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さようなら、外脛骨

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左有痛性外脛骨の手術をし、コロナ禍の中1ヶ月入院しました。 それを小説にしました。
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#連載小説

読まなくていい序文 さようなら、外脛骨

 序文は読む必要性はないが、書いておく必要性はあるので残しておく。

 さくらももこの「なんでも経験してやろう」精神を見習い、手術も経験しておいて損はない。手術中の状況を楽しもう。ということで全身麻酔ではなく頚椎麻酔を選ぶ予定だった。しかし、人生初の手術が不安で不安で不安で仕方なく、整形外科医の「全身麻酔でいいですね」という問いに「はい」と返事をしてしまった。つまり僕は手術中全身麻酔で熟睡していた

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第1話 ファースト・インパクト さようなら、外脛骨

 初めて痛くなった日は定かではない。5年以上10年以下の間だろう。精神病院で電気けいれん療法という全身麻酔をして頭に電気を流す治療をしたせいで過去の記憶がほとんどのこっていないからだ。その顛末は恋する閉鎖病棟を参照されたい。

 が、初めての痛みは記憶している。深夜トイレに行こうとして左足を床について力を入れると、脳みそにショットガンをぶっ放されたような痛みが走った。もちろん僕はカート・コバーンで

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第13話 リハビリ5 2021年8月6日 さようなら、外脛骨

第13話 リハビリ5 2021年8月6日 さようなら、外脛骨

 朝、担当看護師に売店で欲しいものがあると伝えると「車椅子で行っていいですよ」と言われる。驚いたので「一人で行っていいんですか?」と返すと「一人が心配ならヘルパーさんについて行って貰いますか」と言われたので慌てて一人で行くと返す。もっと早くに言っておけばよかった。
 エレベーターで降りて連絡通路を通りまたエレベーターで降りる。一般用のエレベーターでは中で一回転出来ずバックして降りることになってしま

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第15話 リハビリ7 2021年8月8日 さようなら、外脛骨

第15話 リハビリ7 2021年8月8日 さようなら、外脛骨

 あまりに暇なので紙に落書きをしていると、それに深田えいみやハムスターが触れる。看護師に触れて欲しいから落書きをしたように思われてるのではないか、と不安になる。そうではなく、暇な時に適当な落書きをする癖があるだけで、そしてその落書きをいつものように適当に放置しただけで、別に看護師にそれを見せて反応を引き出そうとしたわけではない、と説明したかったが無意味なのでやめておく。決して構って欲しいからやった

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第16話 リハビリ8 2021年8月9日 さようなら、外脛骨

第16話 リハビリ8 2021年8月9日 さようなら、外脛骨

 朝、二度目のPCR検査。検査の痛みに左足が反応し痛みが走る。朝から流れがよくない。
 読書をしたり音楽やラジオを聴いていると掃除だのシーツ交換だの検温だの食事だのなんだのとやってきて中断することに若干のストレスを感じるが、それを感謝で押し殺す。掃除などはクレーム避けのためなのか、病室に入る、カーテンを開ける、ゴミ箱を片付ける、床を拭く、等々に断りを入れるため「勝手にやっといてくれよ」と思ってしま

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第17話 リハビリ9 2021年8月10日 さようなら、外脛骨

第17話 リハビリ9 2021年8月10日 さようなら、外脛骨

 朝7時に採血。新人の女性で上司らしき女性に指導されながら。
 主治医がやってきて「来週ギプス巻き直しの際に踵をつけます。足ついてよくなりますからね。足を内向きに捻った状態でずっと固めてるので最初は動かしづらいかもしれません。退屈ですよね。もう少しで終わりますからね」と言い去っていった。
 松葉杖で下に降りて自販機でペットボトルのアイスコーヒーを買う。デイルームの自販機にはなぜかコーヒーが入ってい

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第18話 リハビリ10 2021年8月11日 さようなら、外脛骨

第18話 リハビリ10 2021年8月11日 さようなら、外脛骨

 朝食後に体重測定。1キロだけ痩せていた。食事のおかげだろう。
 昼食後にリハビリ。コロナが明けたらなにがしたいかという話題に、トレーナーは「ビアガーデンに行きたい」という。週末友人たちとビアガーデンに行くのが定番となっているようだが、コロナ騒動以降一度も行けていないとのこと。自分が感染することより自分のせいで周りが感染してしまうのが怖いと言うのに同意する。僕はビアガーデンに行ったことはない。特に

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第19話 リハビリ11 2021年8月12日 さようなら、外脛骨

第19話 リハビリ11 2021年8月12日 さようなら、外脛骨

 昼まで寝る。朝食の記憶なし。
 昼食後にリハビリ。初回以来久しぶりにリハビリテーション科で筋トレと松葉杖での歩行。
 流れでピアスの話に。僕は高校時代に安全ピンで開けて、その後いくつか開けて、斜めに空いていたので一度塞ぐまで待って、最終的に病院で2つ開けてもらった。30過ぎてピアスは痛々しいなと気づき外したものの穴は塞がらず。というような話をするとトレーナーに「12個開けていました」と言われてび

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第20話 リハビリ12 2021年8月13日 さようなら、外脛骨

第20話 リハビリ12 2021年8月13日 さようなら、外脛骨

 高校生の後に入った80前後の爺さんが、構って欲しいという気持ちを隠さずに女性看護師や介護士に話しかけているのが好印象。

 昼食前にリハビリ。左足に重りを載せての筋トレ。右足に重りを載せてみると左よりも軽く上がる。「これだけ左足の筋肉が落ちてるってことですよ」とのこと。
「あ、今日は一人で来たんですね」と言われる。昨日一人で来ていいと言ったことを忘れているようだが、もちろん指摘はしない。毎日たく

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第21話 リハビリ13 2021年8月14日 さようなら、外脛骨

第21話 リハビリ13 2021年8月14日 さようなら、外脛骨

 デイルームでコーヒーを飲みながら読書。読書はかなり進んでいる。入院時には電子書籍リーダーを持っていくことをおすすめする。紙だと10冊程度しか持っていけないだろうが、電子書籍であればいくらでも持っていくことが可能な上ネット回線があれば新たに本を買って読むこともできる。活字も漫画もたくさん持ち運びができたくさん読むことができる電子書籍は素晴らしい発明だ。

 今日と明日は土日のためリハビリがない。ト

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第22話 リハビリ14 2021年8月15日 さようなら、外脛骨

第22話 リハビリ14 2021年8月15日 さようなら、外脛骨

 片足けんけんで洗面台まで行くようになったので、介護士に食後の歯磨き用に持ってきて貰っていた小さなアルミの桶を断る。ついでに左足を前に伸ばした状態にできる車椅子を普通のものに変えてもらう。狭いスペースでの動きがやりやすくなる。伸ばす車椅子は付添が手押しできるグリップがついておらず、途中でカットされている。それがちょうど肩甲骨に当たりとても痛い。
 当たり前の話だが、車椅子は椅子代わりに長時間座るこ

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第23話 リハビリ15 2021年8月16日 さようなら、外脛骨

第23話 リハビリ15 2021年8月16日 さようなら、外脛骨

 昼前にリハビリ。「今週には退院じゃないですか」とトレーナーに言われる。この間食べた餃子についてトレーナーが話す。
「今日はもう遅いから買って帰ろうよって言ったんですよ。王将の前を通ったんで餃子買ったんですが、すごく美味しいですね」
 続いて誕生日の話に。
「誕生日はお祝いするんですか?」
「一人暮らしなのでしませんよ」
「私は一人暮らしの時やってましたよ」

 以上の会話を一行でまとめると「私は

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第24話 リハビリ16 2021年8月17日 さようなら、外脛骨

第24話 リハビリ16 2021年8月17日 さようなら、外脛骨

 脂肪肝のため入院前から定期的に行っていた肝臓のエコー検査の予約が急遽今日となったため朝食抜きでリハビリ。
 リハビリも話すことがなくなる。無言が続くが、無言がちょうどよいのかもしれない。手のひらの痛み軽減のためグリップ部分に包帯を巻いてくれたが、その際トレーナーが眼前で屈み視界いっぱいに真っ白なナースパンツに浮かぶ下着の線が映る。あまりの刺激で頭がぼうっとする。
 病室に戻るとすぐに検査に行けと

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第25話 リハビリ17 2021年8月18日 さようなら、外脛骨

第25話 リハビリ17 2021年8月18日 さようなら、外脛骨

 35歳の誕生日。誕生日を人に祝われなくなったのはいつからか、思い出せない。自分で祝うということもない。しかし今日は祝われる可能性がある。トレーナーは言った。
「ここでお祝いしますよ」

 ただの社交辞令だ!
 わざわざそれを言うか?
 もう自分に期待するのはやめなさい!
 担当する患者全員に言うのか?
 話のネタにしただけ、そんなもの本気にするな!
 連絡先ぐらいは交換できるんじゃないか?
 仕

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