髭男「プリテンダー」
いまさらなのですが、髭男のプリテンダーって、とても心が苦しくなる、いい曲だと思うのです。
藤原さんの掠れ声と裏声と抜けた声が微妙に入れ替わるのもいいし、PVも綺麗で素敵だと思う。あの主人公のなんとも言えぬ表情と最後に振り絞った勇気には賞賛します。
そんな中、1番はやはり歌詞。
韻を踏んだあれは、技巧や言い回しに留まることなく、どんどん自分のリアルに突き立てていく肉切りナイフのように思うのです。鋭利な刃物が捌いていくのではなく、甘くジューシーに香ばしい少し硬くなった肉を、ぐりぐり切り刻んでいく過程のように感じるのです。
気がつけば。
僕の感情は細切れ。断面は粗く、あれ果てた姿。
皿には、刻まれた僕の赤い血が溜まっているから、悔しくもまだそこに自分のレーゾンテールを求める。まだやれるんじゃないかっていう足掻きがそこにある。
でも。
でも、なんです。
ないんです。もとから。
いつか失うことも、もしかしたら初めから分かっていたのだけれど、背伸びして無理して手に入れようとして。手に入れた気になってみたけど、不安と焦燥と物足りなさがいつもあって。だからどんなに話してても空虚が付き纏う。
そして、気づいてしまうんです。あ、僕じゃなかったんだって。全ては僕自身の霧がかった幻想でしかなかったんだって。
認めたくない。わかりたくもない。
できれば、明日も明後日も君の笑顔を見たい。君に触れたい。
そんな逡巡があって。
最後に言える言葉は、そうなるよなって。
「君は綺麗だ」
あー。つらい。
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