケーションに応用して効果が、同等となる』
 と、いうのは無理な主張であるといえます。

まとめ

 現在、公開されている研究の内容では、ミラーリングの恋愛や接客、人材マネジメント等での相手に好かれるコミュニケーション技術としては、

『一定の条件下では効果があるかもしれないし、逆効果かもしれない』

 と、いった程度の心理学です。

 類似性を否定するわけでも、
 相補性を肯定するわけでも、ありません。

 ただ、コミュニケーションという行為は相手があって成立するものであるため、当事者双方の相互作用から効果が生じる、と考えられます。

 そのため、相手の好みにより、効果は左右されますし、同一人物であっても、モチベーションやその時の生活背景によって、違いが生じます。

 つまり、ミラーリングは好感度を上げるかもしれない行為であると同時に、好感度を下げる行為であるともいえます。

 それであれば、ミラーリングという、対人技術を用いるよりは、自身の魅力の向上や、相手の好みを自身のパーソナリティに受け入れれるか、ということに注力した方が、人間関係の結果として有用性があると思います。

 心理学で、メディアに露出されているものの大半は、商用目的のために都合のいい解釈をして、使用されているため、この様に根拠が曖昧もしくは脆弱であるものが殆どです。

 こうした情報により、大切な人生の価値を下げることにならないよう、私なりの心理学の解釈や、不完全性を伝えさせて頂けたらと思います。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたら幸いです。


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