獣のタタキ
私は海っ子なので、肉よりも魚が好き。ラーメンにチャーシューはなくてもいいし、最近流行りの低温調理の半生っぽい肉が麺に乗っていたら、亭主に食べてもらう。肉は最小限でいい。魚さえあれば。
でも、悲しいかな東京は魚が高い。
なるべくリーズナブルな魚を探して、週末はあちこちのスーパーを巡り歩いている。
お盆明けだったか、いつものスーパーで鰹のたたきを買った。戻り鰹のシーズンで、刺身のサクからたたきまで、ショーケースにたくさん並んでいた。
その夜、玉ねぎスライスとニンニク、生姜も用意して、いざ、晩酌。
がっ。
これがとても生臭い。大量の生姜やニンニクでごまかせるレベルてはない。
このままでは食べられないと判断し、酒と醤油、砂糖で煮詰めてみる。私の得意料理、鰹の角煮である。これも大量の酒を投入したのに、生臭さが消えない。
結局、食べることなく、無駄なお金を使っただけだった。
そして先週末。
別のスーパーで真空バックの味付け鰹のたたきを買った。
玉ねぎ、青紫蘇、茗荷、カイワレ、生姜をたっぷり乗せて食べてみる。
これがすごい。
口に入れた瞬間、獣の臭いが広がった。
他に例えようがない。
「獣」の臭いなんである。
海の生物の匂いではない。
土や植物や縄張りのためのマーキング。それらが混沌と混じりあった匂い。
昔食べた山羊のチーズや、鯨の刺身を思い出した。
でも、それらは然るべく味であって、鰹のたたきが獣臭いって、あり得ない。
吐き出してしまいたかったけれど、一度口に入れてしまったので、なんとか飲み込んだ。
亭主も同時に同じように感じていた。
心が痛むけれど、これはそのまま生ゴミとなった。
一体、どういう過程を辿ればあんな味になるのか。まったくもって謎である。
最近、魚にツイてない。
故郷の町の干物が食べたい。
年末の里帰りで、たくさん買い込んでこよう。