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墓場

18
練習用で執筆した小説の墓場。 基本的に掌編小説です。
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記事一覧

【day18】暁

 月はもう落ちていた。けれど太陽はまだ昇っていない。海は、布のように皺立つ波のほかに空と見分けるものがなかった。果ての空がほの白む。海と空を分かつ太陽の鬣が光の稜線となり、黒を模していた波は、ひとつまたひとつと後から後から走るいくつもの筋が通されていく。水面の下のその筋は、果てしなく互いの後を追い、追いかけあっていた。

 どの筋も岸辺に近づくほどに高く盛りあがり、岩と砕けて飛び散り、しぶきの白い

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【day17】虚像の崩壊線

 小学六年生の国語の授業中に、もしも銃を持ったテロリストがやってきて立て籠もり事件が起きたらなんて考えていた。テロリストたちは各教室に二名から三名ずつでやってきて「ここは我々が占拠した! 死にたくなければ大人しくしていろ」と声を張り上げるのだ。黒板側に一名、後ろに二名の配置で、黒板側で先生に銃を突き付けている一人が威嚇の意味も込めて銃声を響かせる。同時に上がる悲鳴と声を押し殺して泣くクラスメイト、

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【day16】導

 カッターで人を切りつけたことがある。いじめられバカにされ、ぐちゃぐちゃになった心のままに筆箱から取り出したカッターを教室の中で振り回していたら、相手に突き飛ばされて関係のない女の子を切ってしまった。

 女の子は俺よりもひどい悲鳴をあげて泣き、俺は尻餅をついたまま貧血を起こしたみたいに全身の力が抜けて動けなくなった。血の気が引くというのはこういうことかと他人事のように思ったことをまだ覚えているほ

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【day15】写真

 四十歳になった自分は想像できる。

「今月も営業成績トップかぁ。五年連続記録更新とはさすがエースだな」

「頑張るお父さんは強いんだよ」

「五年前は結婚もしてなかっただろ。はぁー才能マンは怖いね」

「努力だよ努力」

「先輩、何か秘伝のコツとかあるんですか?」

「ひゅーっとやってひょい、ひゅーひょいだ」

「五十嵐さんには聞いてないですよ」

「最近言葉強くない?」

「コミュニケーション

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【day14】歩幅

 物心がついた時分、部屋で一人遊んでいたらもう一人の僕が現れた。

「だれ?」

「……」

「一緒に遊ぶ?」

 もう一人の僕はこくりと頷くだけだった。幼稚園でも友達がいなかった僕はもう一人の僕をすんなり受け入れ、またとても楽しくて、おやつの時間も忘れて遊んでいた。不思議に思って部屋にやってきた母親はヒステリックを通り越して固まり、すぐに父親へと電話した。よく分からずに帰ってきた父親もやはり固ま

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【day13】青さ

「早いものですね」と縁側に並んで座る君が呟いた。

 秋の暮れにしてはあたたかい夜だった。もうかれこれ七十年、妻と出会ってからは五十四年もの間見続けた月は変わり映えしないものだったが、「うん、早いものだね」私たちは違っている。

 子供たちは巣立ち、孫の顔を見ることもでき、仕事は退職して久しい。年金もあり貯蓄も十分で老後は緩やかに過ごすのだろう。余生というにはいささか長い気もしているが、昔から言わ

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【day12】MY POPSTAR

 砂金が取れると噂される川で遊んでいたら空から女の子が落ちてきた。慌てる暇もなく僕は受けて止めていた。

 おかしな話だけど受け止めた腕にも脚にも衝撃はなく女の子は羽のように軽い。上を見れば自殺者がよく利用する橋があり、二十メートルから三十メートルといったところだろうか、目を凝らせば一足のスニーカーが不自然なくらいきれいに並んでいる。女の子は裸足だった。靴下を履かないタイプなんだなと少し軽蔑した。

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【day11】天啓

 ある時から人々の手の甲にはその者の適性や生涯能力上限を示す紋様が出るようになった。分かりやすく言えばRPGゲームに出てくる職業とレベルみたいなもので、あなたは戦士の適性がありレベル上限は五十ですというのが生まれた時から分かるのだ。

 人々はこれを天啓と呼び、統計調査の結果から天啓は大きく分けて四種類に区分されるようになった。当然のようにカーストや差別は生まれ、表向きはどうであれ能力区分によるピ

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【day10】こたえ

「お前には分かんないよ」

 そう言われた日から弘樹と普段通りに話すことができなくなった。教室に入って「おはよう」と交わす時も、授業中にくだらない会話で盛り上がる時も、昼休みに遊ぶ時も、部活の練習中でさえ壁越しに話しているみたいな埋められない距離がある。

 何が壁になっているのか、原因は分かっている。新しく入部してきた一年生たちもようやく様になって臨んだ秋季大会、四×百メートルリレーで弘樹がバト

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【day9】猫

「夕焼けに足を止めることの方が多いじゃんね」

 海沿いの歩道を夕陽に照らされながら歩く彼女が言った。「あの夕陽に向かって走れ」というフレーズの青春熱血ドラマに感化されて散歩にきたのだが、実際に見た夕陽への感想はそれらしい。

「砂浜で走ったら砂まみれになるし、靴履いたまま海に入ったら靴が濡れるし、ベタベタしてそれどころでもないし。何も考えずにその場の雰囲気に流れて行動することが青春なのかな。そう

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【day8】ダイブ

 裸足の指で岩の縁に立つ。小石の刺さる感覚も今は気持ちがよかった。

 少し赤くなったつま先の奥に岩を打ちひしぐ波の砕けた地面が見えて、目を逸らした。黒に近い緑色をした海と、太陽に青く蝕まれた空。雲もなく風もない、ただ一つの船が遠くの方で浮かんでいる。頬を伝い顎の先で離れた汗が音もなく我先にと海へ吸い込まれた。

 瞬間、僕は飛び出していた。

 髪が逆立ち、

 もがきようのない手足が空を踊る。

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【day7】CMYB

「亮介ぜったいあんたのこと好きだって」

 部活終わりの帰り道、もう何度目かも分からないほど楽しそうに言う実生に「そんなわけないでしょ」と同じように返す。ここ一か月近い日数の定型文になりつつある会話に少しぞっとした。

「だってネットの片づけとか支柱とかあんたのばっかり持とうとするし、ビブスの回収も一番早いじゃん」

「そう言われるとそうかもだけど、それで好きだっていうアピールは幼稚過ぎない?」

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【day6】余生

 僕は堤防の上に立ち、深夜の海を眺めている。足元から先はなだらかに砂浜が下っていき、なんでもかんでも引き込んでしまいそうなほど真っ黒い波が砂間との境界を曖昧にしていた。潮の匂いはあまりしない。ただ波の音が僕を誘っているみたいで逆にしり込みしている。何にってそりゃあ、これから入水自殺でもしようと思っていることに対してだ。

 なんてことはない、人生に嫌気が差したんだ。十代後半から二十代前半にはよく見

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【day5】墓参り

「あなたもお墓参りですか」

 燃えきらぬ線香の煙を前に合掌しているところで声をかけられた。目を開けて声のした方を向くとスーツ姿のいかにも誠実そうな青年——というには少し老けているだろうか——が右手に花束を左手には水の入ったバケツを持って立っていた。あなたもというからにはこの青年もそうなのだろう。

「ご友人かなにかお知り合いの方でしたか?」私は墓石に刻まれた琴畑という文字を見ながら訊ねた。

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