Jamboard ✕ 日本語教育の可能性について考える。
以前から気になっていた、Google製の電子黒板「Jamboard(ジャムボード)」を体験してきました。
Jamboardに関してご存じない方は、こちらの動画で何となくご理解頂けるかと思います。
主な機能などについてです。
・ホワイトボードに、メモ,テキスト, 画像などを作成することができる。
・画面はアプリ等を介して他の参加者に共有できる。
・共有時はリアルタイムで変更が全ての端末に反映される。
・AIで手書きの文字を任意のフォントに整形。
・AIで手書きの図形を整形。
・カメラを搭載。Hangoutを行いながらホワイトボードを共有できる。
・Wi-Fi、または有線でネットに接続する。
・デジタルペンと消しゴムが付属。電池や充電不要。
・G-suiteの使用が前提。
・1基導入するのに、管理費、スタンド、輸送費もろもろで100万弱。
Google Cloud Japan 公式ブログにもいろいろ説明が出ています。
従来の電子黒板のように「教師が作ったコンテンツを映す」というよりは、
「協働的な活動を促進するコラボレーションデジタルホワイトボード」
と言ったほうが適当かもしれません。ネットワークにつながってますからね。NetflixやSpotifyなどの企業で導入されているようです。
「議論を簡単に可視化できる」「遠隔地と画面を共有したミーティング」などが想定されている主要な使用方法なのですが、何とかこの魅力的なツールを語学教育(主に「教室」での使用を想定)に生かせないかとずっと思っていました。いろいろとアイディアを妄想していたのですが、それらについては体験後の内容の中で書こうと思います。
日本では数社が販売パートナーとしてJamboardを取り扱っているようですが、今回は現在勤務しているセントラルジャパン日本語学校(開校準備中)から一番近い「株式会社電算システム名古屋支社」さんにお邪魔して体験をさせてもらいました。
ここから撮影した写真と動画を使って説明していきますが、画質や撮り方が悪いのはお許しください。
そしていちいち私の「ふ〜ん」とか「なるほどー」とかも入ってしまっていますがお気になさらずに。
①まずは全体像。初めて見ました。ちょっと感動。
②アシスタントの方が、まずは単純な線を書いて見せてくれました。
ペンや筆などの方法が選べます。色については今のところはまだ5色程度のみだそうです。
③次は書いた線を消しています。付属のイレイザーでも消せますし、指で消せる設定なら指でも消せます。また指をピンチアウトすることで、広範囲を消すこともできます。
「粉が落ちる」エフェクトもついています。この辺りはGoogleさんのこだわりがあるんでしょうね。
④次は手書き文字認識です。書いた文字をAIが判断し、コンピュータのフォントに整形してくれます。
現段階では日本語のフォントは表示されているようなゴシックのみだそうです。そもそも文字を数種類使う日本語は、なかなかこういうシステムに取り入れるのが難しく、日本発売が遅れた理由もこの辺りにあるとのこと。
ちなみに現段階では漢字の「さんずい」の認識がかなり厳しくほとんど認識してくれませんでした。他の漢字や、アルファベット、かな/カナなどは問題なく変換できました。
なお、この機能はAIの使用が前提なので、オフラインでは使えません。
⑤次は手書きの図形認識です。文字と同じように整形してくれます。
⑥「付箋」の機能もあります。これは同じJamを共有している人ならアプリからでも貼れます。
動画内でも確認できますが、日本語入力はGoogleのキーボードです。フリック形式にも通常のキーボードにも切り替えられます。
⑦ちょっと前に話題になっていた「AutoDraw」も使えます。絵が下手だと誤認識もあるようですが・・・笑
⑧左側にブラウザを立ち上げてWEB検索をすることもできます。またその画面を簡単な操作で切り取って、Jamboard上に貼ることもできます。
⑨ブラウザで設定して画像検索をすることもできますが、左側の設定を選べば、初めから画像のみで検索することもできます。
⑩Google Driveからファイルを呼び出して、任意のページなどを取り出して貼り付けることもできます。ここではPDFを使用していますが、Googleドキュメントなども呼び出せるとのことです。
⑪端子やスイッチ類です。
側面
背面。LANケーブル挿せますね。
側面のボタン類。
一番上のボタンは、パソコン等のセカンドスクリーンモードとの切り替えです。なのでKeynoteやPowerPointで授業を進めて、必要な時にJamboardの画面に切り替えられます。スイッチを押して画面切り替えが反映されるまでは10秒もかからなかったので、授業でもそこで流れが途切れてしまうようなことはなさそうでした。
⑫最後にびっくりする機能が。
クリーニングすべき箇所(手の脂などで汚れている箇所)を判定してくれるモードがあります。青色になっている部分が汚れているので、その部分をクリーニングクロスで拭いていくと青色が消えます。
その他補足情報など。
・一つのJamboardのファイル内で、20枚のシートが作成できる。
・中身はandroid。アップデート対応とのこと。
・今後のアップデートで機能が増えていく。
・Jamboardの共有は招待やコードの発行、スマホのNFC(!)でできる。
・書き心地はなめらかな感じ。
・今の所55インチのみで、別サイズの展開はない。
一点だけ気になる点が。
暫定の解答とのことでしたが、OSのアップデートサポート期間は5年だそうです。(Chromebookと同じ)
サポート期間を過ぎても使えると思いますが、5年の間には多くの新機能が追加されると思います。もしそういう新機能が使えない、となるとちょっともったいないなあというのが本音です。サポート期間は延長される可能性もあるとのことでしたが、安いものではないのでせめて10年ぐらいはサポート、もしくは買い替え時に割引とかあるといいんですが。
一通り説明をしていただいた後、30分ほどいろいろ触らせてもらいました。
非常に楽しかったです!
で、
このJamboardを使った日本語教育を考えた場合、端末の数によって、大きく以下の環境に分かれるのではないかと思います。
①Jamboardが1台で、主に教師が使う。
②Jamboardが複数台ある。学習者のグループごとに1台ある。
1台70万程度(いろいろ込みで100万ぐらい)の機材を全ての教室に複数台揃えられるところは稀だと思うので、基本的に①で考えてみようと思います。
①アイディアを集約する場としての機能
どのようなレベル、科目の授業でも学習者がグループになって、アイディアを出したり、解答を導き出したりする場面があると思います。最終的に教師がホワイトボードなどにアイディアをまとめて書き出したりすると思うのですが、学習者の端末からどんどんアイディアを付箋の形式でJamに貼っていくことで可視化できると思います。
この方法のメリットとしては、
・アイディアの集約の際に教師が板書しなくてもいい。
・板書の時間が必要ない。
・早いグループはどんどん付箋を貼っていくので、他のグループも負けないようにアイディアを出すようになる。
・Jamを共有することで、全グループのアイディアを全員がいつでも確認でき、他のアイディアを元にした別のアイディアが生まれやすい。
・・・などでしょうか。
また、教師が板書する場合は当然正しい日本語で書くことになりますが、自分たちが書いた文章等が他の学習者にも見られることで、正確さに配慮して書くようになるかもしれません。
(余談になりますが、正確さの練習というのはこういう状況で行うべきだとっ考えています。何のために正確に書く(話す)のか、それは「見る人(読み手/聞き手)」がいるからですよね。それらの視点を書いたパターンプラクティスなどは一見正確さに注意するように見えますが、本当の意味での正確さに注意する、という行動にはつながらないような気もします。)
②議論を可視化する練習
何らかの議論を進行したりまとめたりする場面っていうのは、誰しも遭遇する場面だと思うんですよね。たとえば大学のゼミや会社の会議など。
で、私のような頭のアレな人間はよく会議の主旨や流れが見えなくなってしまうことがあります。「えっと、それは前の話の何とつながるんだっけ?」とか「え、今何の話してたっけ?」とかが頻繁に起きてしまいます。
なので、人の話を聞きながら流れをノートに図式化したりして、議論についていけるようにしています。私がやっているのは個人的な行為で本当に落書き程度のものなのですが、ファシリテーターなどの立場で場全体の議論を可視化する時に、この図式化のテクニックは非常に重要になってくると思います。
よく学習者に授業の進行を管理してもらうことがあります。それはレベルによって、単純に問題の答え合わせの進行をしてもらうことだったり、もっと複雑で、答えのない問題についての議論を進行してもらうこともあります。
そのような時には、概ね日本語レベルの高い学生を進行役に選んでいるのですが、優秀な人でも議論の流れを管理するのはなかなか難しい部分もあるのだな、ということを感じます。
そんな時にJamboardを使って、可視化しながら議論を進めていくと、「議論の進行を管理する」というスキルの向上に貢献するのではないかな、と感じます。
バリエーションとしては、進行役と板書役を分けるのも面白そうです。板書に徹する人は、議論の流れのみに集中できますから、これはすなわち自分が大学の講義を聞いたり、会社の会議で重要な内容を読み取る、などの練習になるわけです。
このようなスキルは非常に重要な能力の一つだと思うのですが、日本語教育の実践でそのような場面を書籍や論文で読んだことはあまりありません。
ちなみにこのような「議論を可視化する」という場面で参考になる書籍というと、こちらの本が浮かんできます。
これはファシリテーション・グラフィックの本なのですが、シリーズ本で、「ワークショップデザイン」「チーム・ビルディング」「ディシジョン・メイキング」「ロジカル・ディスカッション」もあります。
特に「ワークショップデザイン」は、協働的な授業デザインを考える時や、教員研修の構成を考える時などに非常に有効に使わせてもらっています。これは本当におすすめです。
③日本語ボランティアのおしゃべりを助けるツールとして
現在、東海地方の日本語ボランティアのアドバイザーとして、いろいろな現場に行って、日本語支援の方法をについてお手伝いをしたり、あるいは日本語支援ボランティアの講座を担当したりすることがあります。
その中で、いわゆる「教え方」について講義をしたりすることもあるのですが、やはりボランティアの日本語支援の現場で「教える」という行為をすることには限界があるとも思っています。その理由としては
①「教える」という行為が伴う場合、学習者からある程度の専門性を結果として求められてしまう。
②「教える」という行為が、支援を提供する側、支援を受ける側、という立場を固定化させてしまい、対等な市民であるはずの関係性ではなくなってしまう。
この2つをいつも考えていて、例えば「フォトランゲージ」「タイムライン」「ダイヤモンドランキング」などのコミュニケーションを促進する方法を用いてはどうか、などの提案もしています。
(ちなみに文化庁の『「生活者としての外国人に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について』の中でもこれらの方法は取り上げられていました)
先日のFacebookの投稿のコメントにも書いたのですが、私は結構雑談が苦手で、「何かおしゃべりしてお互いに距離を縮める」っていうのがあまり得意じゃないんです。なので、フォトランゲージの写真など、一つ具体的で、話題になるものがあるだけですごく助かります。
で、これと同じような方法でJamboardを使用すれば、色々な写真を使って話せますし、分からない言葉があれば画像検索でそれを引っ張ってきて理解したり、組み込みのブラウザを使ってGoogle翻訳を利用することもできます。巨大な「コミュニケーションボード」のような使い方ですね。そこで出てきた言葉などを「ふせん」として貼っておいてもいいと思います。
で、最終的にそのJamboardのデータをGoogle Driveを通じてシェアすれば、それをそのまま学習のポートフォリオとして保存していくこともできます。(ちょっと古い方法になりますが、その画面を写真に撮っておく、というのでもいいのかな、と思います)
④遠隔授業
もともと遠隔地での会議も使用方法の一つになっているので、そのような使い方も可能だと思います。Hangoutを入れれば顔を見ながら、文字や絵、写真を使って授業が行えます。但しその際には、相手がJamboardかスマホ、タッチパネル機能のあるChromebookを持っている場合に限られます。
その他、「写真を出してそれについて説明する」などの単純な活動であれば、いろいろと思いつくと思います。
機能自体はシンプルなものが多いので、それの「組み合わせ」によって、いろいろな事ができるのではないかと思います。高機能だけど使い道が限定されている電子黒板よりはよほど可能性があるのでは?と思いました。
ちなみに他社が出している電子黒板と言えばMicrosoftのSurface Hub等があるそうです。
以上、Jamboardの体験から、日本語教育の場面でどんなことができるかを考えてみました。
相変わらず「妄想」の域を出ないのですが、いろいろな可能性を考えるきっかけになりました。
特に「コラボレーション」のために作られた機器であるので、自分が日本語学習の中で重要視している「協働」とはすごく相性がよさそうに感じました。是非導入に向けて動いていきたいと思います。
今後も使用方法をいろいろ考えていこうと思っていますが、何かアイディア等あればぜひ教えてください!よろしくおねがいいたします。