【day11】天啓
ある時から人々の手の甲にはその者の適性や生涯能力上限を示す紋様が出るようになった。分かりやすく言えばRPGゲームに出てくる職業とレベルみたいなもので、あなたは戦士の適性がありレベル上限は五十ですというのが生まれた時から分かるのだ。
人々はこれを天啓と呼び、統計調査の結果から天啓は大きく分けて四種類に区分されるようになった。当然のようにカーストや差別は生まれ、表向きはどうであれ能力区分によるピラミッドを受け入れ生活をしている。
そんな時代に生まれた僕を両親は泣いて喜んだ。理由は至極単純で、ピラミッドの最底辺に位置する両親と違い僕はその四種類のどれにも当てはまらなかったからだ。往々にして、大別されることのない希少な天啓を持つ者はいい意味で歴史に名を残す存在になることが多い。どこかの国の大統領、有名な発明家、著名な作家などがそれだったりする。
「生まれてきてくれてありがとう」
「将来が楽しみ」
そんなことを毎日言われてすっかりその気になっていた四歳の僕は、適正と能力の鑑定を行うべく保健所へと行った。僕よりも両親の方が必死な様子だったことを今でも思い出せる。鑑定は三十分ほどだった。
「お子さんね、これ。非常に言いにくいのだけどこれね、落伍者や犯罪者、あるいは人間的何かを欠落した者に見られる天啓だよ。いわゆる廃棄物さ」
廃棄物。たしかに届いたその言葉は、見つかり次第どこかへ収容され一生太陽の下へ出ることができない人以下の化け物と言われる存在のことだった。幽霊や妖怪のように物語の中、お伽噺や躾のための脅し文句のはずだった。しかしいままさに僕がそうだと告げられたのだ。
「待ってくださいそんなわけがない!」
「そうですよ! 第一そんなのお伽噺じゃないんですか」
両親の目が赤く染まっていくのが見えた。その形相が僕には化け物に見えた。逃げなきゃ、と思って扉の方を振り向くと、黒いスーツを着た大人が二人立っていた。もうダメだ、と諦めた。
「ここだけのお話ですがね、お伽噺ということにしたんですよ。これは本当にあったことですが、廃棄物の紋様を持った子供が生まれたらその辺に棄てたり臓器売買に使ったり、もしくは奴隷のように売り買いしたりされていた時代があるんです。一応人権なんてものもありますからいつまでも静観しているわけにもいかず、表向きは物語の中のお話として情報統制をして、保健所での鑑定制度を設けて、すぐさま保護できるようにしたっちゅうわけですわ。よって、お子さんはこちらでお預かりしますよ。ああそれと謝礼もでますからね」
有無を言わせぬ物言いに僕を見る両親だった人たちの目は先ほどまで僕だったものを写しながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。そそくさと立ち去る両親だったものたちの背中を見ながら僕は手を引かれていく。
生まれた時点で取り返しのつかない人生。
これが、齢四歳にしてい知る社会の常識だった。