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優しさと温もりが溶かすもの。心からの"ありがとう"を、あなたに。
心に浮かぶ思いを、色であらわしたい。
その日、図工の時間に描くことになったのは、読んだ本の感想を絵にする"読書感想画"。
課題として、十歳のわたしが感想を描くことになった作品は、新美南吉の「ごんぎつね」でした。
村人の兵十が獲っていた鰻を、悪戯心で逃してしまった小狐のごん。数日後に、兵十の母親の葬儀に出会い、彼が獲っていた鰻が病気の母親のためのものだったことを悟ります。
その後、悪戯の償いとして、ごんは栗や松茸を兵十のもとへ届けるようになるのですが、わたしが絵にしたのはそのときの光景です。
後悔と痛み、兵十のかなしみを慮る気持ち。
文章には書かれていないたくさんの思いも、きっとごんの心の中には浮かんでいたはずで、その感情を色を使って表現したいと考えました。
栗や松茸を届けに行くごんの背景に、洞窟の入り口のような大きな円を描き、その円の中にとりどりの色を筆でのせていったのです。
淡い青はかなしみのいろ。灰色にくすむ後悔。
紫に鎮魂のおもいを滲ませて。
やさしさを表すやわらかな桃色を、そっと広げる。
仕上がった絵を先生に見せると、困ったような顔をされました。
「ごんの後ろにどうしてこんなに色があるのかな?
森の中を進んでいるはずだから、たくさん木が並んで
いるようすをかいたほうが、見る人にとってわかりや
すいと思いますよ」
そう言われて、ごんの心の中をあらわしたのだと、つたないことばで説明したのですが、理解してもらうことはできませんでした。
そして思ったのです。
わたしの伝えたいことは、いつだって伝わらない、と。
自分の気持ちをうまく話せず、話しても伝わらない。
そんな経験をかさねるうちに、思いをことばにすることや、人と接することを、怖いと感じるようになっていきました。
「なんでそんなものが好きなの?」
「なにを考えているのか、よくわからない」
そんなことばを投げかけられるたびに、わたしはみんなと違うのだ、だからそれを隠さなければいけないのだと考えるようにもなったのです。
いつしか家族にさえも、自分の本心を語らなくなっていきます。
"説明しても、きっとわかってもらえない"
自分の中でそう決めつけて、ことばを尽くして語ることを、あきらめてしまいました。
そんなふうにして、思いをことばにすること、人と深く関わり合うことをずっと避けてきて、二十年以上、友達と呼べる人もいないままです。
それなのに、どうしてわたしは、noteという場所で文章を書こうと思ったのだろう。
気がつけば、今年の一月半ばから始めた毎週連続投稿も、今日で50週目を迎えます。
はじめの頃は、自分でも書きたいことが明確ではなく、そのときどきに思い浮かんだことを短い文章にまとめるのが精一杯でした。
それなのに、読んでくださる方がいること。
さらに、コメントまでしてくださる方がいることに、とても驚きました。
こんなに素敵な文章を書ける方々がいる場所に、自分が居てもいいのかな。そんな不安を抱えながらも、ここでなら、自分の気持ちや好きなことについて、表現しても大丈夫なのかもしれないと感じはじめ、自分の奥底に閉じ込めていた感情をことばに託すようになったのです。
その先には、想像をはるかに超える、たくさんの方との出会いがありました。
日々のささやかな出来事をきらめくようなことばで綴られた文章、見ていると穏やかな気持ちになるイラスト。
目にする作品のひとつひとつが、ゆっくりとわたしの心をほぐしていくのを感じたのです。
そして、自分が今年書いた記事に頂いたコメントを読み返すと、胸の奥が温かくなっていくのを感じます。
特に心に残ったのは、"出会えて良かった"ということばを、贈って頂けたこと。
うれしい、ということばだけでは言い表せない気持ちを抱くことが幾度もあり、その積み重ねから、ひとつの思いにたどり着きました。
わたしは、存在していて、生きていてよかったのだ、と。
好きなことへの思いや、書いた文章を肯定されるというのは、自分自身をも肯定されることのように感じられます。
人と関わることが怖いという、大きな氷の塊のような気持ちを抱きながら生きてきましたが、その氷を溶かしてくれたのは、noteで出会った方々の優しさと温もりでした。
そして、溶けた氷の中から現れたのは、自分の中に眠っていた、"伝えたい、届けたい"という思い。
傷つくことを恐れて、表現することから逃げてきたけれど、誰かの心にほんのすこしでも灯りをともすことができるのならば、これからも書き続けていこう。
そう思えるようになりました。
休日に記事を書くことにしていますが、今日が年内最後のお休みの日。明日から元日まで仕事に行くので、この記事が今年の書きおさめとなります。
今年出会ってくださったみなさまへ、深い感謝の気持ちをこめて。
読んでくださり、ありがとうございます。
noteという場所でご縁があったことを、心からうれしく思っています。
来年も、素晴らしい一年になりますように。
それでは、良いお年をお迎えください。
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